25日目 吸引力の変わらない
『じいさん、じいさん。メヌールじいさん?』
「これは切れてるだろ。計画は中止してじいさんの所に三人でいった方がいいんじゃないか?」
応答が無くなったメヌールを呼ぶが事態は変わらない。サンドラはあっさり計画を切り、メヌールの無事を確保すべきだと方向転換を提案してくれた。
「二人ともごめんね。一緒に消えた位置にいってもらってもいい?」
「勿論」
「よくわかってないけど計画中断なら武器なしでダークエルフ二人が悪質な妖精がいる地域に突っ立ってるのが危険なのはわかるぞ。原因不明の場所の方が俺たちもまだ救いがある」
パトリックが態々理由を増やしてくれる。確かにこれ以上バラけての行方不明は困るし、三人でディランのいるアラリアの山奥に転移した。
メヌールは確かにディランの上に置いてある腕輪を確認までしている。ついでにメヌール自身がここはアラリアだとも知らない。適当にバレないだろう場所という理由で一昨日奴隷商がキャンプした場所を選択しただけだ。メヌールが態々念話を力業で切って行方を眩ますとは思えない。
「妖精、魔力感知だ」
「しましたが周りにはいません」
軽くレーダーを飛ばしたが人は感知できずにいる。
「周りじゃないよ、妖精。サンドラはこの男性の上を見ろって言ってるんだ」
パトリックが補足してくれるがディランの上には腕輪しかないはず。魔力感知のために瞳に魔力をのせたまま腕輪に視線をやった。
そこには一つだけゆらゆら揺れる魔力の小さな渦が腕輪から発されている。
「何これ」
魔力感知なのだから魔力なのだろう、魔道具だし。けれども三つの内一つが揺らめいていた。
「妖精、この腕輪、触らず細かく鑑定できるか?」
「やってみます」
やらなくとも状況で何となく察している。妖精の伴侶となって人間辞めはじめているメヌールが妖精捕縛の魔道具を持って……魔法ログを出すとメヌールを閉じ込めたとはっきり出ていた。
前回この腕輪に入ってしまった時、宝玉を移さず一つの腕輪に入れてしまえば数時間で壊れると説明を受けている。ただ精神的に辛い場所だ。いつかはメヌールが出てくるのだろうが早く出してあげたい。耐久度を劣化具合のバー表示をさせてみてみるが全然破壊は進んでいなかった。
「前回のことなんですがこれに二つ妖精が入ったら早く壊れたんです」
「おい、この安全が確保できない状態で君が入るとか言うんじゃないだろうな?」
言おうとしてました。私が入れないとしたら確実にいるレジーナのところの妖精を突っ込む? でも出たらきっとすぐ逃げるよなぁ、転移するのが妖精だし。私以外に破壊目的で入れるとも思えない。そもそもこれは魔力で壊れるのだろうか? ヒューマン魔法使いのディランがはめていても壊れないのに。劣化の原因をどう構築して表示させるか悩む。
「なぁ、妖精」
「なんですか?」
パトリックが小さく挙手する。
「これって俺たちが持てるのか? 妖精捕獲兵器だって言ってたがヒューマン以外の生き物吸うとかないよな?」
そういえば正教会ではヒューマンしかみない。獣人も所属していると聞くのに司祭はいないような。
「よし、パトリック。お前が触れ。もし吸い込まれたらじいさんは早く出れる。むりならここから移動できる」
サンドラが酷い指示をだす。
「まじかよ、ねぇちゃん。放っていくなよ?」
パトリックは弟らしくすごすご腕輪に触り吸い込まれた。
「尊い犠牲だった」
サンドラは自己完結してしまったがますます迷走している気がしてならない。
「よし、私も入るか。妖精、ヒューマン以外を見つけたらこれに吸い込ませてくれ。じゃあ行ってくる」
止める間もなくサンドラまで吸い込まれた。え、私はこのまま警備係りなの? なんでよ?
計画通りなら今頃事件解決のんびり旅にもどっていたはずなのに、アラリアの大地でまさかの一人きり。いや、寝かされた憐れなディラン君、魔法使い狩り見習いもいることにはいるんだが。何なんだろうこれ。どうしてこうなった。一応、劣化スピードがアップした腕輪を前にありっちゃありなのかなぁと呆けるしかない。