13日目 お土産
ローゼン流派のおじさんたちは気づけばわいわい集まり、テンション上がりまくりでお小遣いをくれる。買い物をしていくことを決めた私は彼らにお土産物の相談をした。
「王都土産? 国の中心ではあるが主産業は聖地関連だ。御守りや札が該当するのだろうが教会関係者に別教会の御守りなんておかしいしな」
「巷にあるものも他領の輸入品が多い。ガルドに持ち込むのに関税がでかい物しか珍しいものはないのではないかな?」
「関税がでかい物と言っても魔道具はここよりガルドの方が進んでいるし、食べ物は腐るだろう。装飾品が貴族向けに色々あるだろうからその辺りが貴族出身の大司教様には受けが良いのでは?」
話を纏めると彼ら庶民出にはちょっとハードル高いよとのこと。アランを上司と思われているので難易度高いと言われているが、実際は領主やメヌール、レイなんかに配ると思うのでそんなにもはぶれてもいない。冷凍や燻製程度ならできるので食べ物でもかまわないが、原産地は別領地だらけなのでなんか違うなと思う。
「参考にこちらの司教様以上がつけるのに問題はない装飾品はどのようなものですか?」
彼らが一番に思い浮かべたのはメヌールもアランと会うときにかけていたドでかい数珠の首飾りだった。海の石、火山の石、平野の石、等々このアラムウェリオが作った大地から拾った様々な石を繋いであるらしい。教会関係者でなくとも名家の課長が首から下げて冠婚葬祭で神に祈りを捧げているので貴族向けに珠の間が細工された物や宝石を使っている物があるらしく王都には職人や専門店が多く存在する。家宝的な物なので丸々贈るのではなく幾つかの珠を贈って仕立て直すそうだ。長ければ長いほど金や人脈、歴史が感じられる。王都で流行りの宝石の珠や金具という形で土産にしてはという話だった。
「あー、送り先の珠のサイズがわかりません」
メヌールの首飾りは見ているが領主や神官ではないレイなんかは全くわからない。店主に階級からしてこのサイズと言われてもガルドにも適用されるかは疑問だ。
「ならば首飾りの金具とモチーフを合わせた耳飾りなどはどうだろうか」
今度は魔法使い向けの装飾品だった。メヌールは下げてはいないがダブルレイナードはしている。魔力切れに対応するため魔石のアクセサリーを身に付けることは許されているらしい。耳につけたりブローチにしたり指輪にしたり。無難なのは邪魔にもならず着替えで付け替えたりもしない耳飾りのようだ。ただイヤリングは紛失しやすいし、ピアスは二十年くらい前にエルフから入った文化らしく主神が違う文化だとあまり年配者は空けていない。ダブルレイナードはピアス型である。イヤリングは見ていないかもしれない。
魔石の電池利用は当たり前のようではあるので魔法使いには耳飾りでいいかもと思う。魔法が使えないものには改造して魔道具にするのもありだ。装飾品案にのることにした私はまた彼らに助言を求める。
「どちらのお店の物が王都らしいですか?」
この質問はまた彼らを困らせた。
「安くて質が良いならわかるのだが」
「王族御用達の細工屋はオーダーメイド専門だ。三日以内にそれなりのものがある店というと、いうと……どこがある?」
「ラッセル領の大司教はミスリル細工店で仕立て直しをしていたような。あそこは部品売りしていたか?」
貴族出身者の世界と庶民出身者の世界はここにも壁があるようだ。貴族に向けた贈り物は難易度が高いらしい。ざっくり高そうな店をウィンドウショッピングすることにして細工屋が集中している通りを聞いておく。店舗は大体午前中で閉まるそうなので朝イチでいかねばならないようだ。
「そういえばハンナ司祭、予算は幾らなんだい?」
大事なことであった。貨幣についてわからないどころか貰ったお金は全て袋に入れたままアイテムボックスに投げ込んでいる。何が買えそうか聞いてみねばと袋を取り出していく。
ホラ村の火葬代の袋。領主から貰った前払いという名の給料袋。レイに魔法を売った時にうんうんそれでいいよと受け取った袋。ローゼン流派から貰った沢山の袋。とりあえず古いものから順に開封していく。
「ハンナ司祭、あなたこれは受け取ってから開封していないでしょう?」
何故バレたしと思ったが中から出てきたのは綺麗な絵が切れている木札と結縄と思われる紐だった。
「これはガルド領の手形ですな。王都でも換金できますが問い合わせで半月は待たされます。紐は換金理由ですね。一緒に閉まっておきましょう」
今すぐ使えるものではないらしいのでアイテムボックスに戻す。村長死刑になったらしいけれど使えるのだろうか。肥やしになりそう。
次は領主の袋だ。
「うおっと、魔石じゃないか。えらい等級のもんだぞ」
また貨幣ではないものが出てきた。換金すれば使えるかと聞いてみれば、輸出用の鑑定と税金払い済の証書がいるとか。一応袋には鑑定済でガルド原産の保証が書いてある板があったが税金の分はない。領主もどこに持ち出すかはわからず渡しているわけだから不思議はない。
「こんな大物税関に持ち込んで普通に帰れるわけないぞ。ついでに半月は最低でもかかる」
また使えない。がっかりしながらレイの魔法代を開ける。
「またか……」
ガルドの手形二号だ。換金理由の結縄には魔法代とある。
「一体幾つ売ったんだ? この値段で手形と思わない方がおかしい。君はどうやって各地で生きてきたんだい?」
思い返すと最初のパンは貰ったがあとは自前で手にいれるか交換だ。買い物をしない生活に慣れはじめていたし、外国にいる気分でいたので日本円のように肌身離さず持ち歩かねばとお金の重みを感じない。実際まだ目にしていないレベルで。
「肉とか魚をとってきて物々交換でやってました。父が生きていた頃からそんな感じでしたので」
田舎すごいで流してもらおう。そんな私の思惑とは違い彼らは別方向に気をもんでくれた。
「お父上が教会に預けたのは英断だ。下手に移動狩猟民や軍人になれば騙されまくるぞ」
「教会関係は帳簿社会ですからね。最終的にスカンピンになってもまともな縁組みを望めますし」
「私が父なら一人街中に出すのは怖い」
司祭たちはこそこそ話し合って結論を述べる。
「明日の朝、ニックを貸そう。お金のやり取りはニックに任せなさい。君は行きたい場所を述べて選んで真っ直ぐ帰るのだ。ニックを挟まずに買い物をしてはいけないぞ」
道案内や交渉人がいるのは助かるが世間知らずを街に放つなということらしいちょっと不満だがお説教を受けかねないので黙って頷いておく。
朝になったらニックの方が部屋まで来てくれるらしいし、彼の外出許可も出してくれる。お金はローゼン流派お小遣いをニックに預けるように言われたのでどうやらこれらだけが現地貨幣のようだ。お出掛けで気にしないといけないのは私のスケジュールをスペンサーに伝えるくらい。ローゼンおじさん達の部屋をでたら真っ直ぐスペンサーのいる司祭部屋をノックしにいく。何の部屋かは知らないがレーダーでは三人と会話中だ。
「すみません。スペンサー司祭いらっしゃいますか?」
「司祭は会議中ですがどのようなご用事でしょうか?」
ドアを開けると衝立の向こうから見習いらしき人物が応対にでてきた。多分向こうから聞き耳をたてているだろうから聞こえるように話しておく。
「明日の予定の変更です。滞在後半になると仕事が入るかもしれないので明日の午前中に土産を調達に参ります。ガイドしてくれる方も見つかったので昼御飯が終わる辺りには帰ってこれますからとお伝えください」
見習い君はお見合いスケジュールも知っているのか眉を寄せて衝立の向こうまでスペンサーを呼びにいく。伝言だけで良かったが向さんはそう易々と逃したくはないようだ。
「ハンナ司祭、お待たせして申し訳ない。土産を見に行くとの事ですが誰に案内を頼まれたので?あと、外出許可は?」
見習い君と同じように困った顔をしたスペンサーが現れた。スペンサーの思考を見ながら行くか、さとりんを使う。
ああ、新たな参戦者か探りたいのと見合い相手と過ごさせたいようだ。
「勉強会の参加者からお弟子さんを借ります。誰が来るかわかりませんが。私の外出許可ってどなたにとればよろしいので?」
スペンサーの中では部署取り込みではなく流派取り込みが起きているのではと勘繰り始めている。既にローゼン流派に訪問したことはわかっているのでそちらに対抗意識があった。おじさん達ごめん。
「そうでしたね。ハンナ司祭はまだゲストでした。帰りにまた入館許可がいるでしょうから後で届けましょう。その買い物ですが今日の面子もご一緒するのは無理ですか?」
流派刺客と二人きりにさせないために暗黒微笑かエタブリを連れていかせたいようだ。スペンサー本人は司祭様な仕事があるので急に休んで代わりを頼むことはできない。気まずい暗黒微笑と会話が続かないエタブリ、お買い物の仲間と思うと微妙だが邪魔ではないし職場見学を無しにできるかもしれない。構わないと答えると直ぐに見習い君に二人へ伝えてくるように追い出した。
「私はいけませんが彼らと楽しんできてください」
外出については昼までと言わず夕食までどうぞと景気のいいことを言われる。スペンサー一人相手にしないだけでも気楽です。