17日目 取り外し不可
あばらがイカれたらしいレイを回収して医務室に戻り、治療をしているとメヌールとハイラルの二人が到着した。戦闘体勢らしく二人とも杖を持っており、ハイラル君はイギリスちっくな短い棒。私も擬装杖を持つならあのサイズにしようと見つめていると肩で息をしながらメヌールが問いかける。
「終わったのか?」
「そこに転がっているのがラルフ氏です。今はレイさんと医務室なおしていて、レイナードとベッチーノは……そこの隅っこですね」
すっかり忘れていたレイナードとベッチーノは隅っこの寝台下で発見。視線を辿ったメヌールは大きく息をはき、治療を受けながら壁の修復をしているレイを見てそちらを手伝い始めた。メヌールの治療を見たことがあるレイは私に任せた方が治るだろうと壁の修復をしている。私はじわじわ骨をくっつける作業だ。
「あのさ、さっきから黙っていたけどラルフは何で転がしてるの?」
「私も気になるのう。そこの二人が出てこないのはこれのせいじゃろうし」
なんだ。ずっと出てこないのは機能停止しただけかと思っていた。
「それは気付かなかったです。実際どうしましょうかね? 魔獣の宝玉くっついてますし」
持ち帰って放置しているのはちゃんと理由がある。ラルフの右手に魔獣の宝玉が埋まっていたのだ。アデン教会で見たのはスイカサイズだった宝玉はみかんサイズに縮小されて手の甲に半分埋まり、年頃によってはテンションが上がる見た目である。外し方はがっつり皮膚も神経も複雑に絡み合い、切り落とすくらいの発想しかわかなかった。一応既存の魔法回路は焼き切ったがこの宝玉からバカ魔力を吸えば直ぐに新しい回路も刻めそう。
だからと言って切り離してしまうと魔獣の宝玉は再び宿主を失う。忽然と現れ消えるなんて聞いているので方針が決まっていない今、分離させたら消えちゃいましたはヤバイ。そんなこんなで相談待ちだったのだ。
この説明でレイナードとベッチーノに加えてハイラルも縮こまり、ラルフの右手に視線が吸い寄せられる。
「教会では魔道具で魔力を吸出し、転移を抑えていた。これも魔力を吸い出せば良いわけでガルド教会に返してしまえば良いのではないか? 具体的に言えば隠し部屋に入れて置けば勝手に固定化されるじゃろう。人知れず」
「あー、実は部屋に入る時入り口の蓋、配線無視してべりっと」
「うん、完璧に壊していたね。ついでに中の罠とか装置もはがして持って帰ってきたから宝玉があっても吸い取る装置なんかないね」
メヌールがそんなものまで強奪するなよと頭を抱えた。私たちもこんな後になって使うなんて思ってなかったよ。後からこっそり勉強しようと出来心で持ち帰った。元に戻せる知識もないのでこっそり工事は無理である。
「大体全ての装置でどれだけの魔力を消費させていたのかもわからん。宝玉が移動しないだけの装置なんて前提条件もわからぬもの新調のしようがないのじゃが」
「確実にお金もかかるね。ミスリルじゃ無理かも出力的に。オリハルコン、いやアダマンタイトの回路とか桁を数える方が馬鹿らしい域かも」
「持ち帰った破壊品から取り出せば材料はそこそこなんとかなるじゃろう。ただそんなもん誰が組める? 教会関係者を呼ぶのか? ドワーフを呼ぶのか?」
え?そんなファンタジー種族さんに会えるのですか? 期待の視線を向けると揃って二人にため息をつかれた。
「ハラーコ、監視小屋は隣国がそのまた向こうの内戦に巻き込まれたから建てたって話したよね?」
「その内戦発生国がまさにドワーフ国家なんじゃよ。つまり無茶言うなと遠回しに言った。ドワーフは雇えん」
ガッカリである。その国以外でドワーフはいないのかと聞けばいるが技術はないと。個人や工房が持つ技術ではなく、国が契約魔法で守る技術がなければ加工不可能らしい。全員パッシブ職人種族ではないとかファンタジー詐欺だ。
「どちらにせよ直ぐ様どうにかできる案ではないですよね? 切り離した後の確保ができなければ次に何しよう状態が続くのですが」
「ガルドでは魔獣の宝玉の引き継ぎや管理など知るものはいないであろうな。他所の宝玉の受け渡し方法を聞けば対策はできるやもしれん」
それなら心当たりがある。
「アデン大教会は宝玉ありましたね。きっと引き継ぎ方法くらいありますよ。探索部隊だって……ああ!」
忘れていた。アデン大教会で記憶のデリート大会をしたが、お出かけ中の魔獣の宝玉探索部隊はデリートしきれていない。偽名からは追えないだろうが一人だけしっかり私の性格やらを知っている人物がいる。
「ディランを忘れていたや。ヤバい。しかも追いかけてるのまさに私じゃないの」
「誰じゃそれは?」
「アデンの魔法使い狩りですよ。ハラーコが見合いした」
「はぁ?」
メヌールが寝ている間に起きた話なのでここでレイが説明してくれている。
ディランの記憶は消していくべきなのだろう。姿形ははっきりわからずとも珍しい外国風の人物だと沢山私の情報を持っていた。ついでに魔獣の宝玉を確保する方法も引き出したらいい。防御札がガンガンなくなるだろう、ごめんよ、ディラン。
「魔獣の宝玉を探している魔法使い狩りから宝玉保管方法を取ってきます」
「待て待て。記憶の操作もするのじゃろう? それなら本人に回収してもらって、適当な確保の記憶をつけられればその後も管理せずに済むぞ」
「流石、メヌールじいさん! 腹黒い!」
話はまとまった。ディラン達に宝玉回収をしてもらって記憶をそれっぽくして帰す。宝玉なしになったらラルフを縛って領主に引き渡しだ。