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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
ガルド領・教会編
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14日目 どんな玉よ

 いつでも刺激を求めるスペンサーは噂なり何なりと事前情報を集める。今回の魔信室からのお呼びだしはスペンサーも気になったようで魔獣対策室長に報告がてら質問に行ったようだ。対策室は基本的に魔信室との連携が強い。ガルド不通問題は機密に近く、新米司祭のスペンサーには告げられない。ふわふわした回答だが室長は私の仕事の業務内で一回話せば多分終わる、と何でもないこととして流した。取り込みに参加しているスペンサーはそもそも何でわざわざガルドから人が来たのかと嗅ぎ回っている。室長の感じからして深刻な話でもないようだ。不安は解けたがスペンサーはいつか好奇心で身を滅ぼす。


 ニック達に連れてきて貰った塔につくとスペンサーは召喚状を警備の女性に渡した。


「じゃあ行ってきます」


「ん? 部屋まで案内しますよ?」


 スペンサーの脳内で魔信室などの重要箇所は許可がないと入れないとある。ついていきたいだけのようだが召喚状には付き添い可とも書いていない。本当に面倒臭い人だなと思っていると警備の人が召喚状を返しながら会話に入ってきた。


「失礼。魔信室にはご案内できません。室長から小会議室にご案内するように言付かっております。スペンサー司祭も同席なさるのならば室長を御呼びするときに許可申請をしますがいかがなさいますか?」


「要りません。機密上、どなたの同席も許可されないでしょう」


 不通を知らない人は確実にアウトだ。室長に面倒かけやがってと言われる気がしたので切り捨てる。不満一杯のスペンサーだが、他所の教会の機密に真っ直ぐは立ち入れない。興味は深まってしまったが警備の女性についていく。


「ハンナ司祭、スペンサーがしつこく張り付いてはいませんか?」


 階段と扉だらけの塔内部を眺めて気を遠くしかけていたが、よくよく警備の女性を見ると朝からスペンサーを怒鳴って一緒に魚を食べた女性だった。


「ああ、宿舎の」


 女性、エリーが言うにはスペンサーはほぼ同時期に教会入りしたらしい。昔から女癖なりゴシップ漁りなり酷いものらしいが司祭昇進一番乗りの出世頭である。遠いか近いか微妙な距離の親戚なので、あまりにも酷いなら実家に言い付けて経済圧力をかけてくれると心強い。


「神官が女癖ってそれいいんですかね?」


 私の疑問は小さな声で辺りを見回し告げられる。


「他所はこんなことないと思いますよ。アデン大教会はその権威から常に人が集まります。多くの貴族は魔法使い同士を結婚させて家に役立てようと修行と合わせて格安のお見合い施設のように扱うのです。場合によっては三人まとめて嫁と愛妾を連れて還俗するものもいます」


 なんとなく女性司祭が町にでない理由が見えてきた。いい条件の結婚相手が選び放題の中にいる。悪い噂がつかないように疑われないようにしなければならない。それで引きこもりになると。嫁入り還俗率が高いのか、内部の女性はそこそこいるのに若い若い。


「スペンサーは出世頭なので周囲には嫁枠争奪戦は仕方ないこととしかとられません。本来の神への服従、祈り、魔法の社会還元には目もくれずに俗物的な思考に捕らわれているのです。他所の教会から見ればきっと浅ましいことでしょう」


 少し耳が痛い。真面目なエリーは家の命令には従うが、その日までは忠実な神の僕としてありたいと語る。見合いを餌に移籍という設定が彼女にばれませんようにと神に祈ってみる。

 スペンサーの愚痴を交わしながら階段をひたすら上ると、空洞である一階ホールがかなり遠ざかってきた。誰か落ちるぞこんな構造と思いつつ上を見るとまだまだ階段が続いている。バベルの塔でも目指したのか? 無駄に高い。エリーがここだと止まる頃には完全に疲れていた。

 案内された部屋は何個目かわからないくらい越えた他の踊り場と同じく何のへんてつもない扉の中にある。四人程しか座れない家庭のダイニングテーブルのようなものだけおかれて、ガラスのない窓が牢屋のイメージである高い位置に格子付きで空いていた。床面積と家具量からして広いはずなのだが、狭苦しい圧迫感がある。会議じゃなく尋問室ではなかろうか。とにかく、エリーが室長を呼びに言ってくれたので机にあった魔石のランプに明かりをつけて待つことにした。日が落ちはじめた薄暗い部屋に卓上ライト、完璧にカツ丼が似合う部屋だわ。


 窓から光が取れなくなり、脳内取り調べごっこをして待っていると通信室の室長が現れた。初日に散々嫁にもいけない田舎司祭と罵ってくれたお爺さんの一人である。ニック達を思い出して跪くべきかと思ったが癪なので椅子から立って着席を待つだけにとどめた。二人して向かい合うと室長から話が始まる。


「未だガルドの魔信は復帰しない。後片付けや混乱もあるだろうと待っていたがあまりにも遅すぎる。秘密倉庫は燃える位置にあったのか?」


 室長は予備機である旧魔道具で繋がないことに苛立っていた。ガルドの秘密かと思っていたが秘密倉庫は教会常識のようである。秘密倉庫がどこの教会にもあるとして、その鍵はやはりトップの持ち物なのだろうか? もしもそうならガルドの鍵である魔獣の宝玉行方不明は大スキャンダルだ。場合によってはガルド大教会をアデン大教会に潰させることもできるかもしれない。後で報告できるように聞いてみなくては。


「そもそも秘密倉庫とは何のことでしょうか?」


「教会責任者が管理する切り換えた旧魔道具を直しておく倉庫のことだ。教会によって名前は違うだろうが緊急時に持ち出す。今回その適用例に限りなく近いはずなのだが戻らんのだ。何故戻らんのかと思っていたがまさかお前は知らないのか?」


「噂程度なら聞いたことはありますよ。ただし与太話かと思っていました」


「お前が知らなくとも大司教は知っているはずだ。便利な魔信擬きができるのだろう? 今すぐ秘密倉庫について聞け」


 血圧が高そうな室長に言われたのでとりあえずメヌールにアドバイスを貰いうために繋ぐ。レイナード在籍時にあわせて知らないといった分、埒があかないと思われたらしい。


『メヌールじいさん』


『ハラーコか、何じゃ?』


『今、魔信室の室長に秘密倉庫から予備出さないのは何でだって問合せを頼まれたのですよ。どういう筋書きにしたらいいですか? 私、アランの部下って扱いなので死んだとか鍵無くしたとか言いにくいのですが』


『死んだは矛盾があるが、無くしたでいい気もするがのう。寧ろ先代が無くしたではいかんのか? 五十年前にはあったんじゃがのう。レイナードの話からすると十年前には無くなっておる。アランが大司教になって数年くらいじゃし、即無くしたか受け継いでないかじゃないかね?』


『了解です。先代紛失説でいきます』


 メヌールは気楽に言ってくれたが滅茶苦茶怒られそうだ。待っている室長から目線をそらして告げる。


「なんか、大司教は引き継いでないとか言ってるんですが」


 室長は立ち上がり机を叩く。


「引き継いでないだと? 引き継がずに大司教を名乗っているのか?」


「何でも先代は鍵を持っていなかったようですよ。いつから無いかはわかりませんが少なくとも前大司教は誰にも渡さず伝えず亡くなっています。何十年も開かずの間かもしれません」


 勢いがあった室長も、アランより前から不明と聞くと肩を落とす。


「事は私が考えるより大事のようだ。明日の朝、再びこちらへ来るように。あれがないとなるとガルドだけの問題でも魔信だけの問題でもない」


 そのまま何も語らなくなり、室長は去っていった。鍵である魔獣の宝玉は一体なんだっていうのだろう。昨日のレイもメヌールも気にしていた。これは聞いておかねばならないと、宿舎に帰るふりをして医務室に転移した。

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