22日目 やっぱり言っとく?
夜の吟遊詩人活動はそりゃあもう針のむしろだった。歌い手の女性連合は怖いし、ハイラルは喧嘩別れしたのプラス監視期間だし。メヌールはこれが基本ですとばかりに空気は無視、他所の吟遊詩人の男性陣は歌い手連合が怖いのかメヌールと似たり寄ったりだった。
何より一番辛かったのは仲良しこよしは構わないとしてもこの宿の吟遊詩人達、足を引っ張り合わない代わりに出る杭がない。簡潔にいうとまとめて下手くそ三流以下であった。
悪いことは重なるもので、新米の私たちは優先権が低くこの日一番手。皆さんそこそこお出来になるだろうと手前の村と同じクオリティーで演じた後に他所が酷いということが判明。当然のようにアンコールは我々の物となり物凄くこの宿に居づらくなったのである。
「レイナード、世を忍ぶ仮の姿がしんどい。宿変えたい。むしろ次の村に行きたい」
「ラッドの件が終わるまで動かんのじゃなかったか?村の間で野営しても良いがラッド達はどうする?」
延泊は私の都合で意見だったのでぐぅの音も出ない。
「そうそう、ラッド含むアラリアについて領主に報告するんじゃなかったのか?」
そういう予定もあった気がする。メヌールに言われて思い出した。アラリアは報告できるが宝玉の欠片はなぁとレジーナ一行についても意識が向く。相変わらずそちらは天恵なしである。
「今後の行先変更も含めて情勢確認に行った方がいいですよね」
「そうじゃな。できれば北東部情勢と船旅許可について聞いてほしいのう」
「船旅許可って?」
メヌールが言うには北の国へ出る船と小さな島国に行く船がここから北東にある港で乗れるそうだ。北進に不安な今は北に向かうというよりその港を目指して、着いたときの情勢でどちらに乗るか決めようと言う。以前迷っていた陸路か海路かの選択を海路に絞ることでアラリア国を通らないプランもつけられる進路だ。
船に乗るには身分証の他に船旅許可証が必要で、船旅許可証がないと乗船券が買えない。アラリアに行くにしろ、島国に行くにしろ、港を選択するなら必要なものだ。そしてその船旅許可証は出航地の税関に等しく領主の印がいる。
移動中の私たちが手続きなんて待たされることはタイムロスなので、金を積んで領都出発前の日付で発券してもらえという意味だった。
「アラリア情勢、島国情勢と港について。あと船旅許可証。他に話したいことはないですか?」
「そうじゃな、教会の方も気になるのじゃが……これは数日後にレジーナがなんやかんやして変わるじゃろうし。あとはホラ村移転か?」
「了解しました」
領主に念話で許可をもらい、深夜の宿屋からそっと抜け出した。