2日目 追加設定、司祭
ホラ村へ向かう集団は私たちが加わり八人となっている。内二人が当直の門番さんで、残りが自警団の農民らしい。そしてその自警団の一人がカイトの幼馴染みのクルトである。
「なるほどなぁ、異国の魔法使い様なのか」
とりあえず既知のクルトにカイトが伝える形で事情聴取がはじまり、私が大陸の外から来た魔法使いでありこんな魔法を使いましたという説明がなされている。
「あ、防御魔法と発光魔法は別です。サービスでつけました」
「それは知らなかった」
この後何かある度に発光体を作るわけにもいかないので口を挟んでおく。真っ昼間に百ワット増産は目に優しくない。
「ところで、防御魔法は常にかけているのかい?」
話の腰が折れたのを見てずっと待ってくれていたであろう門番さんが話に入ってきた。
「いえ、ちょっとしたアクシデントがありまして」
近道の話をしていいものかわからないので目線でカイトに振っておく。
「それが、ゾンビが出たんだよ」
「ゾンビが? 一体どこから?」
「墓地だよ。余所の遺体じゃなかった」
ゾンビと聞いて一行の顔色が悪くなる。まぁ、気分の良いものではない。
「それでそのゾンビはどうしたんだ?」
「倒して焼いてきた。ハラーコが魔法使いだからその場で頼んだ」
「ありがとう、ハラーコ。夜が明けたら村長宅で謝礼がでるからきてくれ」
「いえ、私は荼毘に付す手伝いをしただけですので……」
焼いたと聞いて皆の顔は少し憂いを帯びてはいたがほっとしたようになる。お礼をくれるとのことだが、倒したのも準備したのもカイトであって、私は大した仕事もしていない。
「ダビ?」
「ハラーコの国ではみんな火葬にするらしくて、宗教用語でそれを指すそうだよ。出た煙に乗って天の星になるんだ。星になる祝詞もあげてくれたよ」
「外国の司祭様だったのか……」
ちょっと余計な設定が増えたが黙っておく。その方がみんな幸せだ。
「司祭様、大変失礼なのですが、その……星になる儀式の費用は如何程になるのでしょうか?」
「今の私はただの旅人です。仕事で行ったわけではなく私個人の意思で行いました。何の費用もいりません」
それはどうしようもなくハリボテの良心が痛むので遠慮したい。
「ですが……」
「あー、ハラーコ。儀式はハラーコの慈悲だとしてダビ? の費用は受け取ってくれ。これは村の決まりだ」
雲行きが怪しくなって来たからかカイトの助けが入った。私が常識知らずであることを前提にいてくれるので頼りっぱなしだ。
「普通ゾンビがでたらとりあえず村の費用で立て替えて遺骸を焼くんだ。
時間も人手も薪もかかる。その費用を葬儀をした司祭に請求できる権利があるから、本来は司祭がちゃんと故人がゾンビにならないように癒してくれるわけだ。
今回ハラーコが焼いてくれた費用が発生しないと司祭に請求と抗議ができなくなるし、他の遺骸の癒しの確認に教会が動かない。
村のためにも高く受け取って欲しいって話なのさ」
「そういう話なら……」
意外と大きな話のようで受けとる意思を示したことで空気が少し軽くなる。ゾンビの抑制に必須の癒しというのは一般常識のようだ。
「詳しい話は明日にするか。村が見えてきたろ?」
私たちの発する明かりを反射して、やっと最初の村が目に写るのだった。