25日目 妖精の人生
結局手に入れたのはルーナは違うということだけである。一応、彼女から分裂した欠片の大きさを、その三年前基準であるが教えてもらいはした。ダークエルフズがいうには成長するとしても誤差範囲くらいだろうし、ルーナの兄弟に限らず幼体って大体そんな感じの範囲なので参考にはならない。加えて分裂した欠片の性格も聞いてみたが、他の妖精も似たような可能性からそちらも参考にはならない。念話を使えるルーナに兄弟連絡をとってもらいもしたが、引きこもり系と邪悪な奴の返事はなかったそうだ。なんの進展もない。
領都で妖精狩りはしなくてよくなったのは良い話であるかもしれないが、結論旅を続行して次に妖精がでたら腕輪もちのヒューマンに回収して貰う。これだけになった。既に本日昼も過ぎておやつ時かそのくらい。冬も近い季節なので今から日が落ちて森村にレイを回収する仕事を考えると二時間ほどしか時間はなかった。そうなると探索と回収仕事は難儀である。
よって本日はここで野宿をして明日の朝から次の村に吟遊詩人と護衛みたいな形で入り、妖精を待つことになった。
「ふぅ。じゃあディランさんはこのまま返しますか?」
透明化をとるとすやすや眠るディランさん。
「いや、暫く連れておこう。妖精が襲ってきても誰も腕輪を触れないんだ。起こして宝玉捕まえてっていえばいいんだから、わざわざ返したり連れてきたり大変だろ?」
怪談の化け物に連れ去られて数日後に宝玉を持って帰る……ディランさんハンパないっすね、それ。今連れ帰ってもどうしようもないし、暫く一時期レイナードにしていたような鈍感ちゃん式介護にするべきなのだろうか。
「何日かかるかわからないし、ハラーコ、この見習い君に適当な記憶をつけてあげてくれよ」
パトリックがひどいことを言い出した。
「いや、それは可哀想でしょ。英雄記憶ならまだしも、見返りなしに酷いよそれは」
「寝かせてるのと後から消して覚えていない記憶で動くの変わらないと思うけどな。むしろ体固まらないから親切な方じゃないか?」
罪悪感がないらしい。助けを求めてメヌールを見る。
「最初に拉致した時点で変わらぬよ。大事の前の小事じゃと連れてきた。罪の大きさは経過をどうたどろうと同じじゃないかのう?」
まさかの全員鷹派だった。
「むしろそれほど気遣うとは君はこの青年を買っているのか?」
何故か話がずれた気がする。捕捉可能な腕輪もちがディランだけだったから呼んだわけで、前回は記憶の件があった。ディランに何を思うでもなし、申し訳なさがつもる状況だと共通認識ではなかったのだろうか?
「はっきり言おう。サンドラから聞いたのじゃが妖精の伴侶は複雑な記憶を持つ妖精が特別気にかける存在がなるという。状況的に私と君はホラ村の騒動で意図せず結び付いた。本来の何百年生きる相手として私を選んだわけではないじゃろう? 君が特別気にかける相手が何人も増えるとどうなるのか、そこがわからぬ。なのでちゃんと人生を共にする相手以外を気にかけて側に置くのは、はいそうですかとは言えぬ」
え、いれかわったり増えたりもないの? ダークエルフ組を見ると頷かれた。
「え? 何。人間と違う概念なんですよね? そんな惚れたはれたみたいなこと?」
大した正義感でもないが、何となくこうした方が良いよねと流されてきた。いきなり人生を共にとか、今までと路線が大きく違う話題に急に変わられても、私の自我ってどうあるのかすらわからない。
「気まずくて言わなかったが保護者でもあるが間違いなく伴侶要素は妖精たちにあった。もっとも記憶がわいたばかりの新成人に伴侶なんてのもか聞かない。少し過ごして思ったが、ハラーコは人を気にかけすぎやしないか? 記憶が特殊なせいか? 一体どこの記憶を持っているんだ?」
一気に疑問をサンドラから食らう。そんなこと、私が知りたい。記憶と自我は別のはずだが、放置してズルズルここまできた私はこれまでのつけを一気に払わなければならないらしい。
口を閉ざして何故妖精の私が日本の記憶につつまれているのか、妖精の本能らしい機能がおかしな方向にでたのか、今後メヌールと二人で死ぬまで過ごすのか、考えずにいた問題をぐるぐる回想する。
「すぐに答えがでる話ではなくなったのう。一先ずはハラーコが気にかけず、ついでに緊急時にすぐに呼び出せるレイナード魔導師にこの青年を預けてみてはどうじゃろう? ハラーコの睡眠患者を預かったこともあるしうまいこと隠してくれるはずじゃ。ということで、そろそろ森村に行くように。約束の日没じゃ」
秋の終わりの短い夕日が静かにタイムアウトを告げている。途中から悪いと思うがディランのことはどうでもよくなっていた。この世界で生きるためにも謎は解明せねばならない。まずは目先のことを片付けにレイの待つ森村にディランを担いで転移した。