2日目 だらちー、納税について知る
「へー、じゃあモフ馬の牧場があったりするの?」
監視小屋を離れた私とカイトはモフ馬の馬車と並んで、えっちらほっちらホラ村へと歩いていた。
この奇妙な馬面の生き物は、馬とモフトンという魔物との合の子だそう。馬より気性が穏やかで春にはウールに近い繊維も取れる農業用家畜らしく、この辺の農村ではマストアイテムに近いらしい。
そしてその毛が大層な量なため牽引できる荷の重さは変動し、春から夏の間にしか馬車に人は乗せないそうだ。と、言ってもこの馬車は復路では大した仕入れがあるわけではないので乗ってもいいそうだが慣習を学びたいのでと濁して遠慮させてもらった。確実に酔いそうなので全力拒否である。
「ホラ村には無いけどもマフュブってとこにあるよ。毎年毛がりが終わった時期にマフュブまで売買しにいくんだ。モフ馬だけじゃなくてマフュブは畜産特区だから生きてる家畜も毛も皮も肉も売り買いがある。
ああ、畜産特区ってわかるかい?」
カイトの常識教室を受講しながらの移動は話題が尽きない。本当に別の世界に来たのだと実感する。
「言葉だけなら。特区ってことは政治的な介入があって規定とか助成とかがあるのかな?」
「大体あってるよ。
領主様がお決めになっている特区は畜産以外にもあって、一定量の成果が義務づけられている。畜産特区は領内の農村に年間決まった家畜を決まった数用意したり、領主様に納めたりしないといけないんだ。俺らは普通の農村だから作物の出来が悪いときは税を別納してもいいんだが、畜産特区は家畜の物納しか許されないんだよ」
「きついだけにも聞こえるけど。あと農村の別納にも興味があるわ」
今度はガルド領の政治体制のようだ。これはかなり興味がある。現在旅人設定だけれども何が起こるかわからない。
「農村の別納は貨幣とか家畜とか相談次第だよ。基本的に豊作の時とかに備蓄超えたら売ったりして貨幣を作っておくし、それすらなければ家畜を潰す。村長次第じゃないかな。
特区の話だけどメリットもあるよ。常備軍がいるから獣害も野盗も心配いらないし、ただの街と違って国営領営の施設が色々ある。俺ら余所者よりマフュブで何か手続きするときの手数料がマフュブ民の方が安かったりするね」
なるほど畜産以外のことは手厚くしつつ集中させているわけだ。
それと農村でも貨幣経済が回っているのが興味深い。正直、山と監視小屋しか見ていないが、文化が宗教と密着し過ぎているので、政治や経済のレベルが低いと見積もっていたのだ。領主様への尊敬も見えるし、貯蓄の存在を農民の三男であるカイトも理解している。領主様も農民の貯蓄を認めているし、相互理解や譲歩があるようだ。
「特区が優遇されているなら、皆特区に住もうとはならないの?」
「それはさっき言った納税が関係するのさ。どこかの家の息子が独立して家庭をもったとして、納税義務が発生する。初年度いきなり納税するには独立前から貯蓄するか、借りるかしかないわけだ。
うちの村は普段から多めに徴収して村長が管理してるんだけども、独立した初年度の税をそこから出してくれていてね。農民税なら払える。けど特区に合わせた特区税になると村では助けてもらえない。
これがあちこちの村であるわけだ。
反対に特区民が農民として独立しようとしても村の子どものための資金はさいて貰えない」
普段から村単位で貯蓄している分、生まれ育った村以外での助成がないわけか。これは職業の選択を禁じるより自らが選択したと思わせられる分反発がないだろう。同時に目新しいことや発展にブレーキをかけそうではあるけれども。
「ハラーコ、そろそろ昼時だ。パンしかないけど休憩にしよう」
私の質問に区切りをつけたカイトはモフ馬を停めると荷物から壺と鞄を取り出した。壺の中身は水のようでモフ馬の前に置かれる。すぐにモフ馬は嬉しそうに口を壺に突っ込む。なんだか素直でかわいい。
「あ、カイトさん。私、昨日の晩御飯に獣を狩っているのだけれども肉食べる?」
「いいね! 何をしたらいい?」
「軽く石集めて鍋おろしといて。私は小枝集めてくるから」
今日は昼から焼き肉だ!