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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
ガルド領・教会編
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15日目 保護

 ローゼン流派のおじさまの予想通り、騒がしくなった教会内で更に騒がしいのが私の部屋前である。通達が回りきるまでに室内に入り込めたが、個人で師弟で流派単位で魔法を買い取らせろと扉がガンガン叩かれた。まるでヤミ金の取り立てに怯えるように息を殺して膝を抱える。ディランかギルバートが来るまで出られない。それを知るために消音することもできない。魔法の強さにちょっと調子にのっていたけれど一番怖いのは人間だとぷるぷる震えていた。

 どれくらい経ったのかわからないが待ちに待ったギルバートの声がする。ギルバート以外は弾けと魔法をかけた扉を開けると無数の瞳がこちらを見詰めた。怖い怖い。彼の入室後扉を閉めてやっと消音。ほっとした所で椅子をすすめた。


「大変なことになっていますね、ハンナ司祭」


「ギルバートさんかディランさんが来てくれるまで動くなとアドバイスを貰ったのだけれど従っても怖い目みたよ」


 お茶を用意して受け取って貰うとギルバートの視線が低い。これは落ち込んでいるサインだ。


「私がこちらに来たのはディランの予想に従ってのことです。自分自身は助けに行けないので師匠を通じてライン流派でハンナ司祭を守るようにと。私は他人の機微に疎いので予想も立てられなければ、自らの力もなく師匠など周りを頼ることしかできませんでした」


「それでも助かってるよ。みんな偉そうで暴力的だし」


 ちらりと見ると音は消えているが扉が軋みまくっている。一晩も籠城できないだろう。


「あなたが我々ライン流に幾らかの利益を与えてくれるのであれば庇護すると言付かりました。具体的にはローゼン流派に流した理論一つにつき三日間、部屋や護衛を出すそうです。それ以上の期間は取引材料との交換か所属を移すなどの交渉になります。頷いていただければ今より外を散らして移動するための人員を呼べますよ」


 思っていたより安くつきそうだ。延々と焼き付けしたりせずに済む。部屋の貸し出しもかなり助かるのでいい待遇だと思うのだがギルバートはやっぱり下を向いていた。これは話をふらねばならないのだろうか?


「ギルバートさん、今回の件で落ち込んでいる?」


 彼も見合いを受ける若者層である。結婚願望のなさそうな面子ばかり集められたが、殉教するかもしれない現状は複雑なのかもしれない。


「驚きはしました。魔獣の宝玉の存在も、教会の責務も。緊急時体制になるのも仕方の無いことです。しかし……昨日共に時間を過ごした新たな友人が真っ先に教会の外に行くなど思いもしなかった」


「それって」


「ディランは調査派兵にでました。彼の師匠は外務でもよく出張にでる方なので彼も共に」


 ああ、それでギルバートに頼んで、頼まれた方は吃驚と。スペンサー情報的にディランは見習いでもそこそこヒャッハーな魔法使い狩りだ。一般外務が出るより適任だし安全だと思える。魔法的な戦闘集団の秘蔵っ子本人はいつもより長期くらいの感覚しかないのではないだろうか。初めてのお出かけではなさそうだし。

 そんなことを伝えるにもギルバートはまだ暗部にずっぷりできない見習いだった。ついでに私が何故知っているという話でもある。慰める方向が行くがた知れず、無言でいると無表情ギルバートの拳はぎゅっと固く握られた。感情表現が苦手なだけで腹黒でもなく普通の男の子なのかもな。


「ハンナ司祭、彼の無事がわかる方法はあるのでしょうか?」


 ふいに顔を上げたギルバートは私を見てそういった。おそらく話を聞いても動じない私が何かしらディランの無事を掴めると勘繰った様子。確かにできないことはない。通話してもいいわけだし。しかし情報収集集団と繋がると私、ここから抜け出せないしなぁ。


「少なくともまだ初動だから。調査一日目で命が脅かされることはないでしょう」


 あえてギルバートの質問を無視しておく。どんな調査方法かは知らないがすぐ捨て駒にはならないだろう。安全がないとしたらディランよりギルバートの方ではないだろうか。宮廷工作の見習いなんて武力もないまま削られる部署な気がする。


「再会したいのならばまずは自分が生き残ることを考えた方が良いよ。あなたもどこに再配置されるかわからない」


 不満があるのかギルバートは師匠たちを呼んでくると退室した。

 今回直接関係しているかは微妙だけれども一応私は教会を攻撃する側の人間である。逆ハニトラにはまりかけているのか、彼ら見習い青年達の今後が心配だ。本気で逃がしたくもなるが、貴族子弟である彼らは家族に教会の圧力を残すのも辛かろう。結局頑張って生き残れとしか言えないのだ。魔獣の宝玉に関わらずにいるにはそんな彼らのサポートもできない。大人しく過ごしてさっさとガルドに帰り、村の移転を済ませたら全て忘れておさらばだ。それでいい。それがいい。


 思考しながらギルバートの去った扉をみていればライン流派と思われる司祭が数人現れた。周囲を牽制した彼らについてどこかの執務室に通される。交渉を成立させて静かな部屋に一人籠らせてもらうがちょっと上の空すぎた。迎えにきたライン流派の中にも交渉の場にもギルバートは居なかった。これは拒絶されたのかもなとどこかで私は傷ついている。

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