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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
吟遊詩人編
170/246

22日目 ハイラル、キレる若者になる

 服屋の記憶はこっそり消すからメヌールには黙っていて欲しい。仲直りしたてで、今親切に並んでくれているメヌールが怒ったら居たたまれないから。そんなことを繰り返しながら、ハイラルにずるずる引きずられるように職安に帰ってきた。列は三分の二程消化されたようで結構前に進んでいる。


「レイナードさん、今日の買い物は終わりました」


「そうか、明日は食材を買ったら出ていけるように出村手続きもまとめてしておくかのう」


「このいい加減さならまとめて手続きしても問題なさそうですね」


「……ハイラル、性格変わっとらんか?」


 並ぶ前は規則違反にあわあわしていたのにふてぶてしく乗っかるというハイラル少年。流石にメヌールも軽くひいている。


「ああ、ヴァイオレットが何かやらかしたのじゃな」


 その通りだけれど直ぐにその答えにたどりつくのはどうかと思う。


「ヴァイオレット様だけではありません。レイナードさんもお師匠様も、皆まとめていい加減なので。大人になるって随分簡単なことだったのですね? 今日から僕もいい加減に振る舞って大人らしく生きようと思います」


 ふんっと鼻息荒くハイラルは腕を組んだ。メヌールから何やらかしてのとばっちりだと目線が来る。


「そもそも皆さん僕に説明が足りないのです。若くともポジション的に潰しがきく僕を避けて肝心な情報や作戦を決めていきます。それでいつもわからない僕が現場であわあわする羽目になるのですよ。

 蒸し返すようですが、昨日はお二人とも僕には重要な話をしてくれませんでした。お互いに知らないでしょうが二人して僕に子どもみたいな言い分だけ話すのです。三人旅なのですから、間に僕を入れて話せばもっと早かったはずですよね?

 ついでにいつ聞かせてもらえるかと待っていた旅の目的も打ち明けてくれないですよね?

 その癖お二人ともルールは無視するし、非常識な調理やテント立て。ヴァイオレット様の常識知らずとごり押しにレイナードさんのモラル知らずと偏屈。僕だけ知らなくて困る毎日です。

 大体何でなにも知らずに僕はここに……」


 何だか凄く怒ってらっしゃる。多分引き金をひいたのは私なのだけれども、成人している彼に一人知らないことを強要したのに自由すぎる周りにブチキレたようだ。


「ハイラル、君が真面目でいい子なのは知っておるが」


「また子ども扱いですか? 御教授いただく以上仕方ないと思っていましたが、僕は成人年齢です。それにストレスは教えてくださいましたがまだ何も必要な授業は受けておりませんよ」


 ぷんすかしている姿は子どもなのだが、毒舌は確かに大人だ。言葉を遮られたメヌールが助けを求めているが何も言えない。文句を言えば情報開示をしないといけなくなるか、さっきのナンパをチクられて敵が二人になる。


「僕はですね、機密レベルと言うものは理解しているんです。お二人の実力も。しかしそれだけで線を引くには些か他の事柄にも限度があると言っているんですよ? わかります?」


 ハイラルソロステージを頑張って聞き流す。列の前後の商人達も最初は迷惑そうにしていたが若いせいか共感の眼差しを向け始めた。まずいなこれは。振る舞いを改めるか情報開示するかなら明らかに前者しか選べない。空気は逆風だけれども。


  そんな風に周囲のハートをがっちり掴むハイラルの演説中に突然前から怒鳴り声がしてきた。全員、ハイラルから前にある職安受付に顔を向ける。


「だから無理だっていってんだろ!」


「こっちは家族の命がかかってるんだ! そんな規則で諦められるか! 緊急事態なんだぞ!」


「規則は規則でも領どころか国家間の条約だ。どうにも曲げようがないだろうが!」


「魔信も通じないのにどうしろって言うんだ!」


 何やら私が止めた魔信の不通で人の命が懸けられたらしい。詳しく聞き耳をたてる。

 受付で怒鳴る男は絵本に出てくる二足歩行の狼に見える。移動狩猟民かと思えば、北のアラリア国からアデン国ガルド領にものを売りにきた商人のようだ。

 内乱から国家崩壊まで進んだと噂のアラリアはアデンに国民が流れていることから、国境沿い東に反政府軍、西に政府軍が陣を作り流民を捕獲して自陣の軍に入れと脅しているのだとか。商人は家族が反政府軍に人質に取られて、積み荷の魔道具を売って魔法使いの傭兵を雇ってこいと言われたらしい。どこかで聞いたような無茶苦茶な話である。

 この商人の受付への要望は領主に即伝えて軍人を貸すか魔道具を買い取れ、または売るための許可証を出せというもの。領主にこんな宿場町から通報するにも魔信が繋がっていないのでできない。傭兵資金になる売り物、魔道具は国同士の契約で輸出入する貴重品らしく、反政府軍が売りたいと言っても買えないと受付は言っている。

 魔信が繋がっていればどうにかなるという話でもないと思ったが、ガルド領に入ってから全部の職安で魔信を頼むが断られて、どんどん期日を減らしながら南下してきたようだ。早々に連絡がつけば、すぐ隣の土地だしガルド領主は何かしら手助けできたかもしれない。関わりがあるのかないのか微妙な所ではあるが彼の境遇は同情されるべきだし、切羽詰まった状態だ。


『領主に通報してあげますか?』


 念話でメヌールに聞いてみる。仲間はずれにおかんむりのハイラルも繋いでおく。


『同情するがどうにかできるとも思えん。言っちゃ悪いが既にご家族は亡くなっているだろう』


『彼自身は真に救われませんが何かすることで慰められるのでは? ついでに領主には必要な情報ではないですか?

 私が知っている似たような状況だと、成人男性の消耗激しく、自国や隣国から子どもを拐ったりして洗脳軍人を作りますよ? 少年兵っていうのが生まれたら数年では終わらず数代停められなくなる戦争になります』


『私の想像を越える。付け加えて報告するか』


 どう考えても逃げる国民を脅して人員確保なんてヤバい戦争しか浮かばない。隣の土地がそうなればガルドも影響を受けるし、教会に喧嘩を売ってる場合じゃなくなる。


『どうして助けに行かないのですか?』


 怒りが融けたのかいつものような口調でハイラルが疑問を浮かべた。


『どう考えても手に余るじゃろう』


『いつも力でごり押しするのにですか?』


『いい加減にしろ! 我々三人の命だけでは済まぬのじゃ!』


『生憎どう済まないのか知りませんから! それならハラーコ様だけで隠密救助に向かえば良いじゃないですか!』


『そのハラーコが大事をとるべきなんじゃ!』


 耳からだけでなく念話でも怒鳴り声が続いてきた。監視カメラの揺れるモフ馬上の映像も加えてかなり気持ち悪い情報の混雑が起きている。


「行きゃいいんでしょ。ハイラル、借りるよ」


 念話を切って、こっちこい魔法でハイラルの軍人証明書を拝借する。


「待て、ヴァイオレット」


「いってらっしゃいませ」


「レイナード、ハイラルには知りたい話は全部聞かせてあげといて。夕方には戻るから、耐えられなさそうなら消すから縛って待っといて」


 メヌールの足を硬直させて受付へ向かう。獣人の商人にチラリと証明書を見せた。


「少し時間くれる? ここより建設的な話を保障するわ」

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