23日目 内戦の経緯
ラッドの家庭事情に深く関わっているが、捜索メインの世を忍ぶ仮の職業をしたりで全然彼とは話をしていない。私が彼だったら意味不明の何かに巻き込まれたと思うだろう。たとえ家族の恩人としても。
予想通りラッドたちのテントに行くとラッド、彼の義父、義姉の三人はかちんこちんに固まって片言のお礼をくれる。怖がらないで欲しいとストレートにお願いしても無意味だ。ほぐす話題もないし本題からはいる。
「あー、とりあえずなんだけどね。捜索はアラリアを越えて偽レイチェルまで移ったんだ。それで拠点をこのままにして冬になっても困るから、よければ流民としてガルド北部に移って欲しいの」
「移動はかまいません。偽レイチェルっていうのは何でしょうか?」
また話を飛ばしすぎたらしい。代表者になるラッドの義父がわからないことを教えてくれた。最初のドワーフの話やガルド政府の見解もいれて説明する。
「なるほど。確かに反政府軍はレイチェルではなく偽レイチェルの支援なのでしょうね。アラリア内戦は一月二月前に始まったものではございません。半年より前、一年以内に始まったものでした」
商売人の義父さんがいうアラリア内戦は標高の高いアラリアが雪解ける夏前に始まったらしい。
そもそもの発端はアラリアの北にあるドワーフ国家の内戦だった。ドワーフ国家は超技術を護るために長年魔法契約を使っていたのだが、その契約を結ぶ魔法を管理する火の神の教会がもめる。理由はヒューマン国家からきたアラムウェリオを主神とする正教会の介入。
火の神の教会が今まで通り管理するべきという保守派と火の神の教会を実質支社扱いする正教会が仕切るべきという革新派で別れてしまったのだ。古くからドワーフの創造主である火の神の教会は国王の兄弟などが天下りしていたので保守派は現政府サイドになり、交易で市民権を手に入れた後から来た人種は正教会の信者が多く革新派になる。気づけば人種戦争になり、そのドワーフ国家とアデンの間の商売人の国であるアラリアは経済的に余波を受けた。この時点の暦では春であった。
「かの国の商品は後から来たヒューマンや、我々アラリアの商人が流通に載せることで発展してきました。ですので火の教会の信徒ではないヒューマンなどの非ドワーフ人が売買停止にされた時、かの国もアラリアもあっという間に共倒れです。人種戦争での不況の原因は何かとなり、仲買に頼りきる政府が悪いという者もでれば、非ドワーフを排除したかの国が悪いという者、発端の正教会が悪いという者、気付けば政府や教会への不満を持たない者などいなくなり、反政府を名乗る組織はあちらこちらで生まれたのです」
アラリアの反政府軍は最初はこうして様々な思想の物があったようだ。しかしながら吸収合併などを繰り返すうちに雲行きは更に怪しくなっていく。
「我が祖国もかの国も民を全て救うことなど不可能です。それが同一化に繋がったのでしょう。非ドワーフの売買停止に抗議をしていたアラリア政府も同じとみなされ、正教会排斥主義だと噂がされました」
人種戦争は宗教対立に戻る。アラリアは商売人の多い多民族国家だが、主な販路はヒューマンだらけのアデンだ。火の神より父であるアラムウェリオが正しいとキナ臭いのではと議論になる。
「最初は隣国に巻き込まれた不況への不満だけだったのです。それなのに政府に抗議する反政府派最大派閥はヒューマン史上主義に変わってしまいました」
背景を聞くとドワーフ国家から抜けたといえども抜けドワーフがアラリアの反政府に援助する流れは全くなかった。逆に政府援助していた方が合っている。まぁ、レイチェルにそんな力も興味もないだろうけれども。
「しかし、それなら何故レイチェルが黒幕説なんかがわいたのでしょう?」
ガルド側の疑問でもあったここに返ってきてしまう。
「それは私の方が詳しいと思います」
義父さんから義姉さんにバトンタッチだ。義姉さんはつい最近まで義兄さんと配達巡業していたようで本拠地から動かないラッドと義父さんより地方の噂に詳しいという。
「アラリア東部は反政府の拠点になり、亡命するには一時的に奴隷となる方法しかないと言われていました」
東部では既に反政府軍が亡命者を捕まえて兵士にするのは有名な話だった。安全に家族みんなが亡命するにはという議論はあちこちで盛んにされる。その中ででたピカイチの案がこれだった。
アデンが流民受け入れをすればこの戦争に巻き込まれかねない。代わりに逃亡ルートを作ってくれている。実際はあちこち国境沿いに受け入れ体制を調えていたがまだ国を出ていない民間人はアデン側から事実を持ち帰る人もおらずこれを信じた。
直接アデンには入れないが、新興国で奴隷解放条約に加盟していない国がある。亡命ではなく、奴隷として入れば戦争の介入ではなく商売の話になる。レイチェルに奴隷として入国し、出国すれば奴隷解放条約で平民に戻れる。人権がない間の記録は証拠にならない、誰にも迷惑をかけずに亡命できる。レイチェル自体は国土は狭いのですぐに解放のために他国にいける。
穴だらけではあるが切羽詰まった伝のない人間にとっては藁をもすがる思いだったのだろう。そして皆は国境を目指し、最悪は奴隷になればと記憶に残す。
「私たちが捕まった時、反政府軍は選択肢を与えました。反政府軍の一員になるか、奴隷ルートを使い亡命するか。東部の噂を知るものは奴隷ルートを望みます」
頭の片隅に噂が希望として残るのだ。それなら奴隷にとなる者が増える。しかしながら実態は選択肢なんかなかったという。
ラッドが行商任務についたので彼等一家はすぐに奴隷になるのではなく、反政府軍に入るルートを選んだ。
女である彼女は作業所に入り調理部隊に所属し、前線に送る土野菜の土を払って定数を袋詰めする仕事に就く。そこで同じような境遇の女性たちと会話して知ってしまったのだ。
「同じ作業をする方たちは軍を希望した者だけでなく奴隷希望者もいたのです。彼女曰く、年嵩がいっているので売れないと。亡命のための奴隷制度活用ではなく、反政府軍の資金源が奴隷なのだとわかりました」
探せば幾らでも奴隷希望者が働いていた。反政府軍は金銭価値をみてレイチェルに奴隷を売っている。亡命などない。あの噂は反政府軍が流した欺瞞情報なのだ。
「皆、奴隷になって出国した家族を心配しながら、反政府軍と取引するレイチェルを恨みました。馬車は東に行くし、奴隷制度がない国ばかりなのでレイチェル国へ売られること自体は疑いません。噂の真相はこの事実が背景にあるでしょう」
まとめると、反政府軍が原因てところか。北の争いはなんとなくわかってきた。
「よし、じゃあ皆さんにお仕事を依頼します。流民受け入れ先でレイチェルではなく偽レイチェルが反政府と人身売買をしていると真実を流してください。今の情報をガルド政府に売り付けます。手にしたお金で他の家族が帰ってくる場を調えてまっていてほしいです」
商人一家が生活を立て直すには資金は必要だろう。ついでに真実はきっと戦後処理にガルドに必要なものだ。レイチェルは実質ガルドの飛び地だし。
どうしてそんな話になるんだとぽかんとする一家には明日引越だと伝えて宿に帰る。物事の道理やら正義なんてわからないけれども、私の平和のための敵リストにアラリア反政府軍を加えておいた。