24日目 えらいのでちゃいました
祝福と汚染は日本というか地球にないものだ。魔法も魔力もないわけだし。この世界のオリジナル要素というか原理というべきか。私には未知なる何かであり探求心がむくむくしてくるが禁呪。メヌールだって毒素としてのカテゴライズで医療従事者が持つ程度の知識しかない分野だという。
そんなものがたまたま立ち寄った村で痴呆の老人が使う。できすぎやしないか?
思いがけず歴史や法に触れる話をしたせいか、レジーナについている欠片ちゃんや、分裂した邪悪な欠片、他の宝玉や教会なんかが妨害してきてたりなんて。目的不明だが陰謀説がわいてくる。
そんな脳内ミステリードラマを繰り広げながら、私とメヌール、ラッド一家は領都東村から街道をそれて北東にあてもなく歩いていた。
「可能ならどんな仕事でも助かります。流民にとって一番の問題は仕事ですし」
昨晩聞かれたラッド一家のスパイスカウトが話題になっている。大量の密輸入品は領主に相談ということで収納して、空の荷車をラッドが引きながらえっちらおっちら行き先はない。
「やる気があるなら伝えるよ。多分魔信が届くからそれにしたがってね。
レイナード、そろそろいいんじゃないかな?」
「特に人目もないが魔力感知くらいしてから言ってくれ」
本日一番の仕事は村から出ること。二番目の仕事はラッドたちを東の国境沿いに送り出して流民キャンプで正式な亡命者として手続きをとらせることだ。
昼間だし北に進むのも目立つし、何より入出手続きをしていないのに職安で騒いだラッドといないはずの家族を連れている。
いつもの魔法使いだから消えたのかと噂されるかもしれない状況より見つかると上がる危険度が段違いだ。魔法使い以外がいるとこんなに気を使うのかというレベルで気にしながら人気のない草原を歩く必要がある。
「私が見た限り監視もないのう。では送ってやれ」
「はいはい。今から歩けば夕方には村につく位置に出ます。それではお気をつけて」
「本当にありがとう。妻と子が戻り次第すぐに移動すると思うが、いつか顔をみせにきてくれ」
家族探しの続行を約束して荷車ごと転移させる。目の前から一瞬で全ては消えてメヌールと二人きりになった。
「さてと、次は奴隷商の追跡だったのう」
「もしかして付いてきます?」
「ハイラルも居らぬし草原にじじい一人置いていくのかね?」
「基本空の旅ですよ? 足跡つけたくないし」
「テントを用意しておく。獣避けだけ頑丈にしていってくれ」
そういうわけで私一人偽レイチェルに行くことにした。
先程考えていたのだがやはり監視されているかもしれない。一人になり単調に追跡だけしているとそう思えてきた。
どう考えてもハイラルが事件に巻き込まれるのは不自然だし、幾ら痴呆が進んでいても息子に毒を飲ませるのはおかしい。何よりそんなボケボケした人がメヌールも数例しかしらないやばい薬を作れるだろうか。
本当にメヌールがいうように監視はなかったのか? 相手方が宝玉ならあり得るんじゃ?
段々一人にしたメヌールと魔法使いの庇護をなくしたラッドたちが心配になってくる。生憎昨晩徹夜のメヌールは寝ているらしく念話が通じない。悶々としながらどつぼに嵌まっていく。
レジーナの側の欠片ちゃんを監視カメラ経由で爆破しようかなんて考えていると奴隷商がテントを張り始めた。今日はここまでか。脳内マップにマーキングしてメヌールの待つ草原に帰った。
「ただいま帰りました」
転移して最初に目にはいるのは焚き火。無事でほっとしてしまう。声をかけたからかテントが開いてメヌールのような人影が出てきた。うん、やっぱり無事じゃなかった。念話のための魔力の糸を四六時中つけているので流石にわかる。
「よく帰った。夕飯はできておるぞ」
意図的に幻影でできた表情を顔と連動させずにいると偽メヌールは気付かれたことを察知せず軽く迎えの言葉を発した。
誰だこれ。
草原に入ってヒューマンでもかなり鍛えているメヌールの警戒を潜り抜けれる。それはヒューマンじゃないのだろう。ほぼ完璧なメヌールの幻を作れる。メヌールを知っている人物だろう。
「ところで、じいさん。あなたは何者なのかしら?」
下手に考えても最初から敵が多すぎるのに特徴を知らない。ストレートに聞いてみることにした。
「いつから気付いた?」
偽者が片手を挨拶するように上げると、ぐらりと幻は霧散して私が想像するエルフの長耳に近い輪郭が現れた。しかし肌が黒いのか白く焚き火を反射しない。
「ダークエルフ?」
「サンドラ・イシューといえば通じるかい? 私の計画を二度も潰されたので挨拶に来たんだ。で、君の正体は見せてくれないのか?」
なんかすっごい大物がきたんですけど。