26日目 チーム・コント
返事がきたので呼び出してみる。メヌール、欠片ちゃん、ダークエルフズ。私が知る高魔力者上位五名だ。欠片ちゃんは教会だし、ダークエルフいるしでおろおろしだしたがサンドラが説明をしてくれているので任せておく。
メヌールはディランを担いだ明らかに変な人だが一番この場を理解してくれているので躊躇いなく杖に手を伸ばして魔力の注入をしてくれた。然り気無くダークエルフズも杖に触れて説明を続ける。ぐんと重くなった杖をコントロールして私の魔法にみんなの魔力を注いだ。
こちらは謎の友情勝利的な大集結をはじめたが、教会サイドはそんなこと言ってられない。事情を知らないあちらから見たら謎のじじい、若い女性、伝説の悪魔的生き物三人。今までのかっこよさげな舞台風台詞や死闘かっこ笑いなんか一気にぶっ飛んだ。正直すまないと思う。
「なっ、だっ、てんっ、なっ」
多分、何だ、ダークエルフ、転移、何故、この辺の言葉を発して狼狽えられた。今日の翻訳魔法さんも冴え冴えである。もう悪役ぶる必要もないので真面目に話をして帰りたい。
「とりあえず魔力はどんどん吸っちゃうよ。それで奴隷売買の責任者か詳しいのは誰?あとあれだ。アラリア内戦について工作してるとこのトップも。他に聞かないといけないのあったっけ?」
何度も襲撃するのは御免である。必要な情報を抜いて無力化したらもう近寄りたくない。記憶はこちらで抜いちゃうのでさっさと人を出せと要求してみた。
「ダークエルフ遺物の研究もだ。あれを消さねば我々も呑気な暮らしに戻れない」
サンドラはぶれずに口を出してくれた。メヌールは残念そうな目で偉いおじいさんを見つめる。
「説明が足りないのはわかるがとりあえず該当者を出してくれまいか、教皇。我々はトラブルを潰して悠々自適な老後を求めているだけだ。説得力皆無じゃがそれで丸く収まれば大陸に災厄はふりかからん」
教皇なの? この人? 目線を感じたらしいメヌールはため息を大袈裟に吐いた。
「ここをどこだと思っておったんだか。五重の首飾り、聖銀の靴、聖者の杖、どう見たって教皇じゃろう。影武者に三種の神器は扱えん。……魔獣の宝玉と契約せねばヒューマンには手に取ることすら叶わん神器じゃ」
初耳ですが。チラリと見るとダークエルフズもへーあれが正教会の最終装備かーとながめている。欠片ちゃんだけは驚きと敬意と憎悪がないまぜの目線。何が気にくわないのだろうか。メヌールは当たり前のことを言ったつもりらしく常識未開人のパーティに頭を抱えた。
こちらはコメディ路線だが教皇は違う。あちらも頭を抱えているが急激な魔力吸収と絶望的な状況に苦しんでいる。少しのコントの後に口を開く。
「大陸をダークエルフに与えるというのか。神敵ハンナ、お前は大陸の人間を根絶やしにしたいのか!ヒューマンのその身で、同胞を、神を裏切るのか!」
全く話が通じていなかった。お話にならないので倒れてから頭に直接聞くしかない。吸収スピードを上げるとメヌールがこちらを向いた。
「説得を諦めては同じことの繰り返しにはならんかのう?」
「色眼鏡なしに聞いてくれるとでも? 鈍感ちゃんをするにも無力化しないと無理ですよ?」
「あんな説明の足りなさで倒される方は今後どうすると? ダークエルフに加担したヒューマンが大陸に魔獣の宝玉で戦争を仕掛けてきたと思っておるぞ」
「その部分言葉で納得しますかね?」
目をそらされた。これにより教皇は倒れるまで魔力をむしゃむしゃすることが決定される。
出力最大値が上がった「しまっちゃおうね」は完璧に箱を作り上げて中の教皇は見えなくなった。そして向こうの魔力を検知できなくなって解除してみるとそこには倒れた教皇だけで、妖精の姿は一つも残っていない。