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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
ガルド領・教会編
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17日目 ラルフ

 今朝はメヌールの声で目覚めた。カイトが家に来たらしい。

 襲撃事件後暫く軍に保護されていたが処刑など北軍ではなく領軍が村を取り締まり始めたので自宅の帰還を許可されたそうな。職安と監視小屋の往復もあるので村人の中ではかなり浮いており毎日医務室までメヌールに会いに行っている。溶け込めないなら逆に緊密に見せて身を守れとフリッツさんのアドバイスもあるようだ。

 そんなカイトは今朝もメヌールに会いに行ったが私と帰宅したときいて顔をだしにきたらしい。なんとなくお互い怒濤の数日間を過ごしているので久しぶりだと安心する。カイトにも昨日話したように旅立つ予定を話すと目に見えて落ち込みだした。


「うん、ハラーコが旅人なのは知っていたけどね。平穏から遠のいた最近が好きなわけでもないけど寂しいよ。ついでに俺も村を出るんだ」


 カイトも村で浮いているし、監視小屋から離れた地に引っ越すとで職探しが必要になってくる。村の移転にはついていかず監視小屋の面々の紹介で北軍僻地の輸送関係に移るそうだ。お金はないが実績とコネがある。うまくいけばホラ村跡地になるここの軍事施設と本村を繋ぐルートに乗れるらしい。私はまだ若いと思うが子どものうちから職を決めるような社会。今更別の仕事に割り込めないらしく破格の待遇だと笑う。彼も人生を歪められた一人だなと思いながらも余計なことは言わずに見送った。


 カイトが帰った後、入れ替わりにハイラルが訪ねてくる。いつ出立の時になるかわからないので私とメヌールと共に旅道具を揃えて魔法の袋に容れて貰えということらしい。そんな話のお陰で昨日領主にする定期連絡を忘れていたことを思い出した。


「メヌールじいさん、もう王都じゃないし忘れていても問題ないよね?」


「知らん。いつもより怒りっぽければ厄介じゃぞ。直ぐに連絡するのじゃ」


 仕方なしに連絡するが呼び掛けても返事がない。


「昼間なのに返事がないんですが……」


「おかしいのう? 寝ている時以外に反応できない条件はないのかね?」


「思ったことを思念として読み取るので特に意識しなくても私の声は聞こえているはずなんです。寝ている時も受信側の意思がないだけで届きはします。

 返事も同じようになってますから、こちらを無視していて別件にかかっていたらその別件の思念が垂れ流される仕組みです。つまり今の領主は何にも思考していないことになるんですよ。今の領主が疲労困憊だとしても睡眠や気絶……アランみたいな乗っ取りがない限り今は忙しいから無視しよう程度が聞こえるはずなんですけど」


 念話の概念として製作時に脳内信号の感情や思考を読み取る仕組みにしている。ネットワークが難しすぎて魔力糸電話にするまでに時間をかけた分、内容は単純に吸い上げるさとりんの前身、脳内スキャン機能を流用した。メヌールに説明するのに脳ミソの電気信号といっても伝わらないので簡単にしたが、現代風にいうとノンレム睡眠状態になる。夢も見ないし、血圧も下がっているし、物音程度では起きにくい。戦争準備まっただ中で電気のない世界。太陽が高い時間にうたた寝する暇もない人物がノンレム睡眠中とはこれ如何に。

 言いたいことが通じたかわからないが、アランの件があるのでメヌールもハイラルもピリピリしている。


「一応様子は見ておいた方がいいのう。ハラーコ、姿を消す魔法を使って様子を見てきてくれ。可能なら私とレイナード魔導師を念話に繋いでな。繋いでくれたら私が説明するのでこちらは無視してわかったことを伝えてくれ」


 了解した私は念話を三者通信にして、隠密状態で領主館に転移した。




 領主館は静寂に包まれている。昼間にくるといつもは執務で忙しい筈なのに使用人しか黙視できない。繋がらないが念話用の魔力糸を繋いでいるので領主の位置は直ぐに捉えられた。場所は敷地内、ガルド大教会の司教棟を移したら場所である。

 魔信の復旧のためにこの建物で何かをしているのはおかしくない。おかしくないが領主自らいるのは普通ではない。魔道具の専門家やトラップ専門家が派遣されるべきだし、秘匿するためだとしても領主はいるべきとは言えないのだ。

 何かの異変を感じつつ司教棟に入る。レーダー展開をすると一室に領主が一人だけ、あとの者はバラバラだ。領主を一人にするなどあり得ない。部屋の外に見張りもいないし、領主館の土地の一部だとしても異様。そっと領主のいる部屋に転移する。


 そこには縛られて倒れている領主が転がっていた。


『メヌールじいさん、発見しましたよ。縛られて意識を失っています』


『生命の危険は?』


『見てみます』


 倒れていることに慌てたが領主の生命力は削られていない。ほっと一息ついて心身ともにチェックをする。相変わらずラルフ・グリードの呪いがかかっている以外は問題がない。


『ラルフ・グリードの呪いだけですね』


『僕はそれ初耳なんだけど』


『レイナード魔導師、発見したのは昨日じゃ。泳がせておったんじゃよ』


『ドンカチャで自白させられるのに?』


 レイには領主と魔獣の宝玉についてはふせていたのでメヌールが嘘を重ねて抑えようとする。脳内スキャン機能を使っているのに嘘をつけるとはメヌールなかなか使いこなしているな。そっとフィルターを作った。私にはできない芸当だ。

 二人が揉めても話は進まない。とりあえず話を流させよう。


『今どうするかですよ。後でもできる話をするなら遮断します。全体像を見るためにラルフを見に行きますか?』


『わかった。後で説明してもらう。ラルフから目的の他に共犯者も引っ張ってきて。ふんじばって監禁なんてあいつ一人ではできやしない。文官だろう』


 レイは北軍の魔法使いだが会合参加者の顔と名前と予想される部署を記憶していた。意外と有能だったようでラルフの人物像を細かく作っている。


『魔法使いではないけど魔力濃度がそこそこ高い。身内にきっと魔法使いがいる。サーベルを持っていたが手入れが足りない。武力は家系にあっても本人にはないね。それと左手で作業をしていたが動きは右利きのそれだ。恐らく怪我か人に悟られたくない何かが右手か腕にある』


 軍人すげぇと感心しながら右手をチェックリストに入れる。語っていないラルフの親戚情報なんてピッタリだ。レイを見直していると今度はメヌールのアドバイスもくる。


『ガルド領主はああ見えて本人にも武力がある。自ら暗殺者や襲撃者を叩き斬ったことがあるのでそれを捩じ伏せられるのは権力か相当な手練れのみじゃ。実行犯以外の情報を引っ張るならその辺も尋問にいれるといい』


 なるほど。呪われても自傷はしなかった領主だ。自衛はするだろうが負けるとなると強者の臭いがする。

 それぞれの話を聞きながら探していたラルフは同じ司教棟内にいた。レーダー確認後直ぐに転移する。

 室内にはラルフの他に五人。メヌールの予想通り体格のいい如何にもな男たちがごつい武器を持ちながら話し合いをしている。


「ハラーコ嬢、領主は許しましたが私はノックもなしに入室するなど許可していませんよ」


 気付かれた。音も温度も目に映るものも人間が感知できる情報は全て魔法でカバーしている。魔法使い狩りとの戦闘から魔力すら偽装しているのに中央に座るラルフに何故か気付かれてしまった。屈強な男たちはわからないようでキョロキョロしているが落ち着いて私を探す。何が起きているかはわからないが真っ直ぐラルフをにらみ返した。

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