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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
吟遊詩人編
187/246

23日目 ハイラルの危機

 月夜に影を捕まえられながらも人目を忍んで村に帰還した。空気の薄汚れていない世界の夜は星の輝きを反射する白い建物を際立たせる。恐らくあれが教会だろう。軽く扉をノックすると家主ではなくメヌールが開けて出てくれた。


「少々まずいことになった」


「何があったんです?」


 解答はなく代わりにメヌールは自分の頭を人差し指で軽くトントン叩く仕草をした。念話の催促だと思う。リクエストに答えて繋ぐとすぐにメヌールの脳から言葉が発された。


『結論から言うとハイラルは自分で帰れない。ここの司祭はボケていて、ハイラルを息子だと言い張っている。無理矢理帰ろうとしたハイラルは毒薬を飲まされて監禁状態じゃ。

 ドンカチャで返せと言ったが聞き入れられない。私になんとかする力はないので居座って生命の危険から守るしかできなかった』


 何だかえらいことになっていた。鈍感ちゃんは脳みそに働きかける催眠状態なので、脳がなんらかの異常がある痴呆の人間には通常の効果はないのかもしれない。


『どうして無理矢理倒して連れ帰らないので?』


『教会だからじゃよ。以前教会には聖域の結界が張ってあったじゃろ? 同じように教会の基本結界として魔法と物理攻撃のガードを客間に仕込んである。治療の妨げを行う者をいれないための処置じゃ。ハイラルがいる奥の部屋なら魔法は使えるじゃろうが門番はボケじじいときた』


 その痴呆のおじいさんがハイラルにこれ以上何かをしないように客間に引き留めていたらしい。というか態々扉を開けてメヌールが頭だけだしているわけはこれか。


『二人なら引き付けと奪還に別れられますね』


『私も分裂したいと思い悩んだ。あのじじいめ』


 自分もじじいなのになぁと扉と視線を中に向けたままのメヌールの隙間から覗いてみる。メヌールより若干年上だろうか。おじいさんが一人、客間向こうの扉の前でふんぞり返っていた。


「二人こようが無駄じゃ! サイモンのいる部屋も結界にいれておるわ!」


 おじいさんの言葉通りだと外から壁破壊も無理そうだ。しかし何だか強そうに見えるおじいさんだ。


『結界壊して連れ帰りますか?』


『結界は床下に入れる物じゃ。破壊できない家の下。場所を知らねば手に入らぬし、じじいが簡単に触らせないじゃろう』


 魔法が使えないのに魔法が使えないと取り出しにくいのか。力業担当なのにこれは困った。


『出力上げて防御魔道具みたいに壊せませんかね?』


『ルマンドから手に入れた特製魔道具らしい。君が勝てるかは謎だがやってみてもいいじゃろう』


 先程レイに焼き付けてもらった計器つき出力調整回路を使ってグンと魔力を引き出してみる。まずはメヌール五人分の魔力を。続いて十人分。全く変化がないので二十、三十、五十人。私から放たれる魔力が尋常じゃないせいか月明かりや蝋燭の明かりで僅かに見える物体が蜃気楼にかかったように揺れてうねる。


 ガッタン


「もう良いぞ。魔道具はわからぬがじじいが倒れた」


 何で倒れたのかわからないがチャンスなので二人でずかずか教会に入ることにした。メヌールは扉の前に倒れたじいさんの腕をつかんで離れた所に引き摺る。


「魔力酔いじゃな。道具が良くても鍛練不足じゃのう」


「魔力酔いって何ですか?」


「後から説明する。ハイラルの確保が先じゃろう」


 田舎の教会は職場兼住居の普通の事務仕事系と変わらない作りである。数部屋しかないプライベートスペースは家探ししなくともすぐに人くらいなら探し出せた。

 客間から蝋燭を拝借して部屋の中に薄明かりを入れるとボンヤリ膨らんだ寝台が見える。


「いましたね」


「顔を確認する。君は見るな」


「何でですか?」


「じじいが正規の結界道具の使用範囲に入れているなら魔法は使えぬが魔道具や魔法薬は使える。成り済ましの幻影を連れ帰りたくはない」


「見てはいけない理由ですよ」


「……毒の効果で醜い可能性がある」


 息子だと言い張っているのに容姿が変わるとかどんなマッド父なんだ? わけがわからなすぎる。


「忠告はしたからな」


 困惑で顔を背けない私を勘違いしたのかメヌールは蝋燭を頭部付近に近付けた。


「うお」


「ああ、移動は大丈夫じゃが治療がいる。家から連れ出して転移でホラ村の医務室に」


 メヌールがハイラルだと判断したものは青黒い魚人だった。エラをひくつかせて息も絶え絶え。魔法って怖い。ファンタジーじゃなくてコズミックホラーが始まってる。


「私が運ぶ。先導してくれ」


 蝋燭を手渡された私は指示に従うしかない。教会を出て医務室にトンボ返りする。




 医務室はレイの内職が終わったからか明かりもなくシンと静まり返っていた。メヌールにレイを叩き起こしてこいと言われたので個室から連れてくると魔法の明かりがつく部屋ではっきり打ち上げられた魚と人の間の生き物が見えている。怖いよこれ。私と違いレイはその生き物を一瞥するとメヌールに声をかけた。


「呪術? 薬?」


「薬じゃ。経過一、二時間。胃洗浄が終わった所じゃ」


「解毒薬は?」


「ベースはある。砂はあるか?」


「二時間なら足りない。ハラーコこれを三倍にして」


 謎の皮袋を渡された。中身は砂のようでずしりと手の上で形を崩す。


「魔力も再現してコピーしてね」


 何かはわからないが状況打破に必須なのは理解できるのでコピーで増やして鑑定する。

 火炎蜥蜴の鱗砂。

 今までで一番のファンタジー素材だけれどもはしゃげず魔力や品質の鑑定をしておく。百パーセント同じものができている。


「貸してくれ。レイナード魔同士は拘束の準備を。ハラーコはそれに習うんじゃ」


 慌ただしく皮袋を奪われた私は既に重苦しい鎖を持ち出して寝台にセットしはじめているレイの元に続く。


「足元の金具に」


 言われた通りにセットして魚人間を縛る。ぬめりで滑るが固定は出来た。


「薬が出来た。押さえつけてくれ」


 メヌールの言葉を聞いたレイは魚の内臓がありそうな腹に跨がる。


「ハラーコは足を。身体強化もつけるんだよ」


 滑る足に跨がっておさえこんだ。多分膝の辺りを押さえているが人間の関節ではないみたいに先が反対にも跳ねている。


「飲ますぞ」


 それからは暴れる魚を押さえるのに必死だった。流石にハイラルの治療をしていることは徐々に人肌に戻る接触面から理解できたし、身体強化しすぎて傷つけるのも怖くなって調整した。その分自分で出す力は細かく対応するので消耗せずにはいられない。

 バタバタしたが顔色の悪い元のハイラルに戻る頃には鎖だけで足りる抵抗しかなくなった。寝台に縛られるハイラルにちびちび薬を飲ませるメヌール。私とレイには余裕はできた。


「レイさん仕事あるでしょ。もう寝ていいよ」


「ああ、うん。目覚めるまで寝にくいけど引越しもあるしヤバいよね」


 草臥れたレイは部屋に帰る気が起きないのか適当な寝台に横になる。


「ハイラルが起きたら起こす。二人とも休むように。話はそれからじゃ」


 レイには魔法で睡眠をあげて私も横になったが、朝日が昇るまで私は眠れない興奮状態だった。

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