16日目 暴走開始
朝まで何度も帰還を促したが、アベルは返事をしない。日が明けるのと同時に魔法の受信先に直接飛ぶとそこには遺体が転がっていた。返事をしないのではなくて受信前に死んでいたという所らしい。
重要な通信魔法使いが死んでいる。ガルドの上層部及びコンスタンティンはアベルの殺害は指示していないので別の何かに殺されたとしか考えられない。ルマンド教会なら首をはねる筈なので首のある死体から別の勢力がアベルを殺したとみた方がいいだろう。態々アベルを狙って殺害するなんて彼のポジションや情報がガルドやルマンド以外に漏れている可能性がある。
遺骸を抱いて領主の元に戻った。何をしていいのかもうわからないのだ。
「つまりアデンにいつ何が漏れるかわからぬということか。ハラーコ嬢、アデン大教会から撤退するようコンスタンティンに帰還命令を書かせよ。私も今から用意する。何故手に入ったかまでは述べなくて良い」
領主の命令により板が渡される。何が起こっているのかわからないまま素直に二枚の帰還命令書を持ち返り、ライン派のおじさんに渡した。
何故か教会にある地下牢に詰め込まれる。さっぱりわからないが事態は急速に動いているらしい。
『というわけで何故か捕まってしまいました』
徹夜でアレコレ働いた私は領主に現状を伝えた。ある程度わかっていたらしくため息を脳内でつくという器用なことをした領主の解説が始まる。
ガルド大教会がスパイを放つようにアデン大教会だってあちこちにスパイをまいている。ガルド大教会の秘技である通信魔法も門外不出といった所で完璧に守り通せるはずもないのだ。アデンに通信魔法使いがいるかもしれないし、ガルド大教会の通信魔法使いを買収するなり所属させるなり何があっても不思議ではない。そんな中で私は一体何者なのか判別つかない存在なのだという。
スパイは把握していないし、アラン(名義のコンスタンティン著)からのサインとガルド領主からのサインを持っている。今回の帰還命令書でアランとガルド領主は何か手を組んでいるとみなされた。私を帰してしまうとガルドから貴族に筒抜けになる。という流れで拘束は必須だった。
『じゃあなんでまたそんなもの持たせたのですか』
『君なら抜け出せるだろう? 今回の件で君は泳がせる相手から尋問する相手になった。尋問を受ければわかることもある』
領主の狙いはこの後受ける尋問からアベルに繋がるガルド情報を引っ張ってこいという所。火事が起きたまでの情報しかないのであれば転移で帰還。それ以外のアランは何処だとかガルドに私はいなかったなんて情報が飛び出してきたら、その人間を焼き切ってから拉致しろとのこと。
『なんか滅茶苦茶悪役にひた走っている気がしてなりません』
『少なくとも契約内だし、ゾンビの話などできぬ状態にはなっただろう? 数日経てば魔信が繋がりなんとでもできる。それまで君はそこで大注目をうける囮をしてくれたら良いのだ』
ガルド自体に人を寄越さないためのお仕事だったようで、私はここで注目を集めつつアベルと繋がっているかガルドにいるスパイと繋がっているかしている人間を足止めするしかないようだ。
尋問を待ちながら牢の中でゴロゴロして過ごす。なんというか領主からの扱いが今回荒い。彼の性格的にちょっと違う気がする。しかしながら契約内といえばそれまで。ホラ村移転が終わるまで教会情報を送り続ける約束だ。
何かがおかしい。というか領主がおかしい。これは精神攻撃なり受けているのではないのだろうか?今回の指示が領主の意思かわからないが言われた仕事をこなすことと領主を検診することを両立させた方がいいのではなかろうか?領主をよく知る知り合いもいないのでうんうん悩んでから気付いた。
尋問受けなくてもいいのでは?
派手に引き付けるのならガンガン抵抗というか暴れながら頭を覗いていけばいい。後々正面からアデン大教会に入れなくなるが、領主との繋がりが出た時点で遊撃やスパイ活動なんて無理な話。面倒ごとは増えるかもしれないが領主も変になってしまうよりマシだろう。
徹夜になる度、やらかしている自覚はあるが手遅れよりマシな結果はだし続けた。頭脳労働より大技労働がお仕事である。
「よし、まずはそこの見張りさん。こっちにおいで」
ひきつる見張りさんを手招きしつつさとりんプラス半日睡眠。ぱたりと倒れた彼の脳には大した情報はない。牢屋の鉄格子を泥々に溶かして次の獲物を探して歩く。
目指すは会議で上座にいたおじいさん。無駄に頑張らず最初からこうしていれば良かったのだ。
大教会の地下に私の悪役笑い算段活用が響き渡る。