19日目 ライブ準備
森の食いつくしと引っ越し。領都の周りに村はないものと思っていたが、普通に歩いて一日半の距離に村はあった。メヌールに確認すると石材関係の特区カルア村は移動しないので、そこに補給するために中継的な宿場としてカルアの東西南北に村を作ってあるという。領都と特区は引っ越さずに補給線を延ばすので他の村とは設置概念が違うらしい。なるほどなるほどと適当に聞き流して村に入るとそこは宿屋と酒場だらけのよくわからない村だった。
「これどうします? 泊まる所も演奏箇所も数ある割にパンパンですよ?」
村の規模は畑も少ないので広くはないが、二十件近く存在する家屋は全て宿屋に見えてしまう。あちこちの厩舎からはもりもりのモフ馬も見えて客も多い。
「職安もないので人に聞くしかないのう。徴税シーズンじゃから物の運びが激しい時に来てしまったようじゃ」
「村総出で全戸宿屋状態ですね。最悪テントを張らして貰って、吟遊詩人らしいことをすれば普通に一晩問題なく過ごせるかと」
吟遊詩人デビュー戦だが、世を忍ぶ仮の職業。普通の三人組として通り、違和感なく過ぎ去れれば問題はない。最悪テントだが、普通の吟遊詩人らしく宿を探して演奏場所を求める。
一番高そうな宿屋は既に今晩の吟遊詩人が決まっていると断られた。参考に件の吟遊詩人たちをさとりんすると大グループで小隊についてカルアまで行く専属だった。楽器の種類も交替もいるし持ち歌も多い。良いところには良い吟遊詩人が来ると思えば、なんちゃって吟遊詩人の私たちには相応しくないとわかる。
二件目はさっきの反省を踏まえて格の低そうな宿屋にいった。今度は私たちのように二人組や三人組の小グループが三つ決まっており、対バン形式だから人気が取れないと宿代の方が高くつくと言われる。お金はあるので気にせず契約。狭い二人部屋に三人で泊まることになった。
「予定よりうまい具合に泊まれたのう」
メヌールの言葉は少ない曲数でなんとかなるなという意味である。三人でできる持ち歌は昨日聴いたばかりの一曲と讃美歌になるのか神官がやっている曲だけだ。はっきり言って一晩中講演なんて無理なのである。ハイラル君はそこまで早くは弾けないがなんとか昨日の一曲ができていた。メヌールとデュオならそこにもう一曲という具合。対バンで負けを演じれば二曲で撤退でも良さげである。
「それよりハラーコ、凝視対策はできたかの?」
言われて思い出した。なんとなく異国風に見える私はよくよく観察すると人に見えない。呪い対策で魔道具で作ってある膜の下に幻影を重ねて、パッと思いつく日本美人的な女優さんの殻を被る。メヌールは目を細めて凝視して片手で回れと指示を出した。ポンチョを脱いで昨日見た衣装も重ねてくるりと回る。
「ふむ。魔力をこめてもわからんが、鑑定結果は不明になるな。早々鑑定されぬためにも顔はアデン人寄りの方が良い」
メヌールのリクエストに応えて、領都でおじさんたちが最高美人と称した明るめ茶髪のお姉さんの顔に色調を合わせて最高スタイルのお姉さんの体をつけてみる。視界が上がった。
「ポンチョから黒髪が見えていた。髪は黒のままでないとおかしかろう。身長も然りじゃ」
髪の毛は黒に戻して、身長も日本人的平均に戻す。ダメ出しが止まったので昨日見た腰ふりダンスをしてみた。
「パッと見た所違和感はないが、下に着ている服が幻影を越えるとはみ出しておるぞ。対策に衣装は長さだけでも合わせたものを着た方が良いかもしれん。色や揺れには問題はない」
一応の許可がおりたのでアイテムボックスから布を出して見せる予定の幻影に合わせたスカートを作ることにした。私が個人作業に入ると、メヌールはハイラルと唯一の持ち歌の練習をはじめる。防音魔法を張られたので音は聴こえないが時間まで頑張るつもりかもしれない。