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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
吟遊詩人編
168/246

22日目 お勉強回

 たんまり稼いだお金はハイラルに預けて領都東村へ向かう。道すがらハイラルにもレジーナを監視している話をふって突然出掛けることをあらかじめ伝えた。ちなみにまだレジーナの祈りも欠片ちゃんの呼び出しもなく、普通に治療院をしているだけだ。


「監視ですか。便利な魔法ですね」


「念話システムより簡単だよ。思考をわざわざ変換しなくても良いから初期投資の魔力が少ない。ただ距離は延びるとやっぱり魔力使うね」


「そういえばヴァイオレットの魔法は脳にかけるものが多いのう。私にも人の脳について講義してほしい」


 そんな流れで魔法のための脳のメカニズム講座が始まった。

 アデンの魔法は長年の蓄積か神経や細胞の研究が進んでいる。わかりやすいファンタジー治療は活性化や分裂断絶をコントロールしているのだ。

 ただ観測するための科学はあまり発展していない。生きている人が苦しんでいる内臓に手は出せても、生きている人の脳に手は出せていないのだ。簡単にいうと脳のどの部分に何の役割があるかとかがわからないので脳に関する魔法が作れない。超科学でもない平成日本程度の知識をもつ環境がない。


 二人にはまず心はどこにあるのかから話さねばならなかった。宗教的に肉体全てに魂が宿り、肉体を神に還した後に残るそれに心の所在があると思っている。魔法回路を有する魔法使いはなんとなく脳に指令部があるのは理解できるようだが、肉体と心は別だと思っているので殊更理解させるのは困難だった。脳を遮断して無感動体験なんていうのを体験させたり、刺激で何も無いのに楽しくさせたりと試行錯誤してようやく脳が心と繋がっていると理解できる程度。繋がっているがそのものがそこにあるのは文化的に無理らしい。


 労力を割いてから魔力を通してこの辺は記憶、この辺は痛覚と覚えさせていく。全ては理解できなくとも鈍感ちゃんをカスタマイズすれば新しい魔法のヒントにはなるかもしれない。


「新しい概念がいっぱいじゃな。そちらは逆に聞きたいことはないかね?」


 一度に沢山覚えるのは難しいので話題を変える。今度は大陸外からきた私向けに講義をしてくれるようだ。ぱっと思い付くのは妙に絡みがある宗教だろうか?


「そうですね。宗教が難しいです。島国人としては」


 初っぱなから利権だ組織だとしてきたせいで宗教観や概念がなんとなくのふわっふわだった。専門家というか元宗教家に聞くのが通りだろうとふってみたが意外と紺屋の白袴。商売であり、貴族の出世が先立ったメヌールは暗部を見すぎて無着色にはならない。神官なんてこんなもんと開き直るのでレジーナ理解も更に難しい。

 逆にこれはハイラルの方が詳しかった。歩き神官偽装のために宣教師教育がされている。


「アデンで宗教というとアラムウェリオを主神とする正教会を指します。他の教会はアラムウェリオの子である神を主神とする物もありますが、ヒューマンの村にはほぼ無いといっていいでしょう」


 獣人やエルフなどが持つ宗教は精霊信仰に近く、土着文化である。地球のキリスト教は別宗教を悪魔や邪教と言って排斥した歴史があるが、アデンでは逆にあれは我々の神様の子どもであるという取り込みで同化してきたらしい。当然自分達の神に上下をつけられて怒る者もいたが今は昔。日々見守る神よりも、善行を評価して御利益を貰えるらしい現世利益主義であるアラムウェリオに慣れていく。ただ長い寿命のエルフはあまり同化が進んでいない。寿命の短い獣人はほぼ正教会だが、エルフの方は独立した宗教と正教会の流れを組む宗教と二分している。主な歩き神官の仕事はそういう土着文化との融和がメインなので、はっきり厳しい宗教にはなりきれないそうだ。

 正教会の主張は、アラムウェリオが作った大地に、アラムウェリオが作ったヒューマン、子ども達が作った別人種というラインナップ。最近は私のように大陸外から人種の違いがでる黒ヒューマンや黄ヒューマンがいて位置付けが難しくなっている。アラムウェリオが作ったというべきか新たに外国の神が作った別人種ととるべきか。


「多神教のようで一神教のようなピラミッドつきでややこしいのかぁ」


 勢力はキリスト教ぽいが中身はギリシャ神話に近いのかもしれない。


「僕はヴァイオレット様の宗教観の方が不思議ですよ。八百万って子沢山レベルじゃないです」


 宣教師的に余所の宗教も皆家族式に話を持っていくので別の神を聞いたらアラムウェリオの子どもか孫にしてしまう。そんなレベルですまないのが精霊信仰。エルフの同化が進まないのもこの家族設定に無理があるのかもしれない。

 戒律もこの家族設定同化のせいで広く優しくなっている。食べてはいけないものがなかったり、金稼ぎを禁じていなかったり。必要なのは日々の善行と神への感謝。神官に付随されるのは神から賜った力で神の創造した大地や人を守ること。


「トイレの音を聞いてはいけないとか、神官に婚姻はいけないとかは?」


「あれは昔の犯罪が根底にあるそうで、教会法ですね。信徒全員の戒律というものではなく教会籍の者だけの法律です」


 村村まで文化として残るトイレの話は教会から貴族へ、貴族から平民へと文化伝達していったが、実際には何の咎もないマナーらしい。勿論神官は教会で罰せられるがそれ以外はマナー範囲。

 元々はアデン大教会のように治療も金をとるのが一般的だった。俗世と隔絶された教会では望まぬ婚姻に持ち込まれる事件が多く、神官の確保のためにできたようだ。トイレの出待ちもその一貫で言葉を濁してあんな形に。


「教会伝来ルールが宗教ルールになって文化になったのか」


「婚姻せずに養子をとるのもその流れが関係していますね」


「神の妻や僕的な展開ではないのね」


「神の妻は女神ただ一人ですし、従者も契約ですからね。重婚や奴隷を教会は禁じています。それはマナーではなく宗教ルールでアウトです」


 一般教養レベルが上がる会話をしながら我々は北上を続けた。

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