23日目 予定は未定
目の前には腕を組んだメヌールがいる。絶体に高魔力魔法を作ってくるだろうとのことで私もホイホイと現在最大出力魔法である『転移』魔法一発分の魔石を預けていた。にも拘らず、できた魔法はその奥が一にも満たない魔力でできる『れじれじ一号』と『れじれじ二号』である。実験もしたし実用に耐えうると自信満々に話せば、「実験前にこちらに知らせることはできたんじゃないのかのう」と青筋をたてられた。
メヌールはひたすら魔石を圧縮結合させる目の光を無くす材料作りに勤しんでいたらしく、最初の説明段階で首を狙われるくらい追い詰められていた。すまんかった。
まぁ、とりあえず依頼の品もできたし、副産物は転移が目標のレイに売ればいいと思う。魔法の袋一杯の魔石を消費して何とか一回急場凌ぎができるくらいらしいので全財産超高圧魔石にくらいしてくれるはずだ。
そういうわけで、夕方の吟遊詩人会議まで今しなければならないことは終わった。
「偽レイチェルの方は明日の昼に出る場所を追跡だし、魔道具は深夜に手渡し。レジーナは領都につきそうですけど初日は領主ではなく教会の情報収集でしょう」
「そうじゃのう、明日に全部回したともいえるが、下手につついて明日の仕事が酷いことになるのも怖いしのう。明日の昼まで時間があるなら明日宿を引き払ってラッドたちと姿を眩ましてもよいが、ハイラルがいないまま決めるのも揉め事の元じゃな」
「そういえばいないですけどどうしました?」
メヌールによれば私が外出しまくっている間、他の吟遊詩人たちが面倒なことになっていた。歌い手が直接的に悪意をぶつけるならまだしも、私たちとはレベルが違うしみたいな卑下した言い方でつっつきまくる。楽器担当が合併か脱退吸収をお願いしてくる。これを忙しい居留守のメヌールの代わりに捌いていたハイラルはこの村の教会に逃げ込んだそうな。
何で教会に? に対するメヌールの答えは単純で、疲労を理由に即日退院型の入院で逃げたのだ。こんな扱いしんどいですと言っても通用しないので司祭に金を握らせて入院が必要なくらい追い詰められているので確保しますをしてもらう。夜まで逃げられるし、明日以降も痛そうに胃を押さえて教会に逃げ込めば追いかけられない。お前は政治家かといいたい逃げ方だが穏便に回避するというお約束なので仕方がないのだ。
「なんか一刻も早く宿は出た方が良さそうですね」
「それはそうじゃが、ハイラルが前回言うたように何も知らせず決めるは三人の関係がややこしくなるぞ? ハイラルの記憶を消すのか取り込むのか決められたのか?」
そう言われたら弱い。ハイラルの観察と他の仕事の兼ね合い、ラッドの家族のことがあるという理由で延泊しているのだから。
「決められないですが暫く村には入らないのならばそれを延ばしても良いのでは?」
「村を出て野宿生活をするとしても、ラッドたちと共同生活をするのではないのかね? 置いていけぬしのう。というかラッドたちの家族が見つかったらその後彼らはどういうルートで逃がすんじゃ?」
領主に記憶を見せたが酷いことになっているなで終わり、救済処置は貰っていない。あくまで私が個人的に救う約束をしている他人という扱いだった。
「それは領民でもなければ、正規の保護対象の流民でもない。領主が領主として助けるメリットはなかろう。私たちと領主はメリットのある取引をした上にまだ契約半ば、次回も契約をできる関係でありたい取引相手じゃよ。取引もなしに貴族が平民層を優遇することは弱点になりうる。当たり前の対応じゃ。君が何か提示して取引として保護してもらうか君自身が助けるしかないのう」
人間関係が円滑なファンタジー世界だと思っていたが、円滑な理由は私の利用価値にあった。それなりに世界は殺伐としているのに恵まれた私は能天気にも気付かなかっただけらしい。
「正しい流民で入国すれば問題ないなら国境山脈の監視小屋付近に転移させて正規ルートにのせますよ。ハイラルがわけわかんないことになるので合流できないなら今すぐにでも運んで順次送り出します。これでいいですか?」
「まぁ、わざわざ領主も文句はつけないじゃろうが。ハイラルが帰ったら明日村を出ることを話し合うとして、ラッドたちは冬が来る前にそうしてやったが良さそうじゃの」
「一体どれだけ厳しい冬が来るんだか。とりあえずラッドに話してきますね」