12日目 接触者
嫌味な司祭は全国魔獣対策室の室長だと名乗った。翻訳がいい仕事をし過ぎてファンタジーなのか否か怪しい響きを漂わせる。彼の仕事はアデン国内の魔獣情報を集めて国や領主に注意喚起することらしい。脳内をチェックしてみると主に全国の教会からの報告か職安の魔信盗聴などを元手に情報屋稼業をしているようで、たまにゾンビやダークエルフ誤報で敵対者を潰す簡単なお仕事だ。今回はガルド領でゾンビ発生の報について聞きに来たらしい。
「ガルドからはゾンビ発生が伝えられてからその後魔信が繋がらん。魔信の部署からは繋がらない理由は伏せられたが暫く君が情報のやり取りをすると聞いている。後で繋いでほしいがまずはわかっていることだけ話せ」
なかなかに上から目線だが室長さんはゾンビなんて便利な方便でしかなかったので焦っている。大量発生でガルドが壊滅していたら今まで防げていたのに何でだということになるのだ。からかってもいいが敵対するより入り込みたい。正直者なお馬鹿の設定な私は素直そうに答えてみることにした。
「最北村で発生したゾンビはローウィという魔獣のゾンビでした。ローウィは川を流されて来たらしく始点は川原です。川の上流は国境山脈がありましてその辺りが生息域になります。山脈向こうも同じような山でローウィの生息域でしたが内戦の影響か一気に禿山になり、国を越えて飽和状態になっているそうです。難民対策で駐留していた北軍が清掃中ですが、大量のローウィは上がれどゾンビはいません。軍の見解では国境ぎりぎりか隣国が発生源ということです。軍も教会も手出しできないという話ですね」
ホラ村の件はガルド大教会にもまだ届いていないか握りつぶされている。現在の情報であるローウィ発生源には近付けないし、管轄である隣国の教会に魔信を飛ばしても今はそれどころではないだろう。何よりアデン国は被害はあれども責任は微妙だ。
「ふむ。ガルド大教会はそれの情報操作はどうしている? 隣国側に発生源の偽装はしたのか?」
さらりと犯罪の話をふられた。教会にとって人のゾンビは醜聞だが獣のゾンビはただの厄介事らしい。軍が働いているのもあるかもしれないがやたら燃やしたがる訳でもないようで当たり前の工作なようだ。
「一応国境に向かうものは居ますが私より足は遅いので数日待たねばわかりません。村人は現地司祭により情報を漏らさぬようにしております。工作部隊が終息宣言をだす形になるでしょう」
工作どころかメヌールすら本村にはいないけれども。一応、室長の満足する答えだったようで教会や軍が新たに動けば報告するようにと言われた。
「しかし、君は通信だけではなく足も速いのだな。一週間もせずに辿り着く。本部に一人通信ができるものを置いて君を現地に送るのは便利そうだ。ガルドからこちらに転属しないか? 推薦してやろう」
ガルドの教会籍自体ないのだが食いついてくれたらしい。魔獣対策室はいまいちだが魔法管理に接触するにはどうしたものか。
「私もここだけの話、腰掛けでして。ある程度の功績で縁談を組んでもらう予定なのです」
「縁組みなら王都でも可能だ。君の希望は?」
「そうですね。私自身が在野の魔法使いの魔法を蓄えている身なので、補い合えるような教会魔法のエキスパートだと嬉しいです」
室長の頭の中では縁談で釣りつつも還俗する気のない司祭が何人か浮かんでいる。魔獣対策室は魔法エキスパートとは遠いようで他部署と共同で私を使おうと計算し始めた。
「何人か思い当たる。君がこの件を終えて転属したら話し合うといい。先に数人紹介するので気に入ったら告げるように」
室長は私の滞在中に何人か紹介して誰かが落としたらそこから呼び寄せるようだ。転属したら紹介するだとガルドから帰って来ないかもしれないため数日で恋人を作らせるつもりらしい。五日そこいらでべたべたするなんて色気のある神官はいるのだろうか? 逆ハニトラに期待しつつ、領主と脳内通信を繋ぎ室長の細かい質問の間に入る。三者通信は存在していないふりをしているので一つずつが長く退屈だ。やけに生々しい工作活動を話し合った。