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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
吟遊詩人編
141/246

18日目 世を忍ぶ仮の職業

 旅立ちの朝は冬に近付いているのか吐く息が白くなっていた。皆仲良く医務室宿泊で酒盛りをしながら床に転がるスタイルで寝ている。幾つもある寝台はただのオブジェだ。

 目覚めた順に二日酔い覚ましをかけて回り挨拶をする。レイナードには睨まれながら、ベッチーノは苦笑いながら、レイには笑顔で見送られて、メヌールとハイラルを連れて領主館に飛んだ。三人分の旅券を手に入れたらいよいよ旅が始まる。


「待て、ハラーコ。目的地は決めとらんじゃろう。まずは職安に行かねばならん」


「私は今からヴァイオレットですよ? レイナード」


 メヌールが苦虫を噛み潰したような顔をする。領主に頼んだ旅券はよくある名前でよろしくした所、ヴァイオレット、レイナード、ハイラルの名で発行されてしまった。

 ハイラルは今回の同行、要人警護任務に等しく正規の軍人身分証明書と合わせて職業が偽られた旅券が出ている。何か困った時に領主の名前を出せとの配慮だ。魔信が戻ればハイラルの名で領主に直通で話がいくので切り札的なものになる。

 続いてヴァイオレット。これは領主の三女の名前に近いものらしい。要人警護のハイラルと一緒でヴィオネッタ様かもしれない人物。何かで怪しく思われてもまじまじ見たら良くないと思わせたり、超内密な名代疑惑で煙りにまこうという意図。

 そして最後にレイナードである。これは本当によくある名前でメヌールの息子とハイラルの師匠と被るのも周りが気にしなかったレベルの名前。英語の教科書にマイケルが出まくるみたいにアデン人といえばレイナード。レイナードだらけで笑えるが、メヌールは息子と同じ名前は複雑なようだ。下手に嫌がるのも息子に悪いし。

 そんなレイナード、ハイラル、ヴァイオレットの三人旅だが職安に寄るわけには行かない。


「今から旅立ちますって言ったら記録とられるじゃないですか。折角領都出発の記録も作って貰ったんですからここから歩いて行きますよ」


「目的地も無く行くわけにもいくまい。ちゃんと現在の村の位置を知らねば移動できんぞ」


「転移ではないんですか?」


 ハイラル君は転移で旅すると思っていた模様。軽く彼の頭をチョップする。


「旅券が出入りの記録取られる以上、人の歩みを越える速度はあかんでしょ。馬車はありかもしれないけれども、転移は公式記録無理! 夜営の時に足りないもの買いに街に転移するのはありかもしれないけどね」


 ハイラル君はわかりましたといいお返事。こだわりじいさんはこんな素直ではない。


「考えたんですが、まずは目的地なしで出ます。次に夜に職安に忍び込みます。見たことないのに出国旅券を持つ人間が来るよりマシでしょう?」


「出だしから人の道から外れるのか。新しい名を早速汚す思いきりの良さはなんなんじゃ?」


 そう言われても新生ヴァイオレットさん、初日から不審人物よりは表向き綺麗だと思う。説得の甲斐はあったようでぶちぶち文句を言われながらも街の門に向けて足は進んだ。


「そうだ、ハイラル君。旅の道具は適当に揃えたけど持っていきたい趣味の物とかお菓子とかある? 多分領都出たら大して品揃えのいい所には寄れないから買っていこう」


「あの、旅券の内容は今朝まで知らなかったんですよね? お仕事道具買いませんか?」


 メヌールと目を合わせる。名前で盛り上がったので出国理由の職業まで気にしていなかった。どうせお忍び風なので世を忍ぶ仮の職業はあまり意味はない。しかしながらハイラルの言うようにでかい荷物がいる仕事だと担がないのは怪しいので買った方がいいかもしれない。メヌールが旅券を見る。四角い板に文字が書いてあるが中身に回路と魔石がある意外とハイテク旅券だ。


「楽器を買わねばならんのか……」


 楽器がいるらしい。それって高くないだろうか。


「僕は竪琴を師匠から借りてきました。替えの弦が欲しいです」


 それってレイは仕事を知っていたと。


「レイナード魔導師の悪戯じゃな。私は横笛でも買いにいくか」


 二人して楽器が決まってしまった。私、この土地のメジャーな楽器は知らないよ?


「三人組でしっくりくる残りの楽器はなんですかね?」


 ギターとドラムが埋まったのでベースやるかみたいな。記憶頼みだが元世界の楽器に近ければ何が回ってきてもそれなりにできるはずだ。


「いや、女の君は歌じゃろう?」


「メヌ……レイナード様、ハ……ヴァイオレット様は吟遊詩人や楽団をご覧になったことがないのでしょう。私も田舎に十の頃までいましたが、二度ほどしか記憶にありません。最北村のように都市部以外を旅されていますとなかなか遭遇できないでしょう」


 職業は吟遊詩人で、女は漏れなくヴォーカル担当、田舎より都会を回る感じなのか。領主の手配によりふわふわだった旅の形がそれっぽく固まってきた。


「そういえばそうか。領都だと祭りだなんだと複数の吟遊詩人が毎月のように来るが、最北村では十年に一回くらいじゃのう。我々のする吟遊詩人について少し知ってもらわねば。というか歌えるのか?」


 失礼な話である。ただ不安にもなる。歌と一概には言うが、時代や場所で差異があるのだ。短歌を読めれば良かったり詩吟を諳じれたら良かったり、民族によっては声の大きさや高さが必要だったりする。クラシックしか認められない場合もあれば雄叫びが標準装備の可能性もある。


「この国のスタンダードがわかりません」


 メヌールとハイラルが顔を見合わす。


「大通りで探すかのう。朝からやってるなど実力のない貧乏バードしかいなさそうじゃが」


「レイナード様、我々も初心者ですから」


 旅に出るために門に向かっていた私たちは来た道を引き返し大通りに行くことになった。すまん。

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