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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
吟遊詩人編
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23日目 スカウト

 ランドルフは情報という物が好きで好きでたまらない外交が天職のような男だ。口で交渉しても良かったが昨日の記憶視聴が大変気に入ったらしくそれを希望してくる。情報は出した時点で価値が下がっていくものだが、メヌールのいうように私を相手に買い叩く真似などしないだろう。頑張って値上げしようと思っていたが、即やる気が削がれた。素直にラッドたちの話を公開する。


「なるほど。物事に対して一極の視点だけれども筋は通っている。偽レイチェルがレイチェルを通してガルドを侮辱しているのが透けて見えますね。

 しかし、不況で政情不安定。偽レイチェルも謎が多いですが、その偽レイチェルと拮抗できる政府軍のバックが気になってきました。金も信用もない政府軍が潰れない原因は何なのでしょうか? そちらの噂も機会があれば探りたいものです。

 さて、この情報の対価ですが金銭にするとそこそこ良い値がつくでしょう。アラリアから反政府軍の内情を伝えられた流民は少ない。前線にでておられた方の軍事情報もつけばモフ馬の行商馬車が手に入るくらいでしょうか?」


 閲覧が終わるとランドルフはするすると自分自身に言い聞かすように早口で整理される。実際、私に話しているつもりはないのだろう。しばらく呟くと目をあわせてにこりと笑った。


「お金を渡すだけなら今すぐ可能です。ですがこのまま大金を抱えて準領民になっても周囲と軋轢が生まれます。どうでしょう? お金の代わりに仕事の斡旋なんかは対価に相応しくないですか?」


 何やら思い付いたらしい。


「例えばどういった仕事でしょうか?」


「流民は主に最北村より西のクメールという砦を兼ねた関所を通ってガルド入りをしています。暫くは東でレイチェル国の汚名を灌ぐ活動をしてくださるようですが、御家族が揃えばそちらのクメールに移り、政府軍の方の噂を集めつつ砦へ物資を運ぶ行商をしていただきたいのです。行商人の皮を被った諜報員ですね」


 何か回りくどい手法のように聞こえる。既に流民キャンプがあるならそちらで噂を集めた方が早い。


「確かに直接クメールで噂に金一封払えば噂はすぐに集まるでしょう。しかしながらどうにもクメールの流民はよそで受け入れた流民と毛色が違うようなのです。幾つかあるのですが、身なりがそれほど悪くなかったり、国民を逃がした政府軍を悪し様に言ったり、何より正教会に傾倒している。ガルドには大していないヒューマン史上主義派だったりするのです。まるで反政府軍のようだ。おかしいでしょう?」


 あれこれ批判したくもなる状況ではあるが確かに何だかきな臭い。なんでまたヒューマン史上主義に?ちなみによその流民はそんなこともないので国民色ということもないらしい。


「あの一家の家長はとても政治的なセンスのある情報把握能力があります。そしてお嫁さん、彼女は反政府軍の管理下でも周囲に溶け込み自然に事実を拾い上げる行動力がある。お婿さんに関しては、あなたにたまたま救い上げられるくらいの強運があるようだ。あなたにコネクションがあり能力を知っていることも強い。けっして裏切りはないでしょう。どこの誰かもわからないガルドへの工作行為。探らせるにはこれ以上ない適任者です」


 ぎらりと光るランドルフの目は良い獲物を見つけた猛禽類のようだ。ちょっと怖い。メリットだらけに聞こえるが果たして私が返事をして良いものか。


「もちろんデメリットもありますよ。何者かわからぬ輩に顔を覚えられつつも定住箇所を指定されるわけですから。その分、どんなに儲かる話が来てもアデン北軍の仕事も外せなくなります。情報がある程度揃うまでどんなに人間が合わない担当や地域であろうと辞められません」


 そうはいっても何もない流民にとっては仕事があるだけ厚待遇だ。


「どうしてそんなに格別の配慮を?」


「先程の評価では足りませんでしたか? 更に付け加えるならばレイチェルを山車にしてガルドに情報戦を仕掛けてくる反政府軍、同じ思想のクメールの流民。うまく繋げば態々見えない敵に配慮する必要がなくなります。

 我らのガルドは強い国です。領内の治安を気にして隣国の内戦を見ていましたが、背景に宗教、しかも正教会が見えるならばもう纏めて叩くべき羽虫でしょう」


 まるでもうランドルフには正体や動機が繋がっているような言い方だった。どういうことか聞くか悩んでいると更に笑みを濃くして教えてくれる。


「十中八九、正教会が絡んでいます。内戦の原因としてではなく資金や組織運営に。それがアデン中央やガルドの大教会が絡んでいるのか、アラリアの大教会単独か、はたまたドワーフを苦しめた国の教会か。敵が孫までか子までかあるいは全てか。そういった調査です」


 ガルドは喧嘩を売る前からやる気は十分ということらしい。ラッドに伝えて後日返事を持ち込むといい席を立つ。

 超疲れた。他人のために。


「そうそう、領主様からの伝言です。二、三日中にホラ村の移転を実施してほしいそうです。明日より魔信が戻りますから、それからなるべく時間をあけずにお願いします。あちらにいるレイナード魔導師と念話で調整してくださいね。こちらには完了報告を職安で入れていただければ後日復活なさる森の広さに応じて追加報酬をご用意いたします。本日はありがとうございました」


 追撃にやられてフラフラしながらホラ村の医務室に転移した。メヌールに話す前にレイとの話を片付けたい。休まる場所が無さすぎだからか直ぐに寝台に突っ伏した。

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