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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
ガルド領・教会編
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15日目 教会動き出す

 また二日酔いの私はメヌールに叩き起こされた。そろそろ夜明けなので王都に行けとのことである。アルコールを魔法で飛ばしながら起き上がり、麦粥だけ作って食べて残りは周りの屍のために置いていく。何故か寝台で寝ていたはずのレイナードも床の仲間入りをしていたが気にしない。転移して身仕度だけ調えぼんやり過ごす。


 夜明けから暫くしてエリーが訪ねてきた。今日は警備係ではないそうだが道案内にと魔信室の室長がつけてくれたという。じいさん意外と親切だなと思っていたら案内なしの呼び出しで過去何人もが塔で迷子になっていた。見た目が統一されていて普段行かない部屋は住人たちにもダンジョンらしい。


「一定距離ごとに階数表示でもつければいいのに」


「保全の魔法がかかっているそうで改装は不可能らしいですよ」


「家具扱いで看板を階段におけばなんとか」


「幅の狭さ的に難しいかと」


 昨日よりより高いと思われる部屋に案内されたが正確な高さは謎のままである。

 今回の呼び出しは大事らしく大会議室というレベルの部屋であった。雛壇があり小さな法廷と呼べる内装で、裁判長席には一目で偉いんだろうとわかる立派な数珠を提げた厳ついおじいさんが座る。既に会議は始まっていたようだがエリーの案内で雛壇の末席に移動した。発言者は裁判で被告が立たされる場所のように中央にあるお立ち台まで歩いていく形のよう。勿論会議の形式なだけで裁きの場でもないのでお立ち台やそれに乗る机はそれなりの豪華な装飾がなされている。責めの場ではないとわかり少し安心した。

 会議室は私の入室で一度止まったがトップのおじいさんが続けろというように顎をあげることで再開する。発言者は見知らぬおじさんだ。途中からの話だがガルド以外でも魔獣の宝玉が紛失しているみたいだという報告である。報告が終わった所でトップのおじいさんは発言者をさげて立ち上がった。


「先ほど入室したのはガルド大教会から派遣されたハンナ司祭だ。挨拶を」


 偉いと見られるおじいさん達は一斉に立ち上がり腕を組む。それ以外はいつもの跪いた形。若手分類だろうということで跪き組に参加したが間違いはなかったらしくおじいさんの着席の言葉がきこえた。全員が元通り座った所で説明に入る。


「昨夜から出入り激しく会議を重ねているので概要はわかっているだろうが最初の話から伝えておく。

 こちらのハンナ司祭は先日起きたガルド大教会の火災による魔信不通の穴を埋めるべく派遣された。多大な魔力による通信と数日でこの距離を移動できる手段をもつ者であり、魔信が繋がるまでの間、我らのアデン大教会に滞在している。関係部署は緊急案件のみハンナ司祭に会見しただろう。

 彼女が来て既に三日目になるが未だ魔信が繋がらないため魔信室の方から予備機は使えないのかと昨夜確認にいった。この会議に出られる者は知っての通りガルドの魔道具は魔獣の宝玉式の隠し倉庫管理である。問答の結果、ガルドは過去十年以上魔獣の宝玉を使用していないことがわかった。前任者から引き継ぎがなかったとのことで魔獣の宝玉の管理や存在自体があやふやだ。

 先ほどの報告通り全国の魔獣の宝玉紛失確認も行ったがわかっているだけで三つ。黙っている可能性からまだまだ紛失があるだろう」


 私以外の参加者も他の仕事との兼ね合いもあり出入りを繰り返したようだ。なんとなくはわかっていてもちゃんと全体の話を知らない者もいたようで丁寧な説明により顔を青くさせている者もいる。全部で幾つあるかは知らないが危険なウイルスとかバイオ兵器が三つも消えたとなれば絶望具合は頷けた。


 全体が情報を共有したのを確認した所でトップのおじいさんが私を呼ぶ。お立ち台ではなくおじいさんの前に来るようにとのお達しだ。思い空気の中大注目を受けて向かうと間に挟んでいた机にごとりごとりとスイカのように大きな玉を五つ並べられる。もしかしてこれが魔獣の宝玉? 思わず鑑定を開くとそのシャボン玉のような虹彩のような不思議な色の玉は魔獣の宝玉と確かに表示されていた。視線を上げるとおじいさんが口を開く。


「君はアラン大司教がこれと同じものを扱うのは見ていないのだな?」


「はい。教会内で同一の物をみたことはございません」


 溜め息をついたおじいさんは玉を消失させた後、戻るように言う。席に戻る段階でおじいさんの声が会議室に響いた。


「全ての神官及び見習いは緊急時体制に移行する。アデン大教会だけでなく全国の教会で三つの宝玉探しに当たるように。枢機卿団からの命令が出ている。全国末端まで周知させよ。機密開示も今より許可する。では解散」


 解散命令により三々五々に退室していく。呆気なかったが私の呼び出しは探し物が二つになるのか三つになるのかの確認だけだったようだ。出入り口が空くまで帰れないなと振り返るとエリーが真っ青になって棒立ちでいる。声をかけると泣きそうな顔になり崩れ落ちた。


「エリー? ショッキングだったろうけれどもこんな所で泣いても始まらないよ」


「私、私は、そんな大変なことになっているなんて……」


 出入り口の混雑解消待ちをしているおじさん達が痛ましいものを見るようにして通りすぎていく。エリーは周りが見えないようで何がどうしたのか泣いてしまい訳がわからない。困った所で知っている顔が知らないおじさんを連れてきた。


「ハンナ司祭、彼は彼女の師匠だよ。彼に任せて我々は帰ろう」


 ローゼン流派のおじさまだった。私が困っていたので助けに来てくれたらしい。


「ありがとうございます。急に泣かれてどうしたものかと」


 人混みに混じり細い階段を延々と下りながらお礼を述べる。ローゼンのおじさんは気にするなと苦笑い。


「これから我々も弟子や部下に知らせねばならん。外務や魔信室は他所相手にも繰り返せばあんなことだらけだろう」


「青くなるのは解りますがなんでまた泣いちゃったんですかね?」


 彼の顔はお前マジで言っているのという顔になる。勿論わからんという顔を返せば溜め息を疲れた。まだ朝なのに本日二度目である。


「緊急時の体制に移行したからだよ。彼ら見習いは勿論、我々司祭もみんながみんな兵隊だ。聖軍、殉教軍、色々呼ばれるお伽噺の世界に入ったのだ。還俗も許されずたった一度の命令で死ぬような身分。魔法に自信の無い者や彼女のように適齢期の女性、見合い感覚で入ったお坊ちゃん連中は気が狂うような激変だ」


 なるほど。逃亡禁止の殉教必須、お見合い教会の若者達はいきなり死が近付いたのか。真面目な印象のエリーもいつかは実家に帰るか貴族に嫁入りするつもりだった。結婚を諦めたか諦められているかでなければ人生変わった瞬間である。


「ハンナ司祭も他人事ではないぞ。婚姻もそうだが、君はこちらでもガルドでも使い勝手がいい人材だ。上層部の取り合いもあるだろうし、逆恨みの襲撃も内部で起きるかもしれない。そうでなくとも個人で魔法を買い取らせろと人が詰めかけるぞ? なんせ外での実践経験がある魔法は外から帰ってこない外務か今ここにいる君からしか買い取れないのだから」


 最後の方を小声で言われて周りを見渡す。何人もと目が合い、魔法売ってくれと言っている気がしてきた。


「あー、あと五日ほどで魔信復活しそうなんですが帰れませんかね?」


「ガルドに逃げても変わらんだろ?」


「人の数が違いますよ。あと結婚相談所化していない分はマシです」


「うちの流派は弱いからな。見合いしたクロイツ流かライン流に頼んで匿って貰え。幾らか魔法を売れば後は排除してくれるだろう。最大派閥に売り込めば内部での身の安全は買える。後は私にもわからん」


 ローゼンのおじさま達には無理らしい。一層のこと王都はもう引き上げるかと考えながら下り続ける。目的であるホラ村は今日動き出すが引越しはまだ先だ。急激に変化する教会の動きを領主に伝えなければ中途半端に後回しにされるかもしれない。少なくとも魔信が使えるまで五日くらいはこのままハンナを演じていくべきだ。ディランかギルバートに頼んで匿って貰うしかないのか。

 棟の出口で魔信室長に伝えろと板を渡される。ガルドの教会へ緊急時体制への移行と私の転属依頼であった。通話先の領主は転属だけごねろと短い指示を貰い、とぼとぼと宿舎に帰るしかなかった。

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