13日目 ときめきのない宝探し
さてガルド大教会についたが時間は夜。既に閉門しているし門前の建物は燃えてしまったので不思議な静けさが漂っていた。前回左右に一人ずついた門兵は五人に増えているが陰鬱な表情である。気配を遮断した状態でその一人から現在の状況を読んでみた。
二つの重要施設と重要人物を無くしたガルド大教会では次期トップ争いが起きている。アランの派閥にいた汚職弟子とナンバーツーの二人の争いだ。どちらもアランの派閥なのでナンバーツーが繰り上がるのが自然だが、汚職弟子はこの大混乱の中でアランとの養子縁組がなされた教会籍の謄本を持ってきたらしい。その辺の書類は燃えてというかまるっと私が持っていった建物にあるはずだが、火事の中これだけ持ち出したという。閉め出している私には偽造にしか思えないが疑惑と証拠、ぐちゃぐちゃの教会内の後継争いのせいで復旧どころか仮設住居も予定がたたない。
偉いさんは住む棟が無くなったので司祭棟に移り、司祭は追い出されたので見習い棟に移り、師匠がいる見習いは司祭執務室に雑魚寝である。師匠のいない見習いは孤児院や街の知人宅などに散ったようだ。それはなんというかストレスフルですね、あの癒しの棟が生きていればまだマシだったのに。
人がいるであろう棟は解ったので司祭棟にとぶ。誰がどこに移ったかなんてわからないので広い部屋からしらみ潰すしかない。
「ハラーコ、ここは?」
「元司祭棟、現司教棟。どこで何しているかはわからないけれども司教棟に住んでた人らはここに移ったみたい」
何でわかるか聞きたそうだがレイはそれについては黙る。
「じゃあ次に魔法管理なりするとしたらこの棟になるんだね。隠し部屋がないか探ってみるよ」
一人でどこかに行きそうなレイを慌ててひき止めた。
「待って。気配遮断かけるから。あと待ち合わせ場所と時間くらい言ってよ」
また魔法について聞くのを我慢した顔をみていたらテレパシーの方からメヌールの声がする。
『何十年も前の話じゃが更新した魔道具の古いものは廃棄せずに司祭棟に隠していた。今回のように司教棟が火災などの場合に一時的に使う予備じゃな。魔信が戻っていないことから多分知る者がいなくなっているのではなかろうか』
さらっとメヌールが怖いことをいう。魔信復旧してたら私は即スパイばれじゃないか。というか予備やバックアップを分散するのは予想しておくべきだった。テレパシーを聞いていたレイも眉間にシワを寄せて難しい顔をしている。
「司祭、本来なら魔信の予備ってどれくらいで使えますか?」
『即使える。寧ろ火災中にそちらに切り換える。
ハラーコが王都で魔信が繋がらないと受け入れられたのが真実ならば誰も隠し場を知らぬのじゃろう。嘘なら泳がされておる。まぁ、ハラーコがドンカチャでそれを通しているのならば真偽は見えんが』
メヌールじいさんは今日も冴えている。教会に入るのに面倒だったから鈍感ちゃんで説明して潜入したことがバレていた。ガルド魔信不通の伝令と刷り込んでいるので繋がっているかは謎のまま。もしかしたら繋がっているのに無かったことにしているかもしれない。これはヤバい。
「ドンカチャが何かはわからないけどハラーコの顔を見る限りそれっぽいですね。人がいる可能性も考慮して隠し場を探します」
『ああ、移動しているかもしれんが昔の隠し場は入口直ぐ右の部屋から行ける。窓辺の床に地下通路を作っていた。ハラーコ、ついたら魔信の道具があるか確認しなさい。なければ王都で隠滅じゃな』
多分泳がされていたのだろうなとへこみまくりだ。スパイどころか観察対象としてあちこちで見張られているかも。超恥ずかしい。ぷるぷる震えながら指定された部屋に入った。中には先住者がいたが寝ているようなので睡眠を重ねがけて隠し通路を探す。
「おかしいよね。司祭のいうように色々持ち出したりするのならばこの部屋に寝台なんか置けない。魔信に限らず色々探したりするのに数日立ち入り禁止にしないかな?」
レイは疑問を口にしながら窓辺の床を杖でコツコツ叩いていく。
司教たちは元いた司祭を追い出して家具もないはずだ。恐らくこの寝台は司祭が使っていたのだろう。と、考えると私はバレていない説が少し浮上してきた。不通でありますようにと願いながら床の確認に参加する。
「空洞はこの辺にあるけど開け方が見えてこないな」
「私がはずしますよ」
石かタイルと思われる場所から蓋を収納するとぽっかり開いた四角い穴から歯車やスプリングが見える。
「これ自体魔道具だ。すごい金をかけたセキュリティだね。鍵を持ってきたら自然に開くタイプ。残念ながら魔力も切れているし、ハラーコが無理矢理剥がしたけれども」
レイの指摘を受けて鑑定してみると壊れた魔力錠扉とあった。鍵を認識したら自動で開くので取手もなかったらしい。レイがいう通り魔力は既に切れていて長く閉ざされていたのか蜘蛛の巣なんかが杖先の明かりに反射されて見えた。
「これ、使われてないとしか思えない」
「入口が一つとは限らないしどうかな? 司祭、お詳しいようですがご存知の入口と鍵は幾つありましたか?」
そういえばメヌールは逃げ出した割に詳しすぎる。これってかなり限られた人間しか知らない重要機密じゃなかろうか。
『入口は一つ、鍵も一つじゃよ。ガルド教会のトップに受け継がれる魔獣の宝玉を鍵にしておった』
メヌールの言葉にレイが固まる。文脈的にトップシークレットか魔獣の宝玉かに反応したようだ。レイをつつく前に疑問を投げ掛けてみる。
「どうしてメヌールじいさん、そんなに詳しいの?」
『聞くべきは魔獣の宝玉の方だと思うんじゃが。まぁ、良い。私が大教会から逃げ出したのは権力争いが原因といったな。詳しくのべるとその魔獣の宝玉争いだったということじゃ』
トップが持つ唯一の鍵であり、現存する魔法技術の予備を扱える。そんな理由でトップ争いとは魔獣の宝玉を手にした者の勝ちだと見られていたらしい。争いとは関係なさそうなただの司祭であったメヌールもそれに巻き込まれてしまい鍵のヒントを師匠や兄弟弟子たちで探していた。かなりいいところまで探る。中級貴族出身の師匠は位の高い候補に売ればいいのに欲をかき、自分がトップに立とうと血迷ったため派手に潰されてしまったようだ。
『宝玉はあくまで資格の一つであり、後ろ楯なんて物を無視すれば不可能なのは当然の結果じゃ。争えるものは最初から他の素養を揃えていた』
何となくメヌールの言葉が諦めなのか裏切った物なのか判断に迷う。事実として昔は大事なものだったというところだけ抑えていれば問題なさそうだ。
復帰したレイが杖でコンコンと調べたが周りの防衛装置は魔力切れしているようですんなり地下通路に侵入する。レイが先頭で調べつつ、私が後ろで明かりを灯す。そこそこ細い階段を抜ければ窓はないがちゃんとした石壁の部屋にでた。
「古い魔道具の宝庫だね」
「少なくとも一番最近にお役御免した聖域の結界は置いてなさそうですよ。埃だらけで」
『ならば今は受け継がれてないのだろう。その辺りの物もハラーコの収納に入れてくるといい』
お言葉通り回収して地上に戻る。古い魔道具がわからない教会は一世代二世代前の物を別の場所に置いているかもしれない。今度はメヌールの時代より最近の倉庫を探さなければならなくなった。
『ハラーコ、レイナード魔導師。レイナードが気になることを言っておる』
ややこしいがメヌールの息子の方だ。十数年前だが彼の方が最近に近い教会を知っていた。通話に彼も混ぜてみる。
「レイナード君、繋いだよ。何か知ってるならお願い」
『あ、はい。アラン大司教様は魔獣の宝玉と思われる物を探していらっしゃいました。理由として、私の魔力ではこれ以上収納できない、と。魔力を使い収納するものと言いますと魔法の袋かそれの応用です。アラン大司教様自身がお持ちか、司教棟に置かれているかではないでしょうか? 何を収納するかはわかりませんが』
つまり、大教会には既にない? 現在トップ争い中のどちらかの脳に聞いてもいいが探すより早い方法がある。レイの服を掴み医務室に帰還した。
「帰るの早いよ」
「アランの記憶かコンスタンティンの記憶から今の魔道具保管場所を聞き出すのよ」
メヌールは予想していた様でアランの横で待っていた。皆聞く姿勢なので起こして鈍感ちゃんをかける。
「答えて。ガルド大教会の魔道具保管場所は現在どこにしている?」
「今はわからない」
「今はとは?」
「昼間政務を私ではない誰かが行っているから。一年ほど最近はわからない」
「一年前までは?」
「この袋に」
メヌールが腰に提げていたような袋を手渡された。レイナードがいうように持ち歩いていたらしい。受けとり記録を出してみると確かに一年前くらいまでの旧品は確認された。
「ハラーコ、これは本人でなければ出せぬぞ」
「記録閲覧しました。一年前からはないですね。コンスタンティンの方にきいてきますか」
「帳簿上最近一年は聖域の結界しか新調しとらん。今は魔信の予備をこちらが握っておるとわかったので魔道具はもういいじゃろう。ゾンビ調査の派兵だけみてきてくれ」
確かに。魔信がちゃんと繋がっていないとわかったのでもうこれについては緊急性はないだろう。レイの服を掴みまたガルド大教会に入る。
「僕はマッピングをさせて欲しいんだけど」
マイペースなレイには不可視になるよう魔法をかけて帰りに声をかけるように言い聞かせて解き放つ。繋げっぱなしのテレパシーからメヌールの指示が来た。
『ゾンビについて知っているものが限られるとしたら魔獣対策室か魔信室じゃ。ドンカチャするときにこの二つに関わる者を聞けば早くにつくじゃろう』
言われた通りに魔獣対策室の司教を見つけてゾンビについて探ってみる。教会もパニックだしもう全部燃やしたいと思っていた。更に探ると闇の魔道具を回収か消失させたいとある。
「あ」
『どうしたハラーコ?』
「村長が持っていた黒い聖典。あれ、闇の魔道具らしいです」
『領主様に渡したアレ? 何で教会が関わってるんだろう?』
「アレ、中身に死霊術についての指南が載ってるそうです。人の魔力とか生命力を吸収して鍵が開くらしくて、解錠させるために世に出したと」
『ゾンビを作ろうとしていると?』
「コンスタンティンはそのつもりだったみたいですね。アラン行方不明の今は消してもいいみたいですが。とにかく、ゾンビの原因は寄生虫でしたが、教会の見解はアレが解錠されて人為的に作られたと見ているようです。で、本回収か清めで消したいと」
お粗末な話だ。ちなみにホラ村なんて僻地に黒の聖典が渡ったのは闇汚染が酷いのでアランが敵視していたメヌールへの嫌がらせの一貫だったからである。最初からメヌールは教会に消される予定だった。死霊術が載っていると何故知っていたかはコンスタンティンの証言からと読み取れる。
『それで派兵は?』
「五名の魔法使い狩りが出ていますが帰還中です。魔法使い狩りの中にテレパシーを使える人間がいます。魔信は通じませんが本の位置が変わったから戻ると連絡がきていますね」
四人で静かに思考する。ここで噂の魔法使い狩りやテレパシー要員が出てくるとは思わなかったが、明確な敵だと思う。本を見つけたら周り一面火の海にするように指示が出ていた。現在、本は領主に渡されて過去に消えた闇の技術リストに該当物があるか検査している。
『司祭、その魔法使い狩りどもは村ではなく領主館にあっても清めますかね?』
レイの質問のあと、間を置いてメヌールが答える。
『ないとは言えない』
これは領主ピンチなのか?
『ハラーコ、領主様に報告だ。ホラ村に魔法使いを送り出してる今、五人も現れたら厄介だ』
『一度も貴族や軍とやりあったことのない魔法使い狩りが勝てるとは思わんが、少なくとも近付いてくる敵じゃな。後々を考えても全力排除をした方が良い』
コンスタンティンに問いたいこともある。私はレイを置いたまま、領主館に再び現れた。