17日目 ハンナ伝説
方針は決まったが肝心のディラン確保、どこにいるのかわからない。いつも他人に会いに転移するのはいそうな場所に飛んでからレーダー探索したり、念話用にくっつけた魔力の糸なんかを辿って転移しているのだがどちらも彼にはないのである。ラルフの転移はどんなものかと覗かせて貰ったが、単純に初撃に紛れて探知用の魔力をつけていやがった。つまり念話の遡りと一緒である。ばっちいので握りつぶしておこう。
魔力だけはあるので既存の技術でダメならアイディア勝負。最近ご無沙汰の記憶群から使えそうな理論を検索する。
一つ目のアイディア。限界知らずのレーダーをアデンから広げる。いつか来るかもしれない限界がディランの位置まで延びなければ意味がない。
二つ目のアイディア。一つ目を利用しながらディランが通過したか脳内スキャンして該当箇所から再度探索する。しらみ潰しを尺取り虫みたいに動きながらする方法だ。夜間移動や隠密行動中なら無理だな。
三つ目、技術ありきではなく既存のものからパクる。定期連絡くらいしているだろうから魔信の記録くらい存在するはず。それを手に入れる。
三つ目だな。アデンの魔信記録を手に入れよう。近場の職安なりからレーダーで探せば届く。
「ハラーコ、それは記録の監視からしてアデン大教会なんじゃが」
「宝玉情報だけならそれで足りますね。まぁ、持ち帰ってもらう方向になったので、二度手間ですが」
アデン大教会には姿隠し状態で移動。レーダーで魔信室の室長を探してまた転移だ。
ゴーン……ゴーン……。
鐘の音がする。着いた途端の大音響には覚えがあるぞ。
「警戒の鐘だ!」
「警備係に問い合わせろ!」
「また大規模攻撃か?」
ルマンドの領主館で鳴り響いた登録者以外に対して鳴らす鐘の音だ。あちらより巨大とうかがえるでかい音と連鎖したみたいな鐘の音もあちらこちらから聴こえてきて一気にパニックになってしまったらしい。
「神敵ハンナかもしれん。直ぐに担当箇所に移れ!」
「また神敵ハンナか!」
どういうことなの。軽くさとりんすると鉛毒やらの記録が消されたわけでないので私の偽名で昨日の大規模睡眠事件犯だと広がっていた。流石、暴走状態の私。フラグ的な取りこぼしをしている。
発見されるかはラルフなんて例もあるのでわからない。早いところ情報を抜いて帰らなければ。
室長の位置に飛ぶと、ファンタジーとサイバーパンクの合の子みたいな部屋にでた。部屋中機械やパイプが敷き詰めていて部品がキラキラしたり変な色をしていたりする。モノクロで見たらボイラー室にも見えそうだが、目に優しくない不思議が沢山ありすぎて魔道具とか装置だとわかるのだ。
これが魔信の機械かと、見たことなかったことを現場で思い出す。
「何としても守り抜け! 枢機卿に防御レベルの確認をだせ!」
室長が叫んでいるが重要施設の魔信室は警戒時、魔獣の宝玉から一気に魔力を吸出して一時的に破壊不可能オブジェクトにするみたいだ。その時の全力を出すので発動後に防御レベルがどこまで上がったか確認して機械にかかる負荷を予想する、と。
ということは機械にメモリーされているか探すより出力された記録を探した方が難易度も低い。機械以外にある机や棚を見ると木札ぎっしりそれっぽいな。ただ相変わらず文字を覚えていない私にはラベル的なものすら読み取れないし、札も解読不能。これは現地人がいるね。
メヌールとレイ、レイナードにハイラル、ベッチーノ。意外なことに全員文字が読める教養人なので事情を話してステルスローラー作戦でいく。パニックな室内で宙を舞うような板切れたちはシュールだがそれどころではないらしく気づかれない。私だけ手が空いてしまったので神官たちからその後のハンナ司祭の謎について調べていくことにした。
魔獣の宝玉に操られし者、大規模テロ犯、大教会の呪縛霊。実はハンナは教会で消された人物の名で、復讐するために家族や知人がハンナを名乗り撹乱している説……何これどこの鮫島事件だ。一晩で憶測や噂が飛び交い迷宮入りが決定されているようにみえる。特に手を出さなくても大丈夫そうだが悪戯心が騒ぐ。ホラー方面に何かしていこうかな。
「何悪い顔しているの? 見つけたよ。捜査隊の定期報告はまとめてこの棚にある。
けどさ、どうも四部隊編成されているんだよね。役職もちならまだしも見習いがどれに配属されているかは通信記録じゃなくて人事か対策室じゃないかな」
「ぱぱっと転移できるなら四つ全てに飛んで直接見てもいいと思うんじゃが。この煩い環境で探し物をまだ続けるより効率よかろう。面倒ならもうディランとやらは諦めて適当な人員に回収させてしまわんか?」
鐘の音が酷いせいで家探し続行は嫌がられる。メヌールのいうようにとりあえずラルフから宝玉を離すことを優先しよう。
レイは木札から四部隊の最終連絡が発信された場所を脳内マップに起こしてくれていたのでコピーさせてもらい最寄りから拉致にいくことにした。