18日目 習う
門を出た後も人影はある。昼まで休憩をいれつつ歩いていたが、街が近いせいか人や馬車が追い越したりすれ違ったり。特に今のように鍋や敷物を広げていると立ち止まって仲間に入りにきたりもする。
「君ら引き返した方がいいと思うよ。マジでこれより北は稼げないから!」
お昼に混じっているのは吟遊詩人の二人。いつものように麦粥とスープを作っていると呼びもしてないのに乱入してきたのだ。彼らは私たちも吟遊詩人だと知ると情報交換しようと言って干し肉を押し付けて敷物に座り粥を分けてくれと皿を渡された。そしてこれより北、私たちの進行方向について教えてくれる。
「ガルドは落ち着いてるって言っても隣はもう国家崩壊したからな。流民がくるかも野盗がくるかもって貯蓄傾向にある。冬も始まるし財布の紐は固いのよ」
「俺たち一応田舎村でも収穫祭に出たんだぜ? とてもじゃないが歓迎ムードはなかったな。悪いことはいわねー、冬越しはガルド領都がいい」
親切心での助言だが生憎、吟遊詩人で稼ぐ旅ではない。アデン国最北領から外国へ行く近いルートが北だと言うだけで北上している。
「別の目的もあるのじゃよ。しかも断れない」
メヌールの言葉に厄介なおつかいを想像したのか同情的になられた。
「それなら仕方ないか。歌い手もいるみたいだし俺らほど悪くはないだろうが」
「そうだ。アラリアの流行歌を教えてやるよ。男の声だけど勘弁な。アラリアの流民は泣いて喜ぶから」
二人は荷物から横笛と竪琴を出す。合わせてメヌールとハイラルも横笛と竪琴を出した所で吟遊詩人の歌が始まる。ダンサーがいない弾き語りなのでしっくりくる。
曲自体は短いフレーズの繰り返しで、歌詞だけが変化していた。美しい故郷と罪もないのに離れる悲しみ、最後にまた故郷を描く。聞いたことのない地名が出てくるが清らかな川や赤い屋根など小まめに景色を歌っていた。
全体は五分ほど。そこそこ長い歌が終わるとメヌールとハイラルが演奏する。耳コピーで弾き初めて、間違うと吟遊詩人の指導が入った。繰り返しフレーズなので直ぐに整い、二人は合奏する。若干ハイラルが走りぎみだが伴奏ができたので私も声だけで参加してみた。お前も入るの? みたいな顔を全員から食らったが、途中で辞めると私だけマスターできないみたいで癪に触る。少し意固地になりならが結局最後まで歌ってしまった。勿論脳内カンペに楽譜を作ったズルである。
「驚いた。一発で覚えるとか天才じゃね?」
「残念ながら踊りは教えられんのだ。ごめんな。これだけできる実力者に中途半端で申し訳ない」
物を教えてくれたのに何だか滅茶苦茶謝られた。困っているとメヌールが入り仲裁する。
「気にするな、踊りは壊滅的じゃ」
謎の不名誉をつけられて苦笑い。日が落ちるまでに街に入るからと吟遊詩人はそのまま去っていった。
「大丈夫ですよね? フォローであって朝みたいな酷い踊りはしないですよね?」
ハイラルの期待も切実で凝視対策と本物コピーは必須になる。そして再翻訳のレベルの高さに首をかしげた。