24日目 暴露先がない
「すみませんでした」
ジャパニーズ土下座は国や世界が違ってもきっと通じる全力ボディーランゲージだと信じている。気にするなと手をふるサンドラと呆れたようなメヌールの目が怖くて頭はあげることができない。
サンドラの脳内データに何かしらのトラップというのは見つからなかった。儀式なんてモノがない文化なのも見えたし、何より出張中のダークエルフがハイラル誘拐の報告をしていた記憶を見つけてしまう。
ダークエルフ達は本当に妖精の子どもを目撃していた。魔力関知で見た彼らの記憶でふわふわ小さな妖精がしょっちゅう村の中を飛んでいる。どうして気付かなかったんだ私。そんな中でハイラルを監視していた酔っぱらいはこんな報告をサンドラにした。
「ダークエルフに死んだ息子を正しい血で復活させる術を習ったとかなんとか。俺たちがここじゃブラックファンタジーな生き物なのは知ってたけど、司祭って理論面気にしないのな」
内容はこれだけの言葉に色々つめこまれていた。
どうにも痴呆司祭の養子はこっそりもうけた実子だったらしい。しかしながら成長すれば段々顔つきが両親ともに似てこない。内縁の妻の不貞を疑った司祭は痴呆が進んでいたせいか二人とも不審死。けれども時が経つにつれ殺した事実も認識不能に、そんな中で野良妖精に騙される。
ダークエルフは死者を甦らせれるぞ。中毒改編を利用してその身に宿る血など容易く変えられるぞ。なんて。
サンドラの脳内を見た私からすると半分嘘で半分本当だ。ダークエルフが行う死霊術の類いは魔力で肉体を作成できるのだから。ただし魂は持ち込まなきゃ他人だし、できる肉体は血は変わるというが血が通わない魔力の塊だったりする。
報告をしたダークエルフはダークエルフのいない大陸でガンガン悪魔扱いをされているせいでちょっぴりやさぐれていたりもした。
なんていうのか、彼ら自身が接触してもいない司祭にできもしない大嘘をつく理由も経緯もありもしないのである。大陸ではみ出しものな彼らの望みは早く仕事終わらせたいと属性も知識もない武器とか何で抱えているんだなんて平和ボケが合わさってかなり可哀想な状態になっていた。
「まぁ、誤解がとけたのならば良いのではないか? 私もダークエルフへの誤解はだいぶ薄れてきたしのう」
メヌールも引け目を感じるらしくサンドラに申し訳なさそうである。
「そっちは何の誤解が起きていたんですか?」
常識的ヒューマン知識がないので私にはあまりわからない。
「ああ、正教会がダークエルフはガンガン神の領域を犯す宣伝をしていた所だよ。具体的に言えば死者の甦生やら何やらを信じて死霊術全般の評判が悪い。古い聖書の話が繋がらない部分をこっちの聖書で穴埋めすれば何の矛盾もなかったんだが」
正教会というか大陸が認めないダークエルフの神様の存在はストーリー的に矛盾がなくなるものだったらしい。地球の聖書や神話の意味不明っぷりを考えれば大変羨ましいことである。
「じゃあメヌールじいさんはもうダークエルフに不服はないと」
「神話も魔法形態もどこをとっても排斥する理由はないのう。ハラーコが嘘偽りがないという結果を出したことだし、何より並のヒューマンでなくなった私は認めた理論を覆せない。染み付いたもので不快にさせるかもしれないが、腐った正教会が何年どころか何百年腐っていたと知った程度の差かもしれん」
結構な神話信者であったメヌールだが、教会から離れることで思うことがあったらしい。神への信仰心ではなく教会への信仰心がゼロからマイナスになったようだ。
「まぁ、細かいところは私にはさっせませんが話が少しでも単純化したのなら良かったです。で、ハイラルなんですが」
反省会が終わったのでハイラルの話をしてみた。使い物にならない感じに壊れていると。彼の内心を知っているので見捨てたくはないのだけれども、ここからダークエルフに会わせてなんとかなる気がちっともしない。特にダメージなしの私やメヌールでもこれだけ面倒だったのだ。
「確かにサンドラに会わせて一緒に妖精島を目指そうなんて言っても丸く収まる気がしないのう。先程話し合ったがサンドラ達は冬のガルドを知らないらしく一緒に籠るかなんて話もしていたのじゃが。
しかし仮にレイナード魔導師に返すとしてそちらにサンドラを紹介するのか? なんと理由をつけて離すんじゃ?」
連れていくにも問題ありだが連れていかないにも面倒が見えてきた。
「こう、どちらもそれっぽくなる玉虫色の回答はないんですかね」
二人揃って死んだ魚のような目をする。
「なぁ、結局少年が問題のように言ってるが、問題は私たちがダークエルフなことなんじゃないのか? それなら宿屋の時みたいにずっとヒューマンのふりをしているが」
ヒューマンのふりをした三百年前の常識で動く謎の三人組。今はショボくれていても絶体ハイラルの不満の種になる。
「もう考えることを放棄したい」
とうとうメヌールまで匙を投げてしまい、依然としてハイラルは放置されていた。