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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
ガルド領・教会編
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14日目 スルー推奨

「魔獣の宝玉って何なんですか?」


 開口一番で聞いてみるとハイラルがびくりとはねた。

 メヌールとレイはボードゲームでもしていたようで向かい合っている。レイナードは既におやすみでベッチーノは書き物をしていた。


「一大事だと騒がれたのかね?」


 大きく頷くとメヌールがレイに説明を頼む。ゲームを止めたレイはこちらを向いた。


「魔獣の宝玉はお伽噺に出てくる有名な悪だよ。ヒューマンに限らず大陸中の人間が知る色んなお伽噺の中で出てくる。大体の宝玉はどこからともなく現れて人を闇に陥れる筋書きだ。魔族の使いだとかダークエルフの秘技だとか設定は色々あるけれども、それを手にした人間によって殺戮だったり戦争だったり悪い方向に話が進む。最終的に救われたり救われなかったりした後に新たな持ち主を求めて消えるんだ」


 魔族って何って感じだが、魔獣の宝玉は悪魔的な存在だというのは理解した。教会のイメージ戦略的に合わないということも。レイが説明した後、メヌールがこちらを向く。補足説明の時間だ。


「教会でも魔獣の宝玉はそんな存在じゃ。そしてそれが世に放たれないために幾つかの教会で管理しておる。管理方法は単純で、どこかへ消えてしまう魔法を封じるために魔力を吸いとるのじゃ。ただその魔力は莫大過ぎた。高出力の魔道具に吸わせたり大魔法を使える者に消費させたり。秘密倉庫もその一つじゃ。鍵も明かりも防犯システムも全てその魔獣の宝玉で賄う」


 魔獣の宝玉は自ら移動する。私が使う転移のように。見た目はわからないがかなりの魔力が必要なことは私自身が知っている。誰かに奪われていても害され、自然に消えても害される。お伽噺と現実の違いもあるだろうが、厳重にトップが管理しなければならない品であった。


「そんな酷いもの無くして何で今まで報告しなかったのでしょうね」


「レイナードもお伽噺のイメージしかない。教会の管理物だとは思いもしなかったのであろう。上位の席を占めている年寄りは知っていても多くの若者は知らぬ。年寄りは死ぬまで数年平和に過ごして後の代に回したとしか思えん」


 保身で沈黙。最悪だな。でもまぁ、ただの予想であり、それを追いかけて封印するような使命もない。大陸の巨大国家が傾きそうな怖さはあるがそれこそ杜撰な管理をしていた教会が潰れながら守る方が正しい形とも思える。この感覚は結局放置した上層部と変わらない。自分以外が責任者だと大司教任せでいた上層部と同じ他人事でしか見れないのだ。


「ハラーコは村を潰さぬくらいの正義感はあるようじゃが、魔獣の宝玉に挑む程の英雄願望はないようじゃな」


 メヌールは話を終わらせるようにボードゲームに視線を戻す。


「もちろん私にもない。領主にも無理じゃろう。近場で出たとき避難しろと叫ぶくらいしかできぬ。その程度でいい。あれは人智を超える物じゃ。手がかりすら誰にも残さず現れ消える」


 地震や台風、自然災害のような感覚なのだろうか。あるいは追いかけることは正義どころか悪に近いものなのか。触らず話さず過ごすことを許されたせいか少し不思議な気持ちもわく。


「ハラーコがすごい魔法使いなのは知っているけれどもだからこそ関わらない方が正しいと思うよ。大魔法を使える人間が魔獣の宝玉に魅せられるなんて悪夢は遠ざかるわけだしね。危なくなったら転移で故郷に逃げてもいい。大陸の外には行かないかもしれないしね」


 レイも関わるなと念押ししてゲームを再開した。体勢を変えたレイの耳に揺れるピアスを眺めながらなんとなくの方針を決める。何を言われても無いものはない。調べようがないしわからない。アデン大教会の追求が激しくとも変に調べず素直に無知を晒せばいい。

 少しもやってするけれども何にでも突っ込めば命の保障はない。生存本能が強そうな二人に従うことにして気持ちを切り替える。


「そういえば王都のお土産買ってきたんですよ」


 メヌールとレイに各々箱を渡して、ベッチーノにも配りにいく。ハイラルの分は忘れていたがメヌールにレイナードの分も預けた。


「魔石の耳飾りに数珠の留め具か。えらく品の良い物を選んだのう。有り難く使わせてもらおう」


「今のより派手だね! 転移を視野に入れると幾らあっても足らないし助かるよ」


「こんな高価な留め具、村長ごときに勿体ないです。お気持ちだけでも」


 三者三様だがチョイスとして間違ってはいなかったようだ。ベッチーノは高そうと言うが無難に一番安い分類の物である。市民階級のランク品だと押し付けたが、高級店の市民なのでお察しだ。

 早速レイは穴を増やすとメヌールにまかせて耳を晒す。この国のピアスホールはどうやって空けるのかと見ていると親指でさらっと撫でただけで空いていた。うん、謎過ぎる。肩凝りしそうなレイの耳には左右合わせて七つのピアスが輝いていた。


「初めて観察しますけど垂れ下がり型が多いんですね」


 店で見たのもレイの耳のも数は多いがぶら下がるタイプだ。髪の毛を伸ばすと事故が多発しそうにしか見えない。一粒に画ビョウのようなデザインがないのは少し違和感がある。そう疑問を告げると二人とも首を傾げてわからないという。試しにその辺の石ころを魔法でカッティングして形を作ると不思議そうに回された。


「揺れないのは良いが留め具が外れれば終わりじゃないかのう?」


「ピアスはエルフから入ってきた技術なんだけどそれはわっかなんだよね。アデンはイヤリングを改造してきたから装飾的になるんだけども。ハラーコの所は更にシンプルなんだね」


 日本の文化ではありません。しかしまぁ、デザインは文化背景が大きな要素を見せる。馴染みのないシンプルピアスは質素に見えるようだ。


「わっかも垂れ下がりもありますよ? シンプルなのだけの人もいますが、レイさんみたいにじゃらじゃらつけるには場所も限界なので真ん中くらいにこんなのつけたりちょっとでている軟骨にしたりする人もいますね」


 レイはなるほどと何かを取り出して魔力を込めてからメヌールに渡す。


「軟骨で!」


 持っていた魔石でシンプルピアスを作ったらしい。溜め息を吐いたメヌールがまた穴を空けると早速軟骨に魔石が光る。


「他にも身に付けられる変なところない?」


 変なところと言われても、皮さえ余っていればリングでどこでも留められるんじゃなかろうか? うっかりヘソと答えたせいでレイが服を脱ぎかけてとうとうメヌールの雷が落ちる。逃げた方がいいなと思った私はハイラルに次回のお土産を約束してアデン大教会の宿舎に帰った。

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