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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
ガルド領・教会編
130/246

16日目 同行者

「じゃあ王都はもういかないんだね」


 医務室に帰った私はレイたち話が通じる者を集めて説明中だ。勿論領主のことはふせてガルド内部だけ見ていればいいという状況の報告になる。今後私とメヌールが出ていったら内戦を企む領主サイドに完全に引き継いで貰うために医務室の住人とあわせて部隊長の従兄、フリッツさんも参加中。初登場がグーパンだったので肉体言語主義者かと思っていたが穏やかでほとんど喋らない。

 話は大体私が説明して、レイが質問し、メヌールが毒突っ込みをいれて進んだ。軍関係者のハイラルは下っ端なのか椅子の上で文鎮状態、レイナードとベッチーノは詳しく知るのも良くないだろうと部屋の隅でボードゲームである。


 一段落ついたのでフリッツさんは執務に戻りレイナードとベッチーノを呼ぶ。大きな話は終わったので私とメヌールの二人旅について報告をしようと思ったのだ。


「大筋の予定は見えてきたというか引き継いだので今後の話をしたいのですが」


 先程まで動かなかったハイラルが入れ替わりに合わせてお茶を入れ直してくれる。最初に来たときにはあまり早く湯を沸かせなかったのに中々のスピードアップをしていた。目線に気付いたハイラルはにこりと笑う。


「先日の焼き付けで少し成長したのです。成長期と理論の追加で今週だけでかなり幅と精密さが上がりました」


 追加でレイももう少しで見習いを抜ける域に届くと言った。

 準備が整ったところで医務室に音漏れ防止をかける。最初に口を開いたのはメヌールだ。


「当初の予定通りガルド大教会がダークエルフの情報を掴んだところでホラ村を移転させる。その後の話じゃが、移転が終わった時点でハラーコと私が領主様としている契約が終わるのじゃ。私たち二人は身分を隠して共に旅立つ。神官として残ると余計な詮索もあるじゃろうから転移ができるハラーコと暫く逃走じゃ。落ち着けばレイナードにも魔信擬きを送るじゃろう」


「追加で依頼を受けたくないのもあります。表立って重要人物化して取り込まれないように移転完了時点で契約の完了宣言をしてそのまま転移で旅立ちます。お別れの前にベッチーノさんとレイナードを本村に送ったりまではするつもりです。別の準備や予定があれば言ってください」


 二人して決定事項であると宣言すると私の魔法が教会との争いに更に使われることを想像したのかベッチーノとレイナードは黙り混む。軍に保護されていた分、襲撃で怒り狂った私が何をしたのかおおよそを知っているらしい。メヌールが残ることで教会関係との対立を生むことも予想できたようだ。二人は引き留められないのだと下唇を噛むように俯いたがレイはニコニコと軽く話に入る。


「その旅立ちなのだけれども、僕がハラーコの代わりに領主様の魔法使いとして頑張るってことになっているよね? 悪いけれどそれハイラルを連れていって欲しいんだ。自分の身を守る転移も魔石いっぱい高コストなわけで、この子を守るまで行くと難しいんだよね。多分領主様の筆頭魔法使いくらいまで上がっちゃうから、一番弟子のハイラルは狙われやすいんだよ」


 笑顔で軽く言っているが重い話だった。なんとなくこれから教会なんて魔法使い同士の争いになる場にちびっこに毛が生えたようなハイラルが危ないのは想像しやすい。ただ、当のハイラルは初耳だったようで目を見開いて間抜けに口を開けて固まっている。


「ずっと面倒を見てくれって話ではないんだ。僕にとっても大事な一番弟子だから。教会から魔法関係を奪ってある程度の安全が確保できた時に、残党くらいは問題ないくらいに鍛えられたハイラルが帰ってきてくれたら嬉しい。メヌール司祭とハラーコには指導代も出す。だからハイラルを守って鍛えてくれないかな?」


 最後にはいつもの笑顔は消えて真剣な目で跪かれてしまった。

 レイが持っている情報内で一番ハイラルを守れる状況は確かにそれになるのだろう。転移もできるし魔法も教えられるし何より教会や領主の目が届かないところに連れていける。

 ただ、レイは知らないが私はあまり人と関わるのは良くないとして旅立つ。恐らく最初の妄想兄貴の話を信じているので魔獣の宝玉が人から逃げる旅だとは思わないだろう。レイの言い分もわかるので断り方がわからずメヌールを見ると、彼も困り顔。それでも我らがメヌールさんはちゃんと答えは発する。


「半年じゃ。それ以上は連れていけぬぞ。最終的にはレイナード魔導師から魔信擬きを受信できぬ距離まで移動するつもりなんじゃよ。半年以内は通じる距離にいてやろう。それ以上は無理じゃ。我々は大陸を離れるからのう」


 特に旅先は決めていないので即興のいいわけだ。通信距離を理由に逃走が阻害されるとこちらの命運も重ねての交渉である。大陸中が同じ宗教みたいな感じであり、ガルドは教会と争うわけだから、大陸から出るというのは当たり前の発想のようでレイも頷く。


「半年も足留めをしてしまい申し訳ありません。必ず半年以内に今よりマシな状態にします。ハイラル、お前も半年以内に自分の命程度は守れるようになると誓え」


 珍しい命令口調で声をかけられたハイラルは泣きそうな顔をしながらレイの横に跪く。


「半年以内に自分の命を守れるようになります。どうかよろしくお願いします」


 突然のことであるし、命もかかっている。師匠であるレイに複雑な気持ちもあるようではあるが命令に対して忠実に従う少年は胸にくるものがあった。半年だけだ。仕方ない、仕方ない。

 ハイラルを半年同行させる約束が決まり詳細をつめようという所で今度はレイナードが動いた。また跪くポーズである。アデン人にとっての土下座連発だ。


「私も連れていってください」


「ならん!」


 反射的にメヌールが怒る。当然と言えば当然だ。最北村の後継司祭として引き取り育てた。メヌールは未熟であれども引き継げるとして旅立ちを決めている。前提条件であるレイナードの安定した未来を投げ捨てるのは許せない話だろう。


「もう後悔はしたくないのです! いつもいつも守られるばかりで私一人事情を知らない。このまま司祭も兄のように何も言わずに消えてしまうのですか? 真実を隠して、いつまでも子供だと!」


 レイナードもメヌールに負けず劣らず怒鳴る。メヌールに向けて木札を投げつけて立ち上がり、神官服を掴みかからんとした。メヌールはそんなレイナードの手を軽い風の渦を叩きつけて払いのけると逆に掴み前後に揺さぶる。何となくだがレイナードの怒り方はメヌールそっくりなのではないかと、見た目の割りにそっくり親子とほのぼのとした感想を抱かせた。


「お前は、お前を最北村の司祭にするのだと誓ったのじゃ! これを読んだのならわかっておろう! マキシムもコーディーもそれを望んだ! クレメンスの子どもたちがあの教会に苦しめられる未来を作らぬようにすべきことは何じゃ? クレメンスが教会政治から遠い地で世襲教会を持つことじゃろうが!」


「まだ見ぬクレメンスの魔法使いより司祭だ! 私の親は司祭なんだ!どうしていつまでも一族のために動かなければならない! 私の父を不当に排斥して私が幸せだとでも? クレメンスの子どもが司祭の背負った物を知らずにぬくぬく保護されて納得するとでも?私は許さない! 司祭を見捨てるなど許さない!」


 熱いバトルが部屋を破壊しない程度の小さな魔法で繰り広げられる。体を鍛えているわけではないので空気砲で殴りあうような喧嘩は地球人的にシュールだ。ハイラルは色々ありすぎたせいか派手か地味か微妙な親子喧嘩をみてとうとう泣き出してしまった。メヌールもレイナードも魔力的に抑えているのはわかるので私とレイはなんともいえない生温い視線で観戦している。魔法の影響で最初に投げられた木札がこちらに飛んできた。レイが拾い上げる。


「ああ、メヌール司祭の遺言書だね。メヌール司祭は情報を残して、レイナード君は色々真相を知って守られる側から脱却したいというところかな?司祭が寝ている間に読んだようだ」


 レイが木札を読み出したので脳内を覗き見させてもらうと確かにアランとの確執やレイナードの伏せられていた家族について、クレメンス家という二人の実家から今後魔法使いが生まれても保護できるように田舎司祭の職を守れとあるようだ。


「いつも通り回りくどくて理不尽ギリギリですね」


「それでも遺書と思えば推移をかなりわかりやすく残している方だよ。普通は命令だけ残って意図がわからないものなんてザラだからね」


 二人で話していると唯一この場で魔法を使えないベッチーノがやっと抜け出して隣に並ぶ。ひょいと木札を覗いた後苦笑いをした。


「親の愛情だけ伝わってしまったのでしょうね。聞けばレイナード君はいつも理不尽な苦労が続いて知らされないことばかりだったんだとか。やっと見つけた愛情を返すのに必死で他の家族の愛情も見えていない。思春期と青年期が一緒にきたようなものでしょうか」


 軍の話中は一緒に席を外していたからかベッチーノは既に内容を知っていたらしい。同じく子を持つ親として今まで諭してくれていたことを察する。レイも察したようで二人でレイナードの決着を予想し始めた。


「現実問題レイナード君は連れていけないだろうね。クレメンスのためにならない同行は常にメヌール司祭が苦しむことを知るだろうから。二・三日だけ連れていけばしょげて帰ると言うんじゃないかな?」


「反抗期が入ると意固地になりますからそれも良くないでしょう。親のレールに乗りたくない気持ちもわかりますが彼は苦労の割りに人間の機微に疎い。強制的に司祭職を継いでもらって鍛えれば十年くらいで司祭の気持ちもわかるのでは?」


「そういうものですね」


「そういうものです」


 男性の父親との相互理解は難しいものらしくベッチーノとレイは自分の若いときと今の心情の違いについて脱線し始めた。ベッチーノも村長を継がずに移動狩猟民になると飛び出したり、レイは副部隊長を追って北軍に入るために大喧嘩の末に家出しているので帰郷の度に申し訳なくなるんだとか。


「まぁ、男同士の親子というのは言葉で相互理解できるものでもないのですよ。強制なり逃走なりで離れてはぶつかって、年をとることでしか理解できないものなので。司祭はハラーコさんの転移で逃げるわけですからどうにもなりませんし、これはただのスキンシップなのでしょう」


 レイナードは置いていかれる。何となく可哀想に思ってしまうが大人の男性陣からすれば覆しようはなくじゃれあい程度の認識だった。暴力的で日本人だからなのか女だからなのか私の感性には合わないが皆さんが納得するならそれでいいです。泣いているハイラルに王都土産のカンパンみたいなおやつを渡して私たちは喧嘩の見学をしながらシュールなお茶会に洒落こんだ。

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