ハイラル分析
ハイラルはまだ成人したてではあるが軍人である。多くの軍人は成人して直ぐ軍の門を叩き、魔法使い軍人は移動狩猟民として師匠から教えを説かれた後に入る中、未成年のうちから軍人見習い、魔法使い見習いとして早くから下積みを重ねていた。当然、北軍の魔法使い見習いや軍人として同い年の中では最も出世頭であるし、既にそれらしい仕事も経験がある。その経歴はハイラルを妬む者にとって、『幼い頃の不幸の代償』であり、『可哀想な生い立ち』なのだ。より強固に軍での居場所を守ることが、やっかみの中で生きていくハイラルのプライドである。
それ故、ハイラルの思考回路は幼いままだったり、軍人らしく冷徹であったりと歪だった。本人も集団生活を重ねる中でそれを理解し、常識的にリカバリーしている。十五歳成人の常識的感性ではみっともない不安を抱えるべきだ、軍人としては目的のために己れの感情を削り実利を見いだすべきだ。常に丸で対極の二人がいるかのように物事を二つの視点で見つめて最適解を出すことに徹した。直ぐに感情の赴くままに喋ったり顔に出したりしない。いつだって答えを出してから現す強かで不器用な少年、これがハイラルである。
今回のぶちギレ事件の背景は、そんなハイラルの中で計算された十五歳らしい不満の出し方だった。私とメヌールが子どものような喧嘩をしていたので軍人のハイラルが直ぐに解決すべきという解答と、十五歳のハイラルが自分も混ぜろと拗ねる解答を出す。喧嘩は早くに解決したのでタイミングを見て不満を言わねばおかしいだろうと今朝から間を測っていた。私の理不尽な買い物により、大きな問題は生じないここでキレようと意図的にキレた。
情報不足であったとしか言えない。メヌールは私がラッドに向かったと同時にハイラルを宿屋に連れ帰り、私が如何に問題ある存在であるか直接『魔獣の宝玉』や『他にも意思ある宝玉がある』かを説いて、煽ったことを責める。メヌールはいつだって口の悪いひねくれ者であるが、十五歳と軍人の思考両立をしていたハイラルの心を崩壊させたように見せた。
軍人として、レイが自分に課した仕事は面倒事や教会から魔獣の宝玉を守り、その運命を観察することだ。それを自分自身が危険に曝した。
少年として、そんな重責耐えられないと押し潰されそうになるべきだ。恐ろしいと思うべきだ。
ハイラルが出した解は怖がり押し潰されつつも成長して受け入れる。私が帰らなかったら別の成長を探す。
筋道と合理を混ぜたもので、恐怖も重責も実の所存在しない。若いくせにかなりのタヌキだったわけだ。
これは完全にメヌールは理解できていないだろう。違和感を覚えてもこんなコントロールだとは予想すまい。
裏切りの方向には行かないだろうが、ハイラルは強かで不器用な変わり者だった。