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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
吟遊詩人編
156/246

20日目 年寄は短気

 とりあえず休みたいんだ。一応、魔法を使えない人間にとっては熊の一頭に遭遇するのは命の危険きわまりない。後続に熊がいたら怖いと怯えて野営スペースで話そうと泣きついた。

 一般人的反応だったらしく、そちらから来た神官は後ろを見守ってくれると言い馬車は再び動き出す。


『勿体ぶりましたけど着いたら言い訳しなきゃですよ。三人が聖歌? をできる訳』


 こそこそ念話で作戦会議。そもそも何であちこち教会があるガルド領にフラフラ歩いている神官がいるのだ。


『恐らくですが、魔信の不通が続いているからではないでしょうか? 遠くならまだしも数日の距離の教会なら自分の担当区域を巡回するのと変わりませんし。近隣の教会から大教会の様子見に来たのでは?』


 最北村のメヌールの教会を思い出す。本村を中心に五つの村が一日二日の距離で繋がっていた。全村訪問しようとしたらそれはなかなか日数が必要である。


『私もそんな所じゃと思う。二人で行っていたが中級魔法をさらりとできる大教会の者は少ない。ガルドの魔法使い狩りは歩き神官なんて少数派の真似をするしのう』


 教会が多いガルド領では歩き神官が少ない。しかし魔法使い狩りはあちこち移動するので歩き神官を名乗るしかなくなる。結果、目立つ魔法使い狩りはガルドでの活動が鈍い。人によっては歩き神官は殺人鬼かもと怯えるのであの神官たちは移動している田舎司祭だとしか言わないだろう。真偽は別として。


『人目を気にしてアデンの魔法使い狩りほど直ぐキレないのはわかりました。でもより魔法に気を付けなきゃですね。魔力見えたりしますよね?』


『目に魔力を集めればな。アデンの魔力使い狩りよりはぬるい。問題はヴァイオレットの魔道具じゃな。聖歌の話を振りつつもその耳飾りに視線を流していた』


『魔道具を持ち聖歌を知る理由ですか? 僕には難しすぎます』


 ハイラルは音をあげたが、逃げれる問題でもない。ああだこうだと練り練りして、レイが危惧した家族設定になってしまう。メヌールは聞いてなかったのかもしれない。




 野営用の場所には神官の他にも馬車とテントがあった。アデンの野営は三角型の寝所テントでありタープやバーベキューセットもない。休日のキャンプ場より原住民の居住区といえるような同じ防水性の布でできた三角が並ぶ簡素な物だ。


「同じテントが並ぶとそういう文化の集落みたいですね」


 石器時代辺りにタイムスリップした感覚になる。


「ああ、テント布のことじゃな? そりゃガルドで安くて防水性といえばアデンベアの毛だからのう。南の方じゃと黄色い魔獣の毛で布を作るから黄色いテント村ができるらしい。

 それよりクアトロ氏にテントの配置を指示された。背負い袋と魔法の袋の荷物を入れ換えてくるので君らは荷ほどきせずに先程の話をするように。最悪の場合までドンカチャはせず防御と念話。良いな?」


 テントや合羽の生地は熊の毛製だったらしい。短い毛をどうしているのか謎だ。

 さて、メヌールが荷物の工作をしている間に私とハイラルは神官に招かれてお茶を戴きに行かなければならない。地方司祭は基本的にオールマイティーで政治屋をしている大教会の倍は荒事もできる奴である。魔法を防ぐ対策があったり派手に攻撃される可能性が高いのだ。鈍感ちゃんで話を刷り込ませようとして火傷をしないように念を押されている。ビビりまくるハイラルの背を押して神官たちの野営地に向かった。




 神官たちのテントは私たちと同じアデンベア製のテントである。各々持参してきたらしいテントの中心に石と枝を組んで湯を沸かしていた。テントの数は四つ。最低でも四人がいる敵陣の真ん中に腰を下ろすことになった。


「神官ばかりで驚いたでしょう? 我々は普段一人か二人で村の教会を構えている者ですが、領都に用がありましてたまたま出会ってこの規模になりました」


 モフ馬に乗ってきた一人であるベリルはお茶を配る。もう一人は他の神官に声をかけてくると退席した。


「そうですね。領都でもなくこれだけ神官様がいるのは初めて見ます」


 大教会潜入で馴れた私と違い、ハイラルはキョロキョロと挙動不審気味に周りを見ている。初めて見ているので仕方ないと苦笑いして言えば、ベリルもそうですよねと笑う。


「ところで先程の質問なのですが、我々の中で年長の者を呼んでいますのでそちらに答えていただいても宜しいですか? 大教会から離れて長い方なのですが聖歌に詳しく」


 ベリルの言葉は途切れた。彼は私たちの後方を見て立ち上がる。私たちも思わず振り返るがもう事は終わった後のようでなにも見えない。もしや把握できていない念話もちがいるのかと警戒する。


「何かが起きたようです。簡易の聖域を張っているのでこちらでお待ちください。」


 そしてベリルが立ち去った。


「何があったのでしょう」


「音はしなかったよね? メヌールじいさんの無事を確認しよう」


 不安げなハイラルの手を握りメヌールに念話を送る。


『じいさん、無事?』


『無事じゃない! 直ぐ来てくれ! あと神官全員の位置を把握してくれ』


 何かが起きたのはメヌールだったらしい。ハイラルの手に力を込める。


「メヌールがピンチらしい。転移するよ」


 一層顔色を悪くさせるハイラルを引き寄せてメヌールより上空に転移する。空から確認すると川でメヌールと神官服を着た老女が魔法バトルを展開していた。老女の後方にはハイラルくらいの女性神官。キャンプ場からベリルを含む三人が向かっている。チラリと確認した限りメヌールが特段劣勢というわけでもない。


『後続を拘束します。メヌールじいさんから見えない三人です。他は未確認』


『魔力を上げてくれ! あと誰も殺すでないぞ!』


 オーダー通りメヌールに魔王バフセットをかけ、ついでに私とハイラルにもかけておく。走る敵の応援三人にはホラ村村長を拘束した鎖をだした。地面から生えた鎖は勢いよく三人に迫るが鎖の方が弾かれ消える。魔法対策は万全だとか魔法使い狩りなのか? より魔力と頑丈さのイメージを上げて再度差し向けると散開して二人は逃げた。一人はがっちり引き留められたのを確認したので残る二人にも二組の鎖を別々に追わせた。なんとか三人足留めした所で睡眠をかける。三人ともがくりと力が抜けた所でメヌールを見た。

 メヌールの方は光る鞭のような魔力の紐を杖から出して老女と女性を拘束している。魔王バフが効いたようで圧倒したようだ。キャンプ地から向かってくる者は他にはいない。ハイラルを抱えたままメヌールの隣に降り立った。


「三人とも眠らせました。他は……いませんね。終了です」


 メヌールは便利な睡眠魔法を持たないので起きて睨んでいる老女をさとりんして神官の確認をする。無事だとわかってもハイラルは泣きそうだ。


「ハラーコややこしいことになった。記憶の塗り替えを頼みたい」


 杖を構えて老女を見たままメヌールが記憶の塗り替えを提案する。まぁ、あれだけ争ったのだ。消さねばならないだろう。


「どうしてこうなったんですか? どこからどうするか参考に聞きたいのですが」


 空から降り立った明らかに魔法使いな私を若い女性は睨んでいる。しかしながら老女は私なんか無視してメヌールを睨むだけだ。これは普通の遭遇とも思えない。


「レジーナは、目の前の婦人じゃが、彼女は知人じゃ。借りもある。何故神官服を脱ぎここにいるのかと問い詰められた。領都から離れ、自らの教区にもいない。最終的にこうなった。レジーナは異端者の首を持ち帰らねばならない。教会法であって、彼女の正義ではないがのう」


 目の前のレジーナとメヌールの関係はよくわからないままであったが、知り合いであり、教会の決まりごとでドンパチしたのは理解した。けれど過去に因縁があるならばそこから記憶改竄すべきなのかの指示がない。


「ハラーコ、私の記憶を覗くといい。話していたら時間がかかる。記憶から読み取って君の思うように帳尻をあわせてくれ」


 最近増えてきた丸投げ依頼である。仕方がないので覗いてみるが、借りがあるならメヌール自身が考えるべきでは? 不満を押し込めメヌールからレジーナの記憶を覗く。

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