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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
吟遊詩人編
149/246

19日目 香盤決め

 部屋のドアがノックされて宿屋の主人に先にご飯を食べるように言われる。客が入る前の片付けと、対バン相手同士の顔合わせも兼ねているようだ。香盤表こそないものの順番や被り曲の相談もそこでするらしく、全員参加するようにとのお達しである。

 私たちのグループは一先ず一曲しかないので『タナティアの恋』をごり押しするしかない。どこかの村娘が妻帯者に騙された末に心中しようとする話で、男性優位の曲の合間に入れられたら確実に白ける。最終的に村娘だけが死んでしまうが、客の少ない初っぱな辺りか、酔っ払いが前後不覚になる時間でないと年頃の娘さんがいるおじさんは泣き出すかもしれん。




 集合場所である食堂には既に二組集まっていた。歌い手、横笛、竪琴の同じ構成の三人チームが二つ、大きなテーブルを挟んで睨み合っている。


「皆さんこんばんは。今日は宜しく頼みますぞ」


 空気なんて知らない男、メヌールはそのピリピリした空気を無視して若い方のチームに並んで座った。愉快な仲間たちな私とハイラルも気にしていないふりをしながらメヌールの隣を埋める。視線が滅茶苦茶痛い。


「そっちのチームもスタンダードか。益々丸被りの気配がするなぁ」


 メヌールの隣の男は直ぐに視線を外してため息をついた。全く話についていけない。


「私たちが契約した時はスタンダード二組に花なしが一組と聞いておるよ。ついでに私たちの持ち歌は『タナティアの恋』じゃな」


 普通にメヌールが交渉を始めたようだった。知識がないので任せてしまうことにする。ハイラルは水差しを持ってきてせっせと私たちのカップに注いで配り、ポジション下っ端を演じ始めた。やるなぁ、ハイラル君。余った私はとりあえずにこにこしておくか。


「そりゃまた辛気臭い曲を……俺たちは『英雄の妻たち』と『春はいつでも』をしたい。あちらさんは『ルマンドの悲劇』と『春はいつでも』をしたいんだと。つまり被ってる。おまえさんとこは一曲でいいのか?」


 メヌールの隣の男は状況説明をしてくれた。被ってるらしい『春はいつでも』は実の所ハイラルが練習していない方の昨日仕入れた曲である。凄いド定番か流行歌のようで客受け狙いで取り合っていた。

 宿屋との契約ではチップをその場で手にいれて良いことになっている。つまるところ、後から分配も無ければ対バン的な意味で負けると演奏時間を大きく取れないので時給が良くなる演目がしたいという話だ。私たちは争いの外と決定したからか、メヌールは揉め事の部分は無視して返事だけしている。


「一曲だけで良い。私たちのところは竪琴が新人でな」


 自分のことで恥ずかしいのかハイラルが下を向く。まぁ、これでハイラルには無茶ぶりは回ってこないはずだ。予防線であって悪意はないと思う。皆がハイラルを見つめる中で小さく挨拶をした。


「そういえば自己紹介もしとらんかったのう。私は横笛でレイナード、歌い手のヴァイオレットと竪琴のハイラルじゃ」


「宜しくおねがいしまーす」


「お願いします」


 場の空気が自己紹介をし直そうとゆるんだところで残る二人組がやってくる。


「遅れてすみません。俺たちは花なしでグレッグとカインです」


 手を挙げながら挨拶しがてら席に座った。全員揃ったので睨みも無くなり順に自己紹介が始まる。

 お隣の『英雄の妻たち』をやりたいチームがタバサとバンとスティーブ。『ルマンドの悲劇』をやりたい斜め向かいがミッシェルとヨーゼフとルーク。

 特に吟遊詩人はチーム名を決めずにタバサの所、ミシェルの所と歌い手の名前で呼ぶらしい。うちはヴァイオレットの所というわけだ。グレッグとカインは歌い手がいないので花なしとだけ呼ばれる。花なしが幾つもあるとどう呼ぶのかは謎だ。

 自己紹介も終わると香盤を決めるためにやはり曲被りに話が戻る。そしてタバサの所とミシェルの所は元通り睨みあった。


「もう『春はいつでも』は両方やれば良いのでは?」


 埒があかないのでついつい口出ししてしまう。そして睨みは私のものに。悲しい。


「儲けが変わるので揉めているのならタバサとミシェルは一緒に歌って二人の前に籠を置けばいいんです。気に入った方にチップを入れて貰って。割れる分安くなるでしょうが決まらないでしょ? これ」


 妥協案のつもりだが受け入れられない。生活がかかっているし仕方ないのかもしれないが花なしの二人が入りようがないので余計に困っている。もうその曲以外先に決めて二チームで話し合ってよ、付き合いきれないと顔に出ていた。私も完全同意なのでうろん気な顔で水を飲み続ける。


「あんたたち、香盤はまだ決まらないのか? いい加減飯食って引っ込んでくれよ」


 店主の苦情によりどちらがやるかは決まらないが他だけ決めてさっさと夕飯をとった。食後も決まらないタバサの所とミシェルの所はタバサの所の部屋にこもって時間まで揉めて過ごすようだった。

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