25日目 じんもん?
日付を置いてもどうにもならない。今日できる行動は他にないかとなるとサンドラがレジーナのところの妖精を尋問しようといいだした。例の次の村に進もう作戦はこの時間からだとすぐに吟遊詩人活動に入るべき時間であるからと中止したからである。
容疑者というわけでもないがサンドラが絶対にレジーナ横の妖精が怪しいと言い張るし、一度彼女と話をしてみた方がいいのでは?という話に流れた。彼女の方も自分と分裂した中に良くないものがいて探しているようだったし、内通していてもいなくてもハイラルを襲った妖精がいることを伝えるという名目でもつけて大陸妖精情報を手に入れて置くべきだという。
まぁ、よく考えずに条件反射的に性悪妖精を捕まえようぜといって大失敗したところなので、すぐ再チャレンジするより情報収集からして念入りに捕獲しようというのはまだ脳まで筋肉になっていないのかもしれない。あまり賢くはないけれども。
普通に考えて私たちを襲う理由を考えると軍に恨みがある(軍人証明を出したから)、教会関係者(記憶消去忘れかレジーナ一行)くらいしか思い付かなかった。この中で妖精がとなるとレジーナのところの妖精しかいないわけであるが、無罪の余地が無ければ腕輪行きにして教会にやろうとまでの謎やる気だ。私的にはもう二人も妖精がいるのだから鬼畜系ニューフェイスがいてもおかしくないよなとも思うが、何にせよ彼女を放置して探し回るより彼女の兄弟なんて落ちもあるだろうし呼び出し決定。
ややこしさ回避のためにダークエルフにはエルフ偽装をしてもらい、ディランは透明化してレジーナのところの妖精に念話を送った。
『あの、今すぐ時間をとることはできますが私は転移ができません。来ていただくか呼んでいただくかできますでしょうか?』
妖精って本能で転移ができるものじゃないのだなと感心しつつ呼び寄せてみる。
「こんにちは。お久しぶりです」
「こんにちは。転移ありがとうございます」
妖精ちゃんは相変わらずどう見てもアデン人女性で丁寧に膝をついてお礼を述べた後、両手握手で友好的な態度をみせた。
「その後レジーナさん全然お祈りをしないのだけれども、敬虔な司祭なのにどうしてか知ってる?」
まずはハイラルの話で捕縛確定したら消失してしまう話から聞いておく。彼女は困った顔をしてサンドラとパトリックをチラチラ見た。この話では部外者だし紹介もしていない。
「彼らは私たちについて私たち以上に知ってる人たちだよ。仕事の話の後にあなたの体について説明してもらおうと思ってる。ついでに今は私の協力者」
ダークエルフは無言で頷き、彼女から目を離さない。空気的に話さないと進まないのとどちらにせよ聞いた話を漏らすのがわかったのか口を開いてくれる。
「どうにも祈りの時間ではなく睡眠中に天恵がきたようなのです。神に祈りは暫くするなと禁じられたとか。天恵の主はレジーナ司祭だけではなく、あなたのことも認知しているようなのです」
つまり辿られることを予想して監視を抜けるか全面不通を決め込んでいるのか。
「ちなみにその祈り以外の天恵は目撃できた?」
「いいえ、寝室は別ですので寝ている最中に起きたか否かまでは私には」
この妖精ちゃんは寝室まで監視はしなかったようだ。妖精の魔力ならし放題だと思うが何故しなかったかは今聞いても意味はないだろう。
「天恵についてはとりあえずありがとう。これからも気にしておくよ。それで、さっきの話をしてもいいかな?」
「あ、魔獣の宝玉について、ですか?」
メヌール以外の全員が頷いた。
「私はサンドラ。大陸の外では君たちを妖精と呼んでいる。すまないが年齢をみたいので擬態は解除して本来の姿に戻ってもらえないか?」
サンドラの言葉に私も人の姿を消して玉に戻る。宝玉スタイル怖くないよの証明だ。
「ハラーコはこれで大体百前後だ。記憶がわき出したので大人になったところだな」
初耳ですが。メヌールをじじいじじいと言っていたが私の方がばばあだった。地味にへこんでいると彼女も手足がすぅっと消えて小さな小さな欠片になる。全然玉ではない。これで同じ生き物なのか。
「彼女は犯人じゃない」
「別人だ」
唐突にダークエルフたちが今までの話を翻した。
「犯人って……?」
彼女は話についていけなくなる。ダークエルフは角度が大きさがといいながら欠片ちゃんの周りをぐるぐるしはじめ収集がつかない。メヌールが二人のなが耳を引っ張りあげる。
「その話は次じゃ。まずは期限について話してやるべきじゃろう」
しゅんだれたパトリックがごめんと呟き、サンドラが説明に戻る。
「断面からみて分裂したのは最近から十年の間だろう? 君の記憶はあと五十年ほどすると消えてしまう。そしてまた百年ほどすると別の記憶がわいてきて君とは違う妖精になる。君が君として生きられる期限は五十年。ヒューマンの寿命以上程度は生きられるということだ」
欠片姿なので彼女の感情はわからない。余命宣告と思えば悲しい話だが、ヒューマン姿の彼女がヒューマン平均よりいれるというのは良い話にもなるしなんともいえない。
「あの、その妖精の病気とかはどうなのでしょう?」
そういえば私も聞いていなかった。人体ではないヘンテコ生物。いくら魔法が使えてもセルフ診療は無理である。
「んー。分裂前なら魔力過多とかあるけど幼年期の君にはないね」
分裂前、ここにいますが。また話が長くなるので今度にして黙っておく。
「幼年期ですか?」
「とりあえず妖精の一生について話して良い? そのあとあの話をしよう」
ここで前回聞いた妖精の記憶や分裂、伴侶についての話になった。ダークエルフについては話すと面倒なのでそれだけは隠す。記憶が消え始めたら他の妖精がいる妖精島なら親がそばにいない彼女でもその後、大陸で宝玉騒動も起きないだろうから行くと良いと締められた。
妖精について共通理解ができたところでハイラルの襲撃話がでてくる。最初に疑ったことを詫びて私の一行を狙う妖精がいるのだと説明した。
「と、いうことでだ。妖精、そっちの妖精から分裂した欠片の記憶を貰ってくれないか?そっちの妖精が探している欠片が私たちの見た妖精と合致しているかを確認する。これで合えば探し人は一緒、違えば第三の妖精になる」
妖精がゲシュタルト崩壊しかけている。もういい加減名前で呼んでくれといって、私はハラーコ、彼女はルーナと呼びわけが決定した。
さて、記憶を読み取るのは脳内に入り込み微弱な電気と変えた魔力で入手してきた。しかしながらこの宝玉スタイル。どこが脳でどこに記憶があるのだろう。
「妖精の記憶ってどこから読めば?」
シンと静まりかえるとメヌールが首を傾げた。
「人の形になれば脳はあったが? 君の焼き付けの時はちゃんと脳があり、そこに向かって焼き付けた。人の形のルーナの脳は読み取れるのではないかね?」
擬態もいける? 魔法については確かにその通りだが、人の脳みそ一つにあれだけ大量の人の記憶は入るのだろうか。腑に落ちないがやるだけやってみようとお互い人に戻り、ルーナの頭に侵入してみる。
そこには脳はなかった。代わりに魔石がどーんとある。脳どころか調べてみると妙につるつるの内臓や空っぽで肉のないスペースが存在し、あきらかに人体として足りていない。
「何これ」
「どうした?」
「脳みそが魔石です」
「「は?」」
「魔法使いの脳は魔石じゃろう?」
「「「は?」」」
前者の「は?」はダークエルフ、後者は私とダークエルフである。
「うむ、わかった。擬態も受肉の魔法じゃ。要はイメージが元になり作られているわけじゃな」
メヌール大先生だけわかったらしい。彼の講義内容はこうである。
妖精の姿は本来魔石のようなものであるが意識して人間の形に擬態するのは最初からついている機能ではなく魔法である。見た目だけでなく触れたり物を掴める肉体はダークエルフが使う闇系統の受肉にあたる魔法であり、術者がイメージして構成せねばならない。そして私やダークエルフは魔法使いの脳みそ実物を見たことがある。もしくはイメージ図を持っている。逆にルーナは記憶を含めて見たことがない。
アデン大陸では宗教上の理由により解剖は行わない。魔法使いでないただの人が事故などで脳を見せることはあれども、魔法使いは脳を見せることはなかった。理由は魔法を使うための回路始発点であることから手足がもげようが最後まで脳を守ることが武器を離さないことに直結するからだ。魔法使いの死は病気や老衰でない限り大体頭だけが残る。それも幾重にも防御魔法がかかった状態でだ。
「アデンの司祭は魔法使いを魔道具のようなものであり、回路が繋がる脳が魔石であると思っている。ゲスな行為だと割りきって魔法使いの脳を切り開かない限りそういうものだと医療行為をする司祭は学んでいるのじゃよ。ルーナは記憶も現在もそれを参考にイメージして受肉したのじゃろう。よって君らがイメージするものと違った」
ルーナの記憶は大陸女性のものだ。野蛮な探究心でわざわざ脳を切り開いた記憶がひっかかる可能性は低い。宗教上の理由もだし、そもそもの切り開ける程度の防御力のない魔法使いなど今より魔法使い人口の少ない時代に探し出すだけで困難だ。
「えーと、脳なしで受肉して動ける凄さは気になるが、つまりルーナの記憶を引っ張り出すのは無理ってことか?」
脳みその形を教えて記憶野を教えて、ここにライブラリを入れてくれといって、そこに大量の記憶を写してもらう。かなり長くかかるし、無茶苦茶だ。パトリックがいうように無理、としかいえない。
「特定不能か、妖精も万能じゃないんだなぁ」
サンドラの言葉が締めとなり、この会合は解散となった。