16日目 めぬ解釈
私の正体がわかった所でメヌールは考察をしてくれた。元々が神官なだけあってかなり宗教よりだけれども。
魔力の逆流で呪いが遮断できるのならば魔獣の宝玉より強い魔力が意思を持って操っている。大陸を血染めにする魔獣の宝玉以上の力と言えば神しかない。メヌールは私を含めて魔獣の宝玉は世界に対する神の意思であると信じている。私が最初に聞いた天の声は神の言葉だというのだ。
私からすれば魔獣の宝玉を大地にばらまくなんて傲慢な神様か邪神の類いであるが、日本以外の世界の宗教のように痛みや神罰も試練だと受け入れる人種にはそれが自然な流れなのだ。ついでにメヌールが知らぬだけで神と魔獣の宝玉の間に何もないとも確信がもてない。文化の発展度合いのせいかもしれない。天動説を認めない昔の宗教学者のように彼は真面目に私が神に呪われていると思っている。
他の魔獣の宝玉は知らないが、メヌールの中で私は神が大地に授けた試練になった。魅いられて大地を汚すか、別の方法で神に認められるか。本人がいうようにメヌールの寿命は大陸基準であと十年あればいい方で、自分が試練を受ける修練者ではなくあくまで繋ぎだと割りきった。彼は試練を受ける者が現れるまで側で友人をするという。
前提条件は理解できないが、友人として理解者としていてくれるなら助かる。何せ人として欠けている私だ。結論は私には都合がよく、この世でやっと一人ではなくなったことは何物にも変えがたい。今後私が魔獣の宝玉の本領発揮なんてせずにいられるようにいてくれるというのもありがたかった。
私や魔獣の宝玉についての意見は一致しないし、将来はわからないけれども単純な私は近い未来の明日明後日明明後日が拓ける。細かいことや遠い未来は話し合えばいい。メヌールのおかげでシリアス一直線だった話の展開もなんだか少し楽観視できる。
「これ以外の話はまた機会を設けて話そうかの。とりあえず、今回の外出の建前をすまそう」
話を切り上げたメヌールはいつもの調子で私を連れて歩き出した。
「建前ってなにか用事があったんですか?」
「そりゃ何も食事だけしてきたとも言えぬじゃろう。ほれ、その先が戦闘跡じゃ」
ついていった先は荒れた山の一部だった。話を聞くと例のダークエルフ対戦の偽装のために荒らした場所らしい。燃えたり枯れたり見るからに破壊活動をした場所だ。
村に届く音を優先したので教会がくるまでに更に激戦区跡にアレンジしなければならないという。私が来たらさせようと先に軍で話し合っていたらしい。
「ちょっと話し合うのにもカムフラージュですか。そしてやる仕事もカムフラージュ。なんかやっぱり善性ではなく悪性宝玉ちゃんですよね、私って」
「あまり声に出していうでない。死人を減らす行いじゃ。過程に善悪つける方がナンセンスじゃろうに」
普段通りの憎まれ口に安心感を覚える。破壊活動が正義の味方ですというのは確かにナンセンスだと思うので景気よく破壊を消音してから行った。でかけた理由も消化できたし帰ろうかとふるとため息をつかれる。
「スケールの大きい話で忘れたようじゃが領主のことはいいのかね?」
そういえば私の目的はそれだった。冷静になれるのかは置いておいて考え直す。
「私のぷっつん暴走が魔獣の宝玉に関わっているのなら関わりすぎるのは良くないですし、領主の呪いが私のトラブル吸引体質のせいなら治す方が元通りですよね。結局答えは出ませんが」
「結論が出ないのは同じじゃが前より思考がまともになって何より。神の声が百日以内に移動を求めるのはトラブル体質があると考えても良いな。根本的な問題はホラ村のゾンビ騒ぎじゃ。移転後に術者を捕らえてからそれ以上関わらずに逃げてはどうかね?」
メヌールはなるべく世間と関わらずに旅を続けろというスタンスらしい。神優先なので迷いは薄い。同行者になったメヌールが意見を固めたのなら迷う私は無理に変える必要もなく去り際に解決することにして医務室に帰るのだった。