17日目 準備
初めてここにきた時には二、三日くらいの滞在で終わると思っていた。流民が生活をする場を借りているだけだったのに、この世界の第一拠点になっている。
私とメヌールが使い倒した寝台は魔法でクリーニング、遺体をガンガン置いたりしたテーブルは毎回除菌洗浄していたが気になるので入れ換えて。トイレは今更気付いたが底にいるスライムみたいな謎物体が頑張っていたので見なかったことにする。私が不在でもお茶っ葉量産をするメヌールのために置いていた鉄鍋をしまい、寝台の下に投げ込んでいた綿とか糸とか布も回収しておいた。粗方片付いた所で塵と空気を入れ換える。思い出は綺麗に片付いたはずだ。
家の片付けが終わったのでふらふらと職安に寄る。どこに行くかはわからないが必要な道具類があると予想。正直、王都や領都に転移すれば問題ないが一般的な荷物がないのは変だろうと思ってのことだ。
職安の扉を開けると前回と同じくお兄さんとお姉さんが書類仕事をしている。
「すみません」
お姉さんの顔がまた来たな軽装女と歪んで見える。被害妄想かもしれない。
「ハラーコさんですか。メヌール司祭に商品はお渡ししていますよ」
メヌールは先に注文も受け取りもしていたらしい。
「いつのことですか? 私とメヌールじ……司祭ともう一人の三人旅に変わったことはお聞きに?」
お姉さんの顔が緩む。まともな人数になったと目が語っていた。
「いえ、初耳です。ではもう一人の分の追加ですね。ちなみにその方は成人男性ですよね?」
謎ポンチョを取り出しながらお姉さんが聞いてくる。あれ、ハイラルって成人だよね? 私の予想では中高生って所で、アデン成人の十五才はいってるのか否か微妙な所だ。サイズの話だろうからはっきり成人というのも合わないかもしれないが、それくらいならあっという間に伸びてしまう? 一年しかいないのなら子どもサイズ?
悩み始めると時間に比例してお姉さんの目が厳しくなる。
「成人ですけど成長期なんです。先にサイズ合わないのと後に合わないのとどちらがマシかなと」
「成長期ならレンタルが良いのですが外国へのお仕事でしたね。間のサイズは女性用になるんですよ……成人したての男性は嫌がりますね」
別に嫌がろうが雨が降ってそれしかなければ着るだろう。というより仕事で行くことになっているのか。
「女性用でいいです。スピード第一なので贅沢は言わせません。他の物もなければ女性物でいいのですぐ揃えられるものを全部お願いします」
王都で作った小銭財布を渡して揃えて貰う。謎撥水のポンチョに、靴底、神官達が持っていたカトラリーのトングと木の食器。一から揃えると沢山ありそうだが追加人員分なので少ない。ついでに全員魔法使いというバランス無視パーティなので武器や手入れの無駄な荷物もない。
「防具は教会から用意すると聞いていましたが、追加の方は?」
「追加の人も魔法使いですからそっちですね」
適当に話を合わせておく。メヌールが教会と繋がりなんて持たないだろうし、魔道具作るといっていたので大方自作品だとふんだ。なければ師匠のレイからぶんどらせる。
お姉さんのお陰で知ったが、旅の荷物は基本食べ物と武器、防御関連だった。大体のことを司祭一人がいればカバーできるらしく魔法使い三人旅は過剰戦力のようである。魔法の袋があるので荷物は嵩張らないし、修理や手入れ自炊も魔法。商隊をつけたいくらいだとのことなので、危ないからお前は行くなとも言われない。神官の社会的地位は高いなと思わせる話だ。
必要な物も買ったしお礼を言って医務室に帰る。医務室では困り顔のメヌールにレイナードが泣いて抱きついていた。そってドアを閉める。なんとも言えない気分の中、食堂で魚を配布するイベントを開催して時間を潰した。軍人たちには変な顔をされたが餞別だと思って食べてくれ。