13日目 復活
今日の予定は全部消化したので早めに寝ようと横になる。横になった所で脳に直接レイの声がした。
『ハラーコ、二者通話でいいから折り返してー』
レイからテレパシーのワンギリである。いきなり繋がるのは考え事をしていたら飛んじゃうし、場合によっては邪魔すぎた。着信音と拒否、もしくは留守番電話をつけたくなりながら折り返して繋ぐ。
『レイさん、どうしたの?』
村で何か起きれば領主参加もあるだろうし、二人で話したいことに見当がつかない。
『メヌール司祭が起きたよ。今ご飯食べて貰ってる』
かなりの朗報だった。直ぐ様通話にメヌールを足す。
『メヌールじいさん、おはよー』
『ああ、念話か。これは何とも気持ち悪いのう』
復活最初がテレパシーのクレームとは流石メヌール、調子良さそうで何よりだ。
『あれから何が起きたかどれくらい経ったかはレイナード魔導師に聞いている。ハラーコにも迷惑をかけたようじゃな、すまんかった』
いきなりのデレだ。やっぱり調子悪いのかもしれない。
『それより体調どうですか?』
『僕の診察でも司祭の診察でも問題なし。レイナード君も起きてるから全員流れを理解させる説明の方が苦労したよ。とりあえず司祭とレイナード君とベッチーノさん、あと領軍のフリッツさんはハラーコの王都潜入まで理解している。領主様には明日の連絡でいいだろうけどハラーコは気にしてると思って』
レイは仕事のできる人間だったようで面倒な擦り合わせを先にしてくれていたようだ。フリッツさんは部隊長の従兄の名前である。シナリオは変更予定だし、メヌールは主役ではなくなった。フリッツさんが領主の連絡は後でも良いとしたのならば問題はないのだろう。
『まぁ、私の体はもういいのじゃがアランをどうするつもりか聞きたくてのう』
メヌールが寝ている医務室には寝ているアランにダブルレイナード、ベッチーノとハイラルが詰め込まれている。気にならないわけはない。
正直アランをどうしたものか私には決めかねる。放って置くと巻き込み型自殺をするだろうし寝かしておくしかなかった。それでもいつまでも寝かせては置けないので殺生含めて考えていかなければならない。メヌールはどうするのが妥当か聞いてみると拾った者の責任だと見放される。今すぐ浮かばないので明日領主に相談するとまた先送りにした。
『心休まらぬ寝床になるのう』
気にしたら負けという言葉を送っておく。
メヌールにはまだ気になる件があるらしく追加質問を受けた。
『ゾンビ情報が一部王都にまで上がっているのならば、ガルド教会では今どうなっているのじゃ?』
火事でうやむやにはしたが、あくまでも時間稼ぎ。魔信関係をボッシュートしていてもそれを受けて王都にまで報告した者がいるのだ。記録はなくとも記憶はある。混乱していても見過ごせない案件と騒いだり、魔信がだめなら現地調査にと動いていてもおかしくない。メヌールがいうにアラン派閥関係なく真面目でまともな思考があれば放置は危険とするはずだ。
『じゃあガルド大教会の様子を見に行きますか』
夜はあまり王都を留守にはしたくないが他に見に行ける人物もいない。レイの焼き付けも終わってないので私が行くしか選択肢はないのだ。
『ねぇハラーコ、それ僕もついていっていい?』
何故かレイが行きたがる。メヌールは勿論留守番だ。
『いやさ、教会内部歩いたら建物内のマッピングができるでしょ? 領主様が教会と魔法利権で争うおつもりな以上知っておいて損はないよ。敵の根城だし。今なら司祭が起きてくれているから医務室任せて出られるじゃないか』
確かに軍人が教会の内部構造を知るのは武器となるだろうが、レイを連れてさとりんや鈍感ちゃん無双を見られたくはない。絶対欲しがる。テレパシーや転位は私の身代わりとして譲れても、この辺は組織の紐付きに渡したくはない魔法だ。
『マップなら私のメモを転写するよ』
『でもハラーコは隠し通路とか部屋とか気にしないでしょ? 罠とか脱出路の知識の入ったマップが欲しいんだ』
どうもカルアの洞窟で使った会議室はその系統がわんさかあったらしい。教育を受けている軍人たちが避ける床とか壁を気にせず移動する姿をみて潜入できるがド素人と判断されていた。記憶群から知識を引っ張り出して仕掛けがありそうな場所を思い出すと、なるほど、脱出路に隠し棚、山ほどあやしい仕掛けがある。今更わざとだ、わかっていると言っても説得力はないし、使用する魔法を欲しがるなと約束して連れていくことにした。レイはメヌールに神官着を借りて迎えにこいと鼻息も荒い。
医務室に私が転移すると落ち着きのない似非神官と珍しく私服のみのメヌールがいた。ベッチーノやハイラルは軽い挨拶に気持ちよく返してくれたが、レイナードはまともになって初対面。おずおずと出てきてこちらに視線を向ける。
「ハラーコ、司祭様?」
今の私はレイナードのお古を着ている。見覚えのある服を見て司祭なんだか何なんだかよくわからなくなったようだ。
「ああ、これね。今王都の教会でスパイもどきするのに借りてます。ごめんね、勝手に借りて。メヌールじいさんが教会歩くならこれ着とけっていうから」
渡されたのは別件でだったが回収されてはいないので教会訪問着として使っている。目を細めたメヌールに睨まれたが口は出ないので良いのだろう。レイナードは納得できたようで私の前にづ跪く。
「私にかけられた呪いを解いてくださったと聞きました。養父の治療もハラーコ様がいらっしゃらなければ助からなかったとも。多大な御迷惑をおかけしました」
先程まで睨んでいたメヌールもそれに並んで膝を折る。
「感謝と謝罪を」
丁寧なお礼をされるのは嬉しいが、生憎私のマナーは付け焼き刃の挨拶レベル。返し方がわからない。
「レイさん、正しいお礼返し淑女版ってどうしたら……」
「プッ。紳士のマナーをやるんじゃなくて?」
お礼も謝罪も同じだと言われて何とか終わったが、レイは初日の話をまだ覚えていた。監視小屋の失敗談を始めそうになったので腕を掴んで転移にうつる。