2日目 火葬
火葬が怖い人注意
火葬というのは意外と専門知識がいるもので、当然技量も比例して必要なのが現代日本の実情だ。
骨あげ、という文化がある。火葬の後に骨を拾い上げて墓に埋葬するものだ。この文化は日本独特のものらしく、日本の火葬場では大変重要なことであると同時に難易度が高い。
一人一人違う体格、体脂肪という油に水分、骨密度。全自動で燃焼すると骨まで残らず灰になるか、骨にはなりきれないのだ。
つまり見張り、調整する者がいる。その見張りも燃焼により太陽のような光を見ることもあれば、有毒物質も漂うことになる。
知識、技術、設備が揃ってはじめて安全な火葬なのだ。
そんな火葬への難易度について検討しながら、カイトに促されて「マリーのじいさん」を火葬する準備が進んでいる。
アデン国は宗教上、土葬文化であり、火葬に骨を遺すような文化はない。特殊な事情か罪人の埋葬方法であるからして気遣い無用で燃焼するのだ。カイトの複雑な感情もここに起因する。
彼は私の火葬についての質問にぽつぽつと答えながら延焼防止のために空地を作ってくれていた。
「ねぇ、カイトさん。私の国では火葬で出た煙に乗って、故人は天に旅立つの。天上から私たちを見守ってくれていて、星の一つになるのよ」
カイトを慰めるために宗教なのか迷信なのかを混ぜて話す。カイト達の宗教観では主神であるアラムウェリオの作った大地に還らぬは神との絶縁であり、神と繋がっている先祖や友人総ての人との縁も切れる。何もない暗闇にただ一人永遠に閉じ込めらるのだそうだ。
「ありがとう。マリーのじいさんは星になるのか」
無理しているのだろうけれども軽く笑んで見せてくれた。
ご遺体は私に見せる前にカイトが布を被せており、既に枯枝の上に安置してある。ご婦人に見せるには故人の沽券に関わるそうだ。
本来の葬儀も済んでいるし火葬という儀式のための作法はこの国にはない。
特段何かを供えるでもなくご遺体の下の枯枝に魔法を使い火をつけた。少しでもカイトの心が慰められるようにヒューマンだけが持つという光の属性が感じられる白い炎を意識する。
「カイトさん。灰を集めよう」
白い炎は高温で想像以上に早く終わりそうだ。
「灰なんてどうするんだ?」
「お墓に納めるのよ。私の国はほぼ火葬で、焼き終わった灰を縁者が集めてお墓にいれるの。その、ここの風習とは違うけれどもお墓に入っているだけで家族が会いに来れるでしょう?」
火葬に悪い印象が付きまとうだけあって、その後の扱いも良くないようだ。日本では骨を納めるが外国の火葬は確か灰を弔っていたと思う。まぁ、外国も火葬に否定的な国がかなりあるのでなんとも言いがたいが野晒しにするのも後味が悪い。
「そっか。ハラーコの国の作法なら、きっとちゃんと星になれるかもしれないな。マリーに話して渡しておくよ」
カイトが祈りを込めて炎を見つめる。そんな想いを込められるとちゃんと見送ってあげなければ。記憶群の中からお経を引き出す。日本ではよく聞きなれたそれは、異世界の夜に静かにとけていくのだった。