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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
吟遊詩人編
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24日目 全員村脱出

 ひたすらお喋りの夜という珍しいことをしていたが、レイから念話のワンギリがあった。「は」と切れる。距離があいて魔力的にきついのだろう。折り返してもいいが何の話かはわかっている。十中八九ハイラルのお迎えだ。


「ハイラル起きたっぽいです。レイさんから念話がきました」


「少年のお迎えか。私も宿屋に戻って酔っぱらいを叩き起こしてくるよ。合流はここでいいか? 昼までには三人揃ってこれる」


「私もハイラルの迎えに行く。そのままあちらで泊まって朝の仕事をして昼には帰るという段取りでどうじゃ?」


 サンドラとメヌールはお互いの仲間を紹介するという段取りをしはじめた。やぶさかでもないのだが。


「私だけ平行してアラリアなんですけど」


「ん? 内戦中だろ? 何であんなとこに」


 玉の姿から人形(ひとがた)に戻りサンドラの額に記憶を送る。家族を探す経緯と捜査状況だ。


「なぁ、君は付き添い転移できるよな? 今からこっちの面子を回収してあの馬車追わせるのはどうだろう? ダークエルフは身を潜める魔法が得意だ。で、馬車が止まる夜にでもまた回収して合流。雑談させるより使い潰してやる方が信用を築くには向いてるしな」


 サンドラの申し出により領都東村に全員で転移した。いいっぷりからして仕事はしてくれそうだし。

 到着したのは深夜の村。もう吟遊詩人タイムは終わったのかあたりは静まり返っている。


「君らと同じ宿屋なんだ。顔を変えた方がいい」


 サンドラは自らの顔を撫でる。撫でられた後の皮膚はどうみてもヒューマンだ。


「じいさんはヒューマンだしこの手の魔法は知らんだろう。今は闇も使えるだろうから焼き付けてやる。防御はオフで頼む」


 さらりとサンドラの手が伸ばされてメヌールに触れる。焼き付けが終わったようで離れてすぐにその手がパチンと指を鳴らすと三十代前後の知らない男性が現れた。


「これから会う仲間の一人のヒューマン風の顔だ。妖精もオフにしてくれ。もう一人にしてやる」


 魔道具が反応しないようにリラックスして待つ。無事に幻影はかけられたようで視線が高い。


「さも外から来たように帰るから」


 話ながらサンドラは閉まりきった扉を叩く。


「親父ー。すまん。遅くなった」


「ああん? お前さん何時だと思ってんだ!」


 宿屋の主人が怒鳴りながら出てくる。こっそり入ればよかったんじゃ……。


「仕方ねーだろ。教会のじじいが倒れたんだ。急患さばいて帰れただけでも大したもんだろ」


「まぁ、村の依頼だし仕方ねーのかもしれねーが。明日からは叩き起こすのはやめてくれ、商売にならん」


「それなんだが私ら今すぐ村を出る」


「なんだと? どうするんだよ!」


「それは村で話し合ってくれ。何で出るかなんだが……あのじじい非合法の実験をしてるぜ。だから魔法使いに教会詰めを依頼しても皆逃げると思う。やるなら別の場所でした方がいい。実験の罪を擦り付けられたら死ぬしかないレベルだ」


「冗談だろ? ぼけじじいじゃねぇか、あの司祭」


「思考はボケても腕はボケてなかった。……水中毒患者がでた。」


「はぁ?」


「領都に送り出した。運が良ければ助かる。親父も村も運がわるけるゃ壊滅する。一応じじいは縛ってきたから後から見張って自治隊に通報しな。私らは去る」


「……わかった。村を代表して礼を言う」


「気にするな。最良でもない。部屋を纏めてくる」


 サンドラと店の主人はわかりあったようで宿屋の中にずかずか入る。

 話をなんとなくで聞いた感じだとサンドラ達三人は魔法使いの移動狩猟民として村に入ったようだ。それで今朝から倒れた痴呆司祭の代打として村で医療行為の仕事を受ける。教会のフォローとして水中毒を引き合いにしてあの司祭を罪人に仕立てあげてくれたようだ。


「のう、教会で仕事を受けたようじゃが二人は教会ではないのかね?」


 メヌールがサンドラに囁く。


「いや、二人は宿で二日酔いだ。教会には使い魔を置いてきている」


 なんかまたファンタジーな話が出た。


「つかいま?」


 メヌールも知らないらしい。


「あー、闇魔法だ。他種族はわからんか。死んだ獣の魂に偽りの肉体を与える代わりに使役させてもらう」


 あ、メヌールが怒りの顔をしている。


「宗教間のズレについては後で話そう。宿屋では騒がないでくれ」


 サンドラが釘を刺したことで友好的だったメヌールが物言わぬ不機嫌オブジェに変わった。静かに階段や廊下を歩いて部屋の前に辿り着く。


「馬鹿ども、仕事だ。妖精、さっきの奴をこいつらに」


 扉を開けるなりサンドラの指示がとぶ。部屋の中にはポカンとした顔の男が二人。片方はメヌールがもつ顔と一致している。


「え? うまくいったの?」


「妖精が仲間になった! これで勝てる!」


「うるせぇ。デコだして仕事を把握しな」


 賑やかな中に失礼して近づくとおやつを目の前にした犬のように二人がキラキラした目で額を見せる。なんかやりにくい。ちょっと居たたまれないので圧縮バージョンで記憶をお届けした。


「パトリック・イシュー、了解しました!」


「この魔法いいねぇ。ダークエルフも使える魔力なら焼き付けてほしい」


「うるせぇ。パトリック、クリストファー、現地に飛ばしてもらうからすぐ支度しろ」


「「了解」」


 二人の荷物は直ぐに纏められて背負って直立する。


「では、明日の夜に!」


「いってきます」


 知らないうちに私が転送するの待ちになっていた。今すぐやらなきゃならない空気は読んだので二人を奴隷商が確認できる位置に飛ばす。


「あとは村を出るだけだ。君は少年を迎えにいき、終わり次第あのテントで落ち合う。じいさんにはこちらの神話研究に付き合って貰おう。知らないと困るだろ? 何せじいさんも闇魔法が使える身になったのだから」


 メヌールの無表情が苦虫を噛み潰した顔になる。


「ハラーコ悪いが」


「え、あ、はい。ハイラル連れてきますね」


 暗闇なので村を出てそんなに離れず二人と別れる。大丈夫だろうかと心配しつつも待たせっぱなしのレイのいるホラ村医務室へと飛んだ。

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