13日目 拉致ります
アルコール独特の温かさを喉に感じた私は寝台に腰掛けて靴を脱ぐ。さぁ、横になろうとした所で扉が開いていることに気が付いた。面倒だが脱ぎたての靴に爪先だけ入れてパカパカ歩いて閉めにいく。今朝注意されたし鍵か結界を張らねばならない。扉を閉めようと近付くとそこには人の顔があった。
「ひっ!」
「ハンナ司祭! 叫ばないで! お話を!」
暗闇に浮かぶ人の顔はどうしたってホラーなので叫びかけたが、夜中に懇願されたら嫌でも人だとわかる。名前を連呼されたら困るので手があるであろう場所を掴んで引き入れ扉を閉めた。
「すみません……おかえりを待っていたのですが」
杖に明かりを点して向かい合うと訪問者は暗黒微笑だった。
暗黒微笑、改めディランは今日の見合いで失礼をかました上に明日は一緒にお買い物というスケジュールを聞いて今日中に謝らなければ全員に迷惑をかけると素直にやってきたらしい。もし上のごり押しなだけなら出入りだけ一緒にして後は待機するつもりだと下を向いてぽつぽつ語る。訪問には驚いたが案外性格は悪くないのかもしれない。ディランと同じ魔法使い狩りを倒してきたばかりなせいか余計なことを色々考えそうになる。
「私はちょっと魔法使いや神官について疎いんです。ついこの間も焼き付けをお気軽にやろうとして焼き切られると逃げられました。本来初対面のあなたに警戒される行動をとった私の落ち度でもあります」
二つ焼き付けたら師匠な世界で見合い中に焼き付けしようというのはどう考えても馬鹿すぎた。ディランも苦笑いをしている。
「私も調子に載って厚かましくもお願いしてしまいました。焼き付けは触れるものなのに、いざ貴女の手が近付くと緊張して防御符が飛んだ途端に更に失礼を。本当に申し訳ありませんでした」
謝罪合戦をしてなんとなくうやむやにできた所でディランは話を切り替える。
「先程おかえりのようでしたがハンナ司祭は別の場所から瞬間的に移動する魔法をお持ちなのですか?」
ああ、バッチリ転移を見られていた。ディランは見合いで十分わかったが魔法馬鹿である。心なしか暗い部屋でも瞳が煌めいて見えた。
「ええ、私がこちらに来るに至った最大の理由がそれです」
キラキラお目めに心が痛い。ディランの魔力じゃ幾ら積まれても譲れない。譲れないと言うより体験させてあげた方がガッカリしないで良いかもと、少し酔いが回ってきた私はちょっとだけサービス精神が旺盛になる。
「ディランさん、この時間もお酒が飲めるか買えるところってありますか?」
花街の酒屋はいつだって夜間営業と顔を赤らめ視線を外すディラン。うむ、ウブキャラだったのか。
「夜遊びに行きます。お酒を買って空中散歩をして、魚でも炙りながら飲みましょう。とりあえず神官服を脱いでください」
全くインプットされなかったようなのでひん剥いてアイテムボックスにしまう。手首を掴んであの辺りかなと空から見て不自然に人が少なかった場所を思い出して転移した。さぁ、酔っぱらいの相手をしてもらおうじゃないか。