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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
吟遊詩人編
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23日目 魔方陣刺繍

「了解。軍を通して村に通達するから明後日でいいかな?」


「時間は朝でいい? 近くの村に使者出さないとだろうし」


 寝台に突っ伏したまま返事をする。レイは突然医務室に現れた私に特に驚かず寝る前に連絡事項だけ言ってねといいながら何かの作業をしていた。


「んー、朝ね。とりあえず日の出くらいに必ず村にいるように言っておくよ。他にはないのかい?」


「多分ホラ村関係はそれだけだよ」


「じゃあそれ以外にまた抱え込んでるわけだ」


「うん」


 以前はへらへらしやがってと思っていたレイのやる気のない声がなぜか安らぐ。もしかしたら父親をしていたなんて情報のせいかもしれない。うつぶせから横向きになり枕を抱えてレイの作業を見る。


「レイさんはさっきから何してるの?」


「何って刺繍だけど」


 机に向かって背を丸めるレイは父親というよりオカンだったらしい。ここから細かくは見えないが蝋燭の明かりでチマチマよくやるなぁと思う。


「案外暇なんですね」


「暇じゃないからね? これは魔方陣こめた刺繍だよ。女の子のする刺繍とは違うからね?」


 なんだそれは。すごく気になる。枕を抱えたまま立ち上がってレイの手元を見物しにいく。


「今縫ってるのはジルの軍服だよ。部隊長がやらかした件で引責があって降格してね。実働班に入る可能性が出たから魔法を防ぐ魔法刺繍をつけてるんだ」


 ジル、ジル、多分レイがそこまでするなら副部隊長かな? 記憶があやしいので推定だが、そんなことをしているらしい。


「まだメヌール司祭に習ってない? 魔法を使えない一般人向けの装備としてはポピュラーだよ」


 レイが言うには、魔法を使えない一般人が魔法から身を守るのには防御の魔道具が使えないそうだ。私たちが使っているピアスだとか魔石でできた魔道具は魔法使いから出ている魔力に連動している。簡単な理論を聞くに水槽の水を出すためにサイフォンの原理を活用するように魔力を使って引き出していた。なので魔力の操作ができない一般人には魔道具が使えないと。

 まずもって、魔法から身を守るのには魔法で対抗することが望ましく、その魔力は魔石になる。魔石単体で魔法は使えないので吸い上げる魔法回路と発動する魔法の魔法回路が必要だ。それを魔力を通す金属糸で刺繍する。レイが縫う魔法陣は確かに金属が光を反射して輝いていた。


「金属糸なのによく縫えますね」


「ん? 魔力を通したら柔らかくなるよ? 元々魔力通して劣化練金術で糸を作っているし。こっちのに軽くかるーく通してみて」


 既に終わったあまり糸らしい針金みたいな糸を渡される。言われた通りにしてみるとねちょーと溶けて液体になった。


「うん。予想通りのバ火力で溶かしちゃったね。額貸して」


 前髪をかきあげるとレイはそこに左手をのばして焼き付けをしてくれた。出力計がついた魔法で練金術とやらで使う魔法らしい。また針金を渡されたので一番弱い魔力に合わせて通してみる。


 魔力が通った針金は少しだけ柔らかくなった。脳内にある目盛りを徐々に上げていくと普通の糸の柔らかさになる。


「おお」


「これで回路を模した魔法陣を縫って最後にある程度の魔圧に耐えられるようにコーティングするんだ。とは言うものの刺繍するために柔らかくしなきゃだし、柔らかいということはあんまり高出力に耐えられない。なかなか柔らかくならない魔法金属で縫える魔法使いが作ると性能もマシだけど貴重だ。金もないコネもないジルのために幼馴染みが縫ってやるしかないのさ」


「なるほど。勉強になります」


 つまりは相当な腕と魔力の使い手が縫わなければ魔法使い相手には役立たずだということか。裏返した詰襟や袖、裾にある刺繍はディランが使っていた防御札に描かれた柄に似ている。吸い上げはわからないが防御の回路を縫っているようだ。


「ふんふん。これって縫う行為に意味があるわけでは無いんですよね?」


「んー。魔力を溶かした液体で描いても効果はでるけれども回路の太さも持ちも悪いね。壊れない限り繰り返せることが刺繍の意義かな?」


「防御回路の位置はどこからどこまでの予定ですか?」


「裏面だから別に全面にしてもいいけれども供給源の魔石がつくボタンとかに接触しなければ問題ないよ。手伝ってくれるの?」


「ええ、借りますね」


 溶けにくい金属でがっつり落ちにくい柄がつけばいいわけだ。アイテムボックスからガルド大教会の地下室でちょろまかした魔道具のミスリルを取り出す。


「え? それ魔獣の宝玉の魔法レベルに耐えるミスリルだよね?とけないよそんな高出力向け」


 がっと魔力を通せばでろんと液体になった。


「あー、すごい。ヒューマンにとかせる物じゃないからよそではやらないでね? もう少し硬めにして引っ張ると糸になるよ」


 気にせずジルの軍服にでろでろミスリルで回路を描く。


「おお、確かにかければ使えるけれどもさぁ……普通できないからね?」


 がっつり服の繊維に染み込んでいるけれども、私の手を離れたミスリルはすぐに固まって、モコモコペンで描いたようにでこぼこしていた。


「使えます?」


「拳大の魔石のボタンが買えればね」


「こんなものがあります」


 メヌール特性高魔圧魔石。


「最高! それ使えばこの軍服最強装備じゃないか! いいなージルの奴」


「今のと同じでよければレイさんのローブにしてもいいですよ? ただし二着目からはこの魔石、タダじゃありません」


「買った! 予備も買います!」


 コピーで増やすのでメヌールの技術代以外は実質タダだ。私はこんなにレイから金を巻き上げて良いのだろうか……。

 レイが頼んできたローブにはハイラルの軍人用ローブもあった。成長しても着られるように切らずに折り曲げて縫われたデザイン。土産を手に入れたことだし、そろそろハイラルに会いに行こう。メヌールに念話を送るとまだ教会にいた。養父にこれだけ愛されているハイラル君。彼の居場所はちゃんと残っているよと伝えたい。

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