17日目 バトル?
魔法使いではないとレイが断言したラルフだが、右手を伸ばして掌をこちらに向ける。同時に昨日作った呪い防止のアクセサリーが弾けとび、私から離れたその破片はパラパラと足下に飛び散った。何これ。
ついていけない私と違い、破片を見つけたマッスル達が視線は合わないけれど位置を特定したようで武器をこちらに降り下ろす。
転移。反射的にホラ村医務室に飛んでしまった。
「ハラーコ、何があった?」
額から冷や汗が流れている気がする。そんな私にレイが声をかけた。
「ラルフの右手から魔法が出ました」
『医務室に帰ったのか? すぐに向かう。被害は?』
「あ、メヌールじいさん、もう大丈夫です。呪い遮断を吹き飛ばされただけです」
「それだけじゃないですよ?」
後ろから声がして振り返るとラルフがまた手を伸ばす。危ない。レイの腕を掴んでダークエルフとの戦場後にしている開けた土地にとぶ。転移前に壁が破壊された音がした。
「上位の風魔法だ。上級魔導師だと思った方がいい」
転移完了と同時にレイはどこかからいつか持っていた身の丈程の杖を取りだし構える。そんなレイと背中を合わせてレーダーを展開した。くる。
「左前!」
レイの左前方にレーダーの反応が出たので叫ぶ。彼が左足を半歩ひいて体の向きを合わせる中、私も左足だけ一歩半出して横並びにその位置を見つめる。私の使う転移と違い先に出たマークの位置に足下から少しずつラルフが構成されていく。私の転移は世界を折り畳んで点を繋げて飛ぶものだが、ラルフの転移は自らをその場に直接原子移動させるらしい。ファンタジーよりSFに近い転移だ。タイムラグが少々発生するが特定して体勢を作ってとするにはさして隙があるわけでもない。
「あなたの魔法を参考にしました。初心者の割りには大したものでしょう?」
魔法の構築は想像力と理論がいる。大量の魔力とが使えるなら力業で物真似可能という話。ラルフの発言を無視するようにレイが杖先を振り奴の足場を陥没させる。どうしてラルフが魔法を使えるかはもう投げ出して、自分とレイに魔王バフセットをかけてここで倒すしかないとアドレナリンを上げる魔法もかけておいた。ニヤリと笑うレイは私の援護を感じたのか浮遊して陥没した大地に雷を落とす。
「転移できる者に火力で押すなんてレイナード魔導師、あなたには失望しました」
声がする後ろに振り返る。瞬間爆風を受けて目を閉じた。網膜のレーダーにレイが後ろに吹っ飛ばされているのが映る。
レイが飛ばされて私はここまで被害が来ないのは何故だ? 鑑定を詳細表示にして砂煙の向こうにいるはずのラルフを見つめる。
ラルフ・グリード。魔獣の宝玉保有者。生命力・魔力共に魔獣の宝玉依存となる。物理障壁、魔法障壁使用中。
「魔獣の宝玉……?」
嫌な汗が流れた。これって例のお伽噺、魔獣の宝玉に魅いられた悪人に変わった人間って奴なのか?
シリアスムードにとんでもないものが出た分、かなり場に飲まれていたがここでラルフの悪役笑い三段活用が発生して急激に冷めた。こいつやられ役だわ。
「恐怖に身がすくむでしょう?」
ダメだ、この人。自分の敵が魔獣の宝玉自体だと気付いていない。
『レイさん、無事?』
とりあえずレーダーで生存しているが念話で確認をとる。悪役が語り始めたら長いのでここで作戦会議だ。
「ちゃんと司教棟にはあったのですよ。魔獣の宝玉はね」
「そんな……バカな!」
『生きてるよ。あばらがやられたね。今応急処置中』
『ちゃんと説明が欲しいんじゃが』
「私は宝玉に選ばれた。たとえ凄腕の魔導師といえども勝てる相手ではないでしょう? 素直に負けを認めたらどうです?」
『ラルフ、魔獣の宝玉に取り込まれて新米魔法使いらしいです』
『はぁ?』
『撤退した方がいい!』
「あなたが私の配下に回るのならば命くらいは助けてあげましょう。そこのレイナード魔導師もね」
『いやいや、力によってる初心者だし。私には勝てない。もしくは相討ちでも負けはしないはずです』
『魔獣の宝玉だよ!?』
『私も似たようなもんでして』
『はぁ?』
口と念話の同時進行は非常に面倒臭い。昨晩のラルフには魔獣の宝玉について鑑定結果がついていないので一晩そこいらの魔法知識しかないはずだ。それについて話すのも時間が惜しいのでレイの混乱は置いておく。
「どうしました? 結論を」
『魔法障壁って弱点なんですか?』
『より強く濃密な魔力で押すか物理で殴るかじゃのう』
『魔法障壁もあるなら物理障壁もあるでしょ。直接顎を殴れば打撲では傷つかないけど脳は揺れて制御ができないはず』
「それだああああ!」
平行処理で身体強化と転移を実行。物理障壁もブッ飛ばせたら御の字と時間が許す限り右手を振り抜きながら強化強化。スローモーションのように体感時間に余裕を持たせてガンガン物理を上げて顎を打った。
拳がラルフの顎に当たる瞬間バチッと魔法使い狩りの身代わりを破った時と同じ音がする。皮膚から相手の骨を砕いた感触がした。スローモーションは終わり、殴られたラルフが天高く吹っ飛んでいく。
このまま死なれたら情報も吹っ飛ぶ。慌てて同じスピードで空を飛び、自然落下開始と共にキャッチ。腕の中には完璧に伸びたラルフがいた。
『ミッションコンプリート』
『わかる説明をしてくれんかのう?』
魔法バトルというより格闘マンガ的な決着に努力、友情、勝利という何かの記憶がひっかかった。