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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
ガルド領・教会編
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15日目 また事件ですよ

 周囲をライン流派の方に固めて貰ったお蔭で静かに一人で過ごした。必要そうな人は通してくれるはずであるが誰もこないのは忙しいからであろう。昼御飯だと起こされるまで、ただごろごろと寝台の上を均すだけの午前中だった。

 昼御飯を会食にするか聞かれたがお断りしてまた部屋にこもり一人で消化。不健康うつうつな引きこもり生活に飽きてきた。思えば今日まで毎日毎日、このファンタジー世界にきてから人のために働いている。自分について考察しても鬱になるし、帰りたい故郷なんていうのもあの膨大な記憶のお蔭で一所をご指名すらできない。好きなこと楽しいことを見つけて、ふてぶてしくも余裕を持った生活をしよう。そうでなければ悔しいじゃないか。

 楽しむためにどこかへ行こう。お金もあれば乗り合い馬車も乗れる。支払いは怪しいけれどもニックが崩した少額貨幣用の袋を分けてくれていた。とられても価値がわかっていないので少々騙されながらで構わない。神官服を脱いで転移で乗り合い馬車の停留所にとぶ。さぁ、切符売場に行って大いにかもられるようと歩き出した所で肩を叩かれた。


「司祭様ですよね? 今日はどちらへ?」


 笑顔の女性にさとりんを使えば、最初教会まで案内してくれたジーナであった。神官服を脱いでいるのは学習したからだと取られたようで突っ込みはない。私の顔ははっきり認識できないはずではあるが、なんとなく平均的日本人の容姿には見えているようなので身長や髪色、よく見なくともわかる異邦人の造りでバレバレ過ぎのお忍びと見られる。行き先は特に決めた訳でもないがジーナにとって貴重な知り合いの司祭、王都から去るのではと彼女は焦っていた。


「少しぶらりと思いまして」


 容姿対策を考えなきゃならんなとメモに書き留めながらジーナと向かい合う。彼女は親交を深めるかストレートに治療頼むというべきか頭の中でぐるぐる回転していた。もう、そればかりなんだろうなと思うと利用されるかもしれない私から見ても同情が沸いてくる。

 王都の医療環境は最悪だ。魔法はコネと金、薬やシャーマンチックな流れの魔法使いは免許もないのに高価。

 ジーナを助けるくらいなら別に大したことはない。彼女が言い出さなければ手を出せなかったり、口止めをどうするかが問題だ。鬱々とした環境ストレスの発散が目的なので駆け引きめいたやり取りも面倒臭いなと思う。どストレートに聞いてダメなら別の場所に逃げようとジーナの瞳を正面から受けた。


「何か私に頼みごとがありますか?」


 彼女の頭はどうしようもないくらい混乱して何も言えなくなってしまう。一言言ってくれれば直ぐにでも向かうのだが、打算的に近付いていてもあと一歩が難しいらしい。


「何もなければ私は買い出しに行かねばならないので」


 切り捨てるように言ってみると手を伸ばしてジーナは口にしてくれた。


「治療を……義母の治療をお願いしたいのです」


 よしきた。じゃあ行こうかと彼女の肩を叩いて案内を促す。混乱が続いているジーナは機械的に案内をしてくれる。初都会の民家だなと少し湧いた興味に乗ってあまり気を使わずにいた。


 案内で着いたジーナの家は庶民向けの金物屋である。鍋や調理ナイフなどを並べていたりで日本の古い金物屋と同じ空気を醸し出していた。暗い店内に金属製品の棚山棚。どれも磨かれてはいるが光源がないので眩しくはならない。内装を見るに木造枠に漆喰壁でできた簡単な箱の中で棚を並べて店をしている。振り返り他所の店も見てみたがどこも似たような作りだ。


「この辺りは木造建築なのですね」


 少しずつ調子を戻していたジーナは鍋の隙間から壁を見ながら返事をした。


「庶民街は店も住居も木造が多いですね。石造り以上は再開発済みでお金のある地域です」


 彼女の脳内情報では茅葺きのような家も見えるが私はまだ目にしていない。疑問に思い茅葺きはと尋ねると顔をしかめられた。


「他所はわかりませんが茅葺きは貧民の象徴です。壁外でしか御覧になれないでしょう」


 貧民としか口にしなかったが、どうも元奴隷階級地区のようである。転移できた私にはわからなかったが王都は人口増加に合わせて壁を作り肥大しており、その壁の外に茅葺きが並んでいるらしい。かなり昔に人種戦争を終わらせたわけだが他所の国に合わせた差別撤廃で奴隷階級が無くなったようだ。解放された元奴隷は王都民にもなれず、雇用も財産もないのでスラム化。あれか、同和問題とかいう奴が起きているのか。壁の外にあるスラムの象徴らしいので下手に突っ込むとややこしいことになる。どんなものであれ差別問題は定住意思がない人間がかじるのはお互いに良くない結果しか見えない。スルー推奨だ。別の話題に切り替える。


「それで患者はどこに?」


 店の奥の細い階段に通された。午後は店を閉めるものらしく、店主やジーナの夫が退路を閉めていくのが怖い。軽く挨拶したが暗い人達だった。

 ガルドの農村は窓の多い作りで常に風通しが良かったが王都では滅多に作らないようでひたすら屋内も暗い。地域性なのだろうが病人がいると思うと良くない環境に見える。昼間だと言うのに皿に油をのせてその明かりを元に部屋に向かった。


「なんていうか暗いですね」


「ガラスは高価ですし、防犯上仕方がありません。普通は昼間に居住階にいることもないですし」


 その普通ではない形でお姑さんは軟禁状態で、家族も引き摺られているらしい。治療できない病人を抱えればみんなそうなるかも。気分が落ち込む流れに少し後悔しながらついに患者と対面する。

 とりあえず部屋に入ると悪臭が漂う。窓がないからかもしれない。家族はちゃんと介護しているようだが環境が悪い。寝台に近付くと眠る老女の眉間に皺が見えた。


「じゃあ始めますね」


 治療用の鑑定を開くとあちこち悪いと出てくる。仕方がないので一つずつ潰したり増やしたりとメヌールの治療より時間をかけながら治していく。どうして腰を痛めた寝たきり婦人が鉛中毒まで持っているんだ? 目が覚めたら歩行訓練だなという段階まで治してジーナに声をかけた。


「なんか内臓関係も悪くしていたので治しましたけど変な薬とか飲んでないですか?」


「薬師の方に見てもらっていました」


 ジーナの脳内を見るにこの近辺で定期的に出稼ぎにくる薬師という男から買った薬を飲ませていたようだ。腰が痛くて飲み薬とは痛み止めの類いなのだろうか。


「とりあえずもう薬は飲ませないように。消化能力と筋力が落ちているので、水で伸ばした食べ物から慣らして排泄がまともになるまでゆっくりやりつつ、歩く練習を。ある程度歩けたら階段、散歩とやっていけば良いでしょう。

 残った薬はありますか?」


 治ったことに泣きそうな笑顔のジーナは残りの薬だと言って粉の入った壺を持ってきてくれた。中身は暗く色までわからないが鑑定結果は鉛でしかない。技術が覚束ないだけならば多少入っていてもおかしくないが、ほぼ鉛。これはわざと毒物接種をさせているとしか思えない。

 ジーナに告げるか否か迷う。定期的にくる薬師なので他所にも毒配布をしていそうだし患者がかなりいそうではある。助けたい気もするが緊急時体制の教会から出て大勢を治療するのもしがらみ的に難しい。うんうん唸っていると不安げなジーナが顔をのぞきこんできた。


「この薬に何かございましたか?」


 ジーナは確信を持ってしまった。誤魔化しようがないのでこれは毒物だと告げる。


「街の薬師では手に入らないであろう万能薬だと売っておりました。治らぬ病人がいる家はこぞって買い求めています」


「きっと義母さんと同じ状態や亡くなった方もいるとは思う。引きこもって体を壊すのはありえることだけれども消化器や神経がじわじわ悪化し続けていたら恐らくこの薬が原因だね。これには何かを治す力はない」


「司祭様、薬の鑑定結果をしたためていただけませんか? 役所に届け出たく思います」


 ジーナの解決チャートを拝借すると、治療についてちゃんと学んで資格を持っている司祭が一筆書くと役所も詐欺事件として捜査してくれるようだ。被害が酷すぎると個人ではなく町単位で治療も受けられるかもしれない。一人で治療して回るより合理的な解決術だ。それにのろう。早速書こうと思ったが現地文字が書けない。


「教会でしたためます。早めに渡すので待っていてください」


 逃げるように教会に帰る。早速困った時のローゼンおじさんに面会依頼を出してもらった。同じ引きこもりでも教会の部屋には全て窓がある。外を眺めるとため息が出た。

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