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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
吟遊詩人編
205/246

25日目 とける

 何だったのだろう。あれだけイライラさせた妖精の力はいざ対面してみたら私と比べたら大したことのない赤子だった。無理矢理突貫対峙して退治して。死体一つ残らず消えた。魔力は吸収したが肉体はいくら圧縮しても残るだろうと思っていたのにここはまっさらで塵一つ残っていない。肉体ダメージがでたら脅そうとしていたのに消えたのだ。

 これは魔力が抜けたら質量も減る? もしくは魔力だけで肉体なんてない? 私の魔法が構成ミス? いや、脅して尋問する気で作ったのだからイメージミスはないはず。

 原因がわからず軽いパニックだが、消えたものは復活させようがない。死体があれば蘇生も考えられるが元がないわけだし。


 ごり押しじゃなくやってしまったのではなかろうか。宝玉つき腕輪を持たせて帰る予定のディランは帰れないままだし、遺体なしではメヌールとダークエルフは妖精警戒を解かないだろうから私の口から報告しないといけなくなった。接触を断つつもりだったのに。


 うわぁ、更にまずい状態を作ってしまった。しかし、ストレスを少し発散したからか、次やることが強制的に決定したからかさっきよりかは気が軽い。

 これは必要なことだから。心に言い訳をしてメヌールたちに説明するために帰ることにした。




 メヌールたちの所に帰るとそこにはテントも張ってあり焚き火もある。かなり深夜になっているのに三人とも待っていてくれた。


「ハラーコ! 無事か!」


 私に気付いたメヌールが跳ねるように立ち上がり私の手をつかむ。


「あれから冷静になって考えた。森村に村移転は果たしたのだからレイナード魔導師は教会対策で領都勤務じゃなかろうかと。当然他人にバレかねん。青年だけが帰って来たのであちらで何か良くないことが起きたのだと……」


 メヌールの予想は大体あっている。多分それより悪い方の話をしなければならない。


「とりあえずハラーコが帰ってきたし私らは寝るよ。二人で先に話して明日はあの記憶写すやつで頼む。おやすみ」


 ダークエルフは闇に生きると思っていたが限界らしくテントに入ってしまった。話したら最悪これっきりなのだがタイミングが悪かったらしい。仕方がないのでメヌールにだけ何が起きたか話すことにした。


 大体を把握したメヌールは難しい顔をしている。顎に手を当てて焚き火を見つめて静かに考えてくれていた。


「ねぇ、メヌールじいさん。もうさ、私に付き合ってくれなくても良いですよ」


 多分、二人で逃げるプランを考えてくれているのでもっとシンプルに見捨ててくれないかとふってみる。メヌールの表情は考え事をしていた顔からいつもの顰めっ面に戻った。


「それは逆に私を見捨てたいと聞こえるのじゃが」


「確かに巻き込んでしまって申し訳ないけれども、これ以上人外化してお伽噺一直線に向かうよりじいさんだけでも平和に過ごすことは可能でしょう? 見送りくらいするから大陸の北部とか」


 通行不可能になった国に流れたら流民のふりして追手無しで暫く過ごせるはずである。


「私が何になろうがそれはどうだって良い。心や魂まで変質しないことはわかっておるからのう。

 じゃが君はどうなる? 結局、他の妖精に狙われる訳もわからず、ガルド政府に目をつけられた。伴侶のいない妖精が災厄に変わるのかすらわからん。君はどうなる? 自我をなくす可能性はないとも言えない」


 それを聞かれるとちょっと弱い。元々魔獣の宝玉が悪しき方向に進まないようにと使命を感じたメヌールだ。これから単独で生きればどうなるのかわからない私を野放しにはできないだろう。


「そうは言われても生きづらくなりましたよ」


「ゾンビが出てから既に第二の人生なのじゃが。そもそも物理的には生き汚くなっている。私の身より君自身のことを考えなさい。ガルドへの取引はホラ村が叶った時点で君の役目は終わっているし、教会とのあれこれはあちらの裏切りを防止したものだと思うように。諸々の契約は終わったのにいつまでも駒をする必要はない。予定通りガルドから離れる。妖精とダークエルフ以外は何の変化もないのじゃ」


 そんなことはないと思う。言葉を色々用いてもこの世界での縁を全てパァにした。


「そんなにガルドが気になるのならば別に領主の駒をせずとも君の力なら個人で活動もできるだろう。何をそんなに落ち込むのかわからん」


「いや、巻き込みながら悪いほうに……」


「思い返してみるように。最初からそうじゃぞ? 今までなかった罪悪感がわいてくる方が異常じゃろう」


 言われた通り思い返して見る。ゾンビの補償をしろと絡み、一緒に生存しようと絡み、息子を説得しようと手を出して、大司教操り事件にも巻き込んで、教会関係も村の襲撃もメヌールに全部投げた。……あれ、確かに最初からメヌールは巻き込まれた可哀想な老人だ。今は罪悪感溢れる感情だが常に同情すべき立場なメヌールに悪いと思ったことはない。


「思い出したか? ついでに私はもう馴れたぞ。一層痛快だと楽しめる境地じゃ」


「今更って感じですか?」


「今更じゃのう。自重する枷がなくなったと見て、さっさとダークエルフの魔道具を集めて、土産を持ち込む形で妖精島にいけばいいだけじゃないかのう?シンプルになった。だから君は君らしくしていなさい」


 なんだろう。今まで悩んでいたことはメヌールにとって杞憂だったらしい。


「私が他の妖精と違うのはどうですか?」


「どうって何が問題なんじゃ? そもそも他の妖精も人伝にしか知らぬ。結局手探りじゃろう?」


「私の記憶がこの世のものでなくても?」


「私にとって妖精もダークエルフもこの世のものでなかったんじゃがなぁ。サンドラも気にしていたぞ。あんなに悩むことじゃないと」


 何か解決した訳ではないけれども。むしろ色々悪化したけれども。私が悩む数々の問題は棚上げされた。いつかは考えたり、また不調になるかもしれないが、責められない居心地のいい居場所にすがりつきここだけ守っていればいいかと開き直る。

 何も言えなくなった私の頭をシワだらけのメヌールの手が恐る恐るという感じで撫でてきて、その不器用さに笑いがこみあげた。

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