22日目 救助
獣人の商人はラッドと名乗った。狼なのに? と思ったのは内緒である。
ラッドの家族は妻、娘、息子と妻の父、妻の兄夫婦という六人が人質になっていた。商人の義父が一家全員で逃げることを提案して馬車に二台に分乗。国境目前のウルルナという村で反政府軍の襲撃にあい、馬車と家族を奪われた。反政府軍はヒューマン至上主義を支持している。家族は皆ヒューマンで、幸いなことに子ども達もヒューマンの見た目で生まれた。獣人のラッドだけが分離された形だ。反政府軍はラッドに家族の無事を願うのであればこの傭兵獲得をするか軍人になるようにと選択を迫る。ラッドは助けを求められるガルドへの旅を選んだ。
「ウルルナの村で捕縛されたとのことだけれども、それから何日くらい経ってる?」
「もうすぐ一月だ。二ヶ月で帰るように言われているからそろそろ引き返さなければならない」
「捕縛されたヒューマンが収容された場所は聞いたことがある? もしくは一月以内の距離にある収容所を置いてそうな村」
「アラリアは一月もあれば南北歩けるくらいの小国だ。政府軍が居ないところは全てになる。
ただ、反政府軍は東のレイチェル国から援助を受けているという噂だ。噂が本当なら補給線は東側に延びていることになる。西に政府軍もいるし、非戦闘員の女子どもならウルルナより東に移動させていると思う」
反政府軍はどういうつもりでラッドを出したのだろう? 魔法使いが欲しいのもあるだろうが、魔道具を売ってこいとか無茶をいうあたり帰ってくるなと追い出したのか否か。一ヶ月家族が生き延びれているか確証が得られる話があまりにも無さすぎる。
「とりあえずウルルナに行こうか。手を出して」
ラッドの手を掴んで、彼の記憶からウルルナがあるであろう辺りに転移した。
「うぇ? なんだこりゃ」
「転移だよ。私、すごい魔法使いなの。ついでに周りから見えないようにしてるから声は潜めてね。捕縛に関与した戦闘員はいる?」
目を白黒させるラッドを引っ張り、武器を持つ男たちの前に連れていく。色々わからないなりに聞かれたことには答えようと顔を見渡してくれた。
「あいつ。あの槍の男が隊長と呼ばれて捕縛の指揮をとっていた」
了解だ。任せろ。隊長とやらの記憶からヒューマンの捕縛者の行き先を探る。
ヒューマンの行き先は幾つかあった。ラッドの家族がいそうな場所は大体三ヶ所になる。
一つは前線。男性は特に訓練もなくナマクラを渡されて西の前線行きになる。養父と義兄はこちらに送られていそうだ。
二つ目は養育施設。子どもは少年兵ではなくレイチェル国に人身売買されていた。その取引所が旧孤児院でウルルナの本村にある。売られていればレイチェル国、まだならそこだ。どちらにせよ手がかり探しに行かなければならない。
三つ目の後方作業所。胸くそ悪いが経産婦と盛りを過ぎた女性は生産やらの後方支援のために作業所に送られている。生きていればとついて、理不尽に殺される可能性も高い。
緊急性なら義父義兄が一番だろうか。偉そうな奴が偉いと思っている奴を順に脳内スキャンさせてもらって現在の前線位置を確認する。お互い魔信を壊しているのでリアルタイム情報ではないがそれなりの位置を絞り再度転移した。何度か人を探しては読み取り、前線基地にたどり着く。
ここからたった二人を探さねばならない。
「ラッド、お義父さんとお義兄さんの顔を浮かべて」
ラッドの記憶から二人の顔をなるべく細かく覚えてそれを条件に『こっちこい』で無理矢理魔法で引っ張る。いつも物を呼び出すように正確にだ。魔力をこめるとすぽっと腕の中に見知らぬ男性一人がおさまった。
「お義父さん!」
突然体がぶっ飛び、ラッドの声がしたので義父らしい男性は混乱している。血は繋がっていなくても家族だからか驚いたリアクションは同じだ。しかし、なんというか。二人を呼び寄せたのに一人しか来なかった。この場にいないだけなのかもう死んでいるのか。あえて言葉に出さない方がよさそうだ。
「ひとまず彼を連れて戻るよ」
二人を連れて領都東村付近の道に出る。隠密セットを解除したら叫ばれた。今度はお化けでも見た気分だろう。
「次は奥さん探してくる。ラッドは彼に説明してここで待機ね」
太陽は昼すぎを示している。夕方までに奥さん達を連れ帰ってあげたいものだ。