24日目 事実は小説よりショボし
「魔獣の宝玉ねぇ。私には妖精にしか見えないんだけれども」
意外とフレンドリーなサンドラは宙に浮かぶ宝玉姿を見てそうのたもった。
「妖精って羽根はえたちっこい人だったり空に浮かぶ光の玉なんじゃないんですか?」
「空に浮かぶ玉じゃないか。魔力で光ればそれそのものだし。何で大陸に妖精がいるんだ?」
ごもっともです。日本人だと心で思っていたが悪の使い扱いになり今度は妖精。サンドラの知識は一晩聞いていたいところだが、責任感も一応あるので先にふらねばならない話題が盛りだくさんだ。
「あなたに聞きたいことが山のようにあるのだけれども、まずメヌールはどこに?」
何言ってるんだと言う顔でテントを指差される。
「君、このおじいさんの言うように魔力感知くらい習慣にした方がいいよ」
レーダーをオンにすれば魔力を検索せずともすぐそばに人がいることがわかった。一つ片付いた。というか昼から監視されていたのは確定だ。
「ハイラルの水中毒もあなたが?」
「いや、あれは妖精の子どもだったよ」
サンドラのいう妖精って宝玉だったような? レジーナの側の欠片ちゃんか? でも子ども? こんな玉の年令どこで見るんだろう。
「なんかこっちが聞きたいことが大体今のでわかったや。君、記憶が比較的新しい妖精だね」
何故か別の所からバレた。サンドラ、妖精に詳しすぎる。駆け引きなんて無理そうなのでもうどうにでもして状態になる。
「色々バレてるみたいなので聞きたそうなこと、どかっと開示してくれると助かります」
「これで逃げないなんてかなりの希少種だね。いいよ、私の目的については最後に話すからまずは妖精について教えよう」
気前よく了承したサンドラは謎の薬草で茶を沸かし始めながら説明してくれた。
大陸で迫害されたダークエルフは数百年前から外洋にでて島を安住の地としたらしい。その島には先住民の妖精がいた。
妖精は大体の生き物と生態が違う。肉体は林檎からバレーボール程度の肉というには堅すぎる身に多大な魔力を内包している。ダークエルフ比較だが、体重はダークエルフの十分の一から半分程で、魔力はダークエルフの十倍から百倍。意思疎通はできるので勝てそうもないこの種族と仲良くやって来たそうだ。
そしてこの妖精さん、自我は育成で作られるのではなくこの世の死人の記憶を無意識に取り込んで確立している。
「この世の死人ですか?」
「そう。君は何か違うみたいだけれども島の妖精はそうだった」
サンドラの知る数百の妖精たちは大体この世界の死人から記憶を選別なしに手に入れた。記憶を手にいれるのは成人に近いものらしく、吸収がストップした途端に分裂ができるようになる。そして玉は弾けて幾つかの子どもになり、記憶が薄れていくのだという。
「つまり君のお友だちに水中毒を与えた奴は分裂して数十年以内の記憶のある赤子だったわけだ。島みたいに他の妖精が教えてくれるわけでもないし、訳もわからず分裂して暴走している。徐々に記憶はまっさらになって肉体は丸くなり、数百年したらでかくなってまた全然違う記憶を手に入れて全然違う動きをするだろう。数十年目をつぶっていれば何の問題もない。
同情するなら島に連れていってもいいが、私みたいなダークエルフに着いてきてはくれないだろうと思うよ。大体のこの世界の死人はダークエルフ憎しな記憶があるからね。妖精と友好関係を得るには骨が折れたな」
レジーナの側の欠片ちゃんを思い出す。彼女は数十年で自我を失いただの玉になるわけか。妖精、不思議生態過ぎる。
「そんなわけで妖精は肉体の死はそうないし、精神の死は分裂衝動から少しというわけだ。記憶を持ち始めたらしい君だと島基準で数百年は蓄積期間になる。一度島に来て他の妖精に生き方を習うと良いよ」
何かのイレギュラーが起きてこの世の常識が欠けている私には必要な巡礼地になるだろう。大きく頷いていつか行くと約束した。
「妖精の話は妖精同士でしてもらうとして、次は闇汚染をばらまく兄夫婦を埋めた話かな」
急に話が暗くなる。サンドラ自身も眉を寄せて何かの感情を抑えていた。
「何故島に移ったダークエルフが大陸にいるかの話からになるんだが」
サンドラはアデン国成立時に成人していた結構なご長寿であった。大戦は各々主張が違う宗教が原因であるわけだが、ダークエルフはヒューマンどころかエルフも残っていない聖典がある。一番古い聖典は他種族に不都合な話がバンバン載っていたわけだ。敵の敵は味方になると、ダークエルフを追い立てて、その兵力バランスが崩れたのでヒューマンが勝利する。
ダークエルフは一番のいじめられっこであったので大陸を出たのだが、その時全員が全員島に移ったわけではない。ガルドにも残っていて後に壊滅させられた隠れ里があるようにいつか見返してやると大戦準備を整える輩がいるのだ。
サンドラは島の生活が落ち着き、妖精とともに暮らす中で議会から招集される。サンドラの兄を含む居残り組が奪われたダークエルフの兵器に該当する魔道具を取り返すために何かやらかしそうだ、と。最近記憶を得た妖精に運良く隠れ里にいたダークエルフの記憶があったから発覚したことだった。
何を今さら大陸でと思ったが右も左も大陸の記憶もちの妖精たち。人死には仕方なくとも記憶に色濃く残る心の故郷が荒れて潰れて何もかも失うのは悲しい。寂しい。ルーツを失いたくない。メソメソする妖精の次にダークエルフの議員が言った「大陸から兵器を一掃せねば未来はいつだって悲劇の影がちらつく」により、数名のダークエルフが大陸に渡った。
「大陸についてからわかったがかなりの隠れ里は潰されていた。争いを続けると残っていた奴らなので自業自得なんだが、問題は原理もしらん他種族に魔道具が渡ったことだ」
兵器なので修理一つできない者が持つと暴発の危険性が生まれる。兵器を未来のために回収しようとしていたのに、一刻も早く回収しないとヤバいという認識になった。焦ったサンドラたちは騒動を起こそうとしている兄夫婦に近付き、それを利用してダークエルフの魔道具を漁りに来た奴らから回収する作戦をねる。
「結局兄夫婦は騒動を起こす前に内部分裂で死んだ。騒動も起きなかったんだよ。振り出しに戻って記録からガルド領主が魔道具を回収して教会に流すというラインが見えたから誘きだして貯蔵庫を見つけようってことでダークエルフが近くにいます作戦を始める。これがゾンビ事件の顛末だ」
本人が語ると陰謀やミステリーの欠片もなく、行き当たりばったり感が溢れる杜撰な話だった。残念な者を見る目を向けていると文句を言われる。
「やめろよ! 妖精が人を馬鹿にするときはいつもその回転をする! ダークエルフと妖精に会ったらそれはしたらだめだからな!」
言われて気付く謎回転。縦に小さく八の字を描きながら回っていた。
「私たちだって必死なんだよ。数百年ぶりの大陸なんて何の常識も通じないんだから」
そういわれたら納得するしかない。明治時代以前の知識で家電に囲まれてミニスカートで車の運転なんて適応できないだろうから。大戦の時代を考えると江戸時代か? 確実に生きづらい。
「じゃあコンスタンティンのアラン乗っ取りは?」
「あれは最近介入した奴で、接触した時には既に乗っ取りはやられていた」
サンドラたちはガルド領主の魔道具倉庫発見をしくじり、新しい手を考えた。もう教会に直接行って家探ししようぜ、と。想定していたよりでかいし聖域の結界が張ってある。教会の目の前で脳筋案は即無理だと判断された。
「けどまぁ、面白いものを発見したわけだ。細かい理論や魔力コントロールができない子どものための死霊術の訓練機。そいつと繋がる奴がかかる」
本来、ダークエルフが操る死霊術は自分で墓穴を掘らせたり、子孫のために肉体を相続させた祖先を有事の際出したりするためのものらしい。子どもがこの魔道具で練習するのは年に一度のメンテナンスを兼ねた大掃除くらいで、そんなもので騙される周囲や野望を持つコンスタンティンはかなり滑稽だったようだ。
ダークエルフにとって子どもの道具なものなのでさっさと回収に向かったらはしゃぐ子ども状態のコンスタンティンは高度な魔道具を教えてくれといってくる。そして見せられる研究冊子。コンスタンティンの養父が送ったダークエルフの魔道具研究の論文だった。
ダークエルフはこれはどこまで研究されているかとか探るべきじゃなかろうかと、回収から情報収集路線に変わる。コンスタンティンを柱に研究者や施設を辿るために弟子扱い風にして泳がせた。
結果、研究関連に届く前に私が邪魔をする。
「あー、目的を聞けば悪いとは思うけども、目的を知らないとただのテロ行為だったんですよ。大勢の命を守ると知らないから、目の前の数人を助けようみたいな」
「わかっているさ。色々話し合ったからね。それで結論だ。こそこそ工作せずに全部話して仲間になるか傍観して貰おう。もしくは現代知識でアドバイス求む」
気楽に言ってくれるが真偽も敵か味方もさっぱりなんですが。メヌールが起きて騒ぎ出すまで互いに当たり障りなく知識を深める会話が続いた。