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群雲を離れ往く

 さて、島田と銀を回収しに行きますかー。確かギルド会館だったな。

他の人の念話が聞こえるようになった事に関しては、嬉しい誤算ってやつかも。


「にゅふふふふふ、ぎーんちゃーん。うりうりーおっぱいこーげきー」


「やらけー。相変わらずいい乳してんなあ、はるちゃん」


 俺と志津子がギルド会館に着いたと同時に、島田が銀を連れて出てきた。

相変わらず首ったけだなー、お互いに。

つーか見てるこっちが恥ずかしいから乳繰り合う(いちゃつく)なよー。


「よう、白井夫妻。二年ぶりだな。シナ達は城の方か?」


「おう、色々と調査してたからなー。今頃、クラさん達に報告してるとこじゃねーかなー」


「調査って・・・ははは! 変わんねえなアイツ! むしろこうなる前より酷いんじゃね?」


「そぉやねぇ。お目覚めのテンションが、何時もの比やなかったもん」


「もう、級長の事はええやん。あたしだけ見ててやー、銀ちゃん?」


「こーら。リーダーをないがしろにしたらいかん」


「てひっ」


 いやしかし、本当に仲良いなーこいつら。まあ、俺と志津子も負けてないけどなー。


「銀はんって、いつ日本に帰ってきたん? 確か、海外赴任やったやん?」


「アプデの二時間前。帰ってきてすぐシャワー浴びて、ソッコーログインっすよ!」


「うーわ、スゲー奇跡的なタイミングだなー!」


 ・・・まあ、それでこんな事に巻き込まれたんじゃ、幸運なのか不運なのかわからんけど。


「愛の奇跡、だな」


「んもう、銀ちゃんったらぁ」


 ・・・うわー、素面でキザ台詞とか相変わらずにも程があるわー。


 ◆


「・・・ってなかんじで、見事テンプルサイドの〈冒険者〉のまとめ役に就任した、姫なのでしたー、まる」


「クシ先輩・・・なにやってるんですか、もう・・・」


 空を仰いで目頭を押さえるミサちん。


「ダルタス・・・だからあれほど相手をよく見ろと・・・」


 床を向いて額を押さえ、首を左右に振るりぜっち。


「はっはっはっ! 相も変わらず、気が短いね、クシさんは。出来ることなら、現場をリアルタイムで見たかったな。くくっ」


 クックックラさん大爆笑。

 調査結果の報告を聞いた幹部三人の反応はご覧の通り。

ちなみに、戦闘に関しては「どうせ訓練してきたんでしょ?」って言ったらクラさんとミサちんが揃って目を逸らしたから、間違いなくやったと踏んだ。


「そんで、どんな理由ウソ作って街を出たの? クラさん」


「あ、いえ、ミロードが何かしたのではなく。メンバーの一人から、友人が街を出てしまったらしい、という報告を受けまして」


「『貴方達だけで行かせて何かあってはいけませんし、私も行きましょう』とか言ってそのメンバーやら数人とミサちん連れて外に出て、そんで『序でに戦闘訓練もしておきましょう。戦闘系ギルドを名乗っている手前、“戦闘が出来ません”では名落ちどころではありませんからね』なんて言い訳して一汗かいてきたわけだ」


 僕の予想を聞いてぽかーんと口を開くりぜっち。

ミサちんを見遣れば苦笑い。

どうやら一言一句そのままらしい。


「流石は同類。よく分かってるじゃないか」


「そりゃまあ、晴秋くんとはリアルでも付き合い長いからねー」


「ここではアバター名で呼んでもらいたいな」


「羽音ちゃんと同じ事言ってるー」


 その名前を出した途端、りぜっちが再起動して詰め寄ってきた。


「師匠から連絡があったんですの?!」


「お、おう、まあね」


 羽音ちゃんはりぜっちにとっては敬愛すべき大先輩の一人だから、この反応は想定内。

のつもりだったけど、こんなに近付かれるとちょっとドキドキしちゃうぜ。

なんせリアルでもかなりの美少女だからね、りぜっちは。ソースはユタぼん。


「ミュッケさんの状況は、クシちゃんと大体一緒。今は〈ハマナの廃街〉にいて、金庫のアイテムを出したいから、〈転移石〉を持ってくるように頼まれてる」


 動揺してる僕に代わって、ひびきが羽音ちゃんの件を説明する。


「ミュッケさんも〈鷲獅子〉はお持ちでしょうに。何故わざわざ〈転移石〉を使うのですか?」


 それに対して浮かんだ疑問点を、ミサちんが質す。


「他にもハマナにプレイヤーさんがいて、その人達が欲しがってるみたい」


「さっき道すがら確認したところ、ハマナにいるプレイヤーは、ミュッケさん夫妻と、ミナミの小規模ギルド〈無仁世械〉(マシンワールド)の三十人、あと〈冷やし中華終わりました。〉っていう零細ギルドの六人の総勢三十八人だそうです」


 ひびきがミサちんの疑問に端的に答えると、なか邑ちゃんがそこに補足した。

てかいつの間に念話してたんだ?


「どうしてわざわざ・・・そのままアキバに移住すればいい話ではないですか」


 そこへすかさず、りぜっちが更なる疑問をぶつけると、なか邑ちゃんがもいっちょ補足。


「なんでも、『ハマナをシブヤと同じにする』と〈無仁世械〉のマスターさんが息巻いているらしくて」


「なにそれっ! そんなん僕聞いてないぞっ!」


「級長にそんなこと教えようものなら、ギルドの業務すっぽかして即行ハマナに来るだろうから黙ってたそうです」


「なんだよーっ、羽音ちゃんの意地悪ーっ!」


「シナ。報告す(かえ)るまでが調査えんそく、だよ?」


「ううーっ、そうだけどーっ!」


「ひびき先輩の言う通りです。貴方はギルドの幹部、しかもクシ先輩が居ない現在は第零のトップなのですから、その責務はきちんと果たして頂かないと困ります」


 ううーっ、なんか悪者みたいに扱われて、なーんかやな感じっ!

そーいうこと言うんなら、こっちにだって考えがあるもんねっ!


「報告は以上っ! んでは、僕は早速ハマナ行く準備しに行ってきますっ!」


 わざと足音を鳴らしながら、僕は大会議場を出る。

ひびきとなか邑ちゃんが、慌てて追いかけてくる。


「なか邑さん。話が有るので、残ってくれるかな」


 なか邑ちゃんが扉の前に差し掛かった時、クラさんが眼鏡を光らせつつ彼女を呼び止めた。


 ◆


 うう。早くも来たか、この時が。

やはり私がさやかだと気づいていたらしいお兄ちゃんが、その真偽を確かめようと呼び止めてきた。

怪訝な顔でお兄ちゃんを見やる三佐さんささんとリーゼさん。


「あ、そうそう。クラさん、僕、ギルド抜けるから。正確にはトッカンジャー全員だけど。じゃあね」


 二人が言葉を発する前に、先生が爆弾発言をして去っていった。

ってちょっと待ってちょっと待ってお兄さん!


「んなっ!? 何を突然っ?!」


「ちょっ、話が違いますっ! 待って下さいシナ先輩っ!」


 するとやはり、三羽烏が二人とも先生に食い付いて大会議場を出ていった。


「・・・ふむ。此方を気遣っての狂言か、はたまた本意か。どちらにせよ、二人きりにしてくれたことはありがたいね」


 先生の意図を汲んで、ぽつりと感謝の意を呟くお兄ちゃん。


「残してしまって、済まないね」


「構わんよ」


「・・・やはり、さやかなんですね」


「・・・うん」


 どんな確認の仕方だよ。

いくら私がお笑い大好きっ子だからって、そういう方法ネタを使わんでも。

まあ、ノっちゃう私も私なんだけどさ。


「何時から、プレイしていたのですか?」


「二年ちょい前から。ほら、前にお兄ちゃんちに忍び込んでシスコン発言捏造したことあったじゃない?」


「有りましたね。あの後日、私も根掘り葉掘り聴取されましたよ」


「それについては、ごめんなさい。で、その時にさ。この人達と一緒にゲーム出来たら、すごく楽しいんだろうなあって思って」


「それで級長、っていうかシナ先生に、色々と叩き上げてもらって三ヶ月でレベルキャップまで上げて、ギルド入って更に頑張って、二ヶ月で教導部隊卒業して、三佐さんに認められて戦域哨戒班に入れてもらって」


「それからはホンット楽しくて。零師団の人達がお前ら日本人だろが! ってくらいラテンのノリだったり、レイドの最中に別パーティーのメンバーが回線落ちしたの見たクシさんが、テンパって自分のパーティーと右往左往しながらサポートしてたり」


「もうホント色々楽しくて、こんなに面白いゲームの存在に気づかなかった自分が情けないなあとか思ってみたり。色々あったなあ」


 今まであったことを思い出して、思わずまくし立てる。

うーむ、結局何を言おうとしたんだっけ? まあ、いっか。


「成る程、シナくんが一枚噛んでいたのですか。道理で今まで気付けなかったわけだ」


「えっ、先生って隠し事とか得意なの?」


「ええ。あの調子からは想像出来ないほど、話術にも長けているのですよ」


「・・・あー、確かに」


 よくよく思い返してみれば、先生は教え方が凄い上手だ。

リアルの勉強のことも、〈エルダー・テイル〉のあれやこれやも、先生に教わった内容は全部鮮明に思い出せた。

逆に、私が答えにたどり着くまでは、まともなヒントが来ない鬼畜スパルタ教育な一面があることも。


「・・・お兄ちゃん、私ね?」


「うん?」


 しばらくの沈黙のあと。

私は、今の自らの思いを打ち明ける。


「私、先生達に、付いていこうと思ってるの」


 目を見開き、息を呑むお兄ちゃん。

私は構わず、言葉を続ける。


「このままあの人達を送り出したりしたら、三佐さんに頼まれた事を途中で放り出すみたいで、イヤだから」


「・・・そう、ですか」


 理由を聞いたお兄ちゃんは、少しだけ寂しそうに笑いながら、


「一度決めた事は、面倒でも貫き通そうとするところは、こんな状況下でも変わりませんか」


 私の性格を思い返した。


「こんな状況だからこそ、だよ。それに、先生は新しい発見があっても絶対連絡なんてしないし。私がそこら辺をコントロールしないと、お兄ちゃん退屈しちゃうでしょ?」


「成る程。そういう事であれば、是非もない。私からもお願いするよ」


「うん。任せて!」


 ◆


「シナ先輩、待ってくださいっ!」


「抜けるってどういう事ですのっ?! 説明してくださいっ!」


 シナの唐突なギルド脱退宣言に憤慨し、あるいは困惑して、三佐とリーゼちゃんが私達を追いすがる。


「ん? 言葉通りの意味だよ?」


「何故唐突に抜けようと思い立ったんですかっ?!」


「唐突じゃないよ? 二年前から決めてた事だし」


「そんなのは屁理屈ですわっ! だって、私達はついさっき初めて知りましたものっ!」


「リーゼさんの言う通りですっ! だいたい、出掛けに約束したばかりではないですかっ!」


「ちゃんと調査報告しに戻ってきたでしょ? ってことは、その約束は果たされました! になります」


「くっ・・・ああ言えばこう言うっ! どうしてもというなら、せめて理由を話して下さいっ!」


 三佐が、今にも耳尻尾が飛び出しそうな勢いでシナに食って掛かる。


「よしよしどうどう、話してあげるから深呼吸しましょうねー山ちゃん?」


「私をそう呼んでいいのはクシ先輩だけです! ・・・ふー。それで? つまらない理由だったら、承知しませんよ?」


 深呼吸して気持ちを落ち着けた三佐は、シナに改めて脱退の理由を問う。


「自分のギルドを立ち上げたくなったんだ。色んな新しい事に挑戦し続ける、いうなれば“冒険ギルド”ってやつをね。でも、ギルドに所属してたら、それは出来ない事だから。二年前から色々準備してて、今回のアップデートが終わったら、先行調査に行くフリしてギルドを抜ける算段だったんだ」


「そしたら、こんなことになっちゃったでしょ? これで僕らがいなくなった、なんてなったら、いくらクラさんでも流石に困るだろうと思ったので、最低限のケジメを着けてから抜ける事にしたのです。お分かり?」


 理由を聞いて、しばらく黙っていたリーゼちゃんが口を開いた。


「・・・止めても無駄、ですわよね。ならば、ひとつだけお願いがあります。月に一度は、連絡を頂くか顔を出して頂くか、どちらかをなさってくださいな」


 言われてすぐに、シナが渋い顔になる。

ああ、やっぱり報連相は無しのつもりだったんだね。

だがしかし。


「大丈夫。分かった事があったら、なるべく報告するようにするから」


 私がそう言った瞬間、


「ひびき。そういうのは」


 シナが駄目だと言おうとして、


「私がしますから、ひびきさんは級長のお守りしててください」


 いつの間にか追いついてきたなか邑(さやか)ちゃんが、シナを遮って報告係を進言した。

ついでに、私をシナのお守り役に指名しつつ。


「な、なか邑さん。なにも、そこまで責任を背負い込まなくても」


 なか邑ちゃんの突然の申し出に困惑して、彼女の言葉に待ったを掛ける三佐。


「いーえっ。私がやらなきゃ、ぜぇーったい級長は『情報流すなー!』ってなりますから。さすがのひびきさんでも、級長に頑なに『駄目っ!』って言われたら従っちゃうだろうし。これはやっぱり、私の役目なんです! なんたって私、級長のお目付け役なんですからっ!」


 堂々と胸を張って宣言したなか邑ちゃんに圧倒されて、思わず頷き返す三佐とリーゼちゃん。

うん、私もそれがいいと思う・・・うん? つまり。


「あれ?! さやちゃん、クラさんに〈D.D.D〉(ギルド)辞めるって言ってきたの?!」 


 シナがビックリして、なか邑ちゃんの発言の真意を問い質す。


「っっったりまえだこのお馬鹿小僧がッ!」


「あいっ! とぅいまてんっ!」


 それに反応してカッとなったなか邑ちゃんが、犬耳尻尾を生やしながらブチキレる。

心なしか、威嚇するように喉を鳴らしている音が聴こえた、気がした。

ビビったシナは、敬礼と共に謝罪した。

相変わらず、可愛い後輩に弱いなあ、シナは。

そういう変なとこまで、何故だかクシちゃんそっくりなんだよなあ。

む、というか。


「さや」


「ちゃん?」


 案の定、シナのなか邑ちゃんの呼び方に首を傾げる三佐とリーゼちゃん。


「あ、うん。今まで黙ってたけど、なか邑ちゃんはクラさんの義妹であらせられるさやかおぜうさんなのですよ」


 シナの補足に、驚愕の表情を浮かべる二人。


「・・・え、つまり、シスコン発言を捏造した、あの、さやかさんですの?」


「そうですよ」


「えと、あの、ミロードの、義妹というのは」


「彼の叔母さんの娘、つまり正確には従妹です」


「なるほど、親戚という事でしたら、まあ、義妹と言えなくもありませんわね。ですが、それならば、なか邑さんがさやかさんであることも存じていたのでは?」


「それに気付いたのは、級長達と調査に向かう直前、つまり呼び出された私が大会議場に来た時だったみたいですよ。それまでは級長の巧みな隠蔽術に引っ掛かってたって言ってましたし」


「・・・なるほど、確かに。シナ先輩は口が達者ですからね、主に悪戯方面で」


 お、さすが三佐。

伊達に付き合い長くないね。


「つーわけで、そろそろギルド会館行くから。ミサちんとりぜっちは城に戻ってクラさんいびりに勤しんで下さい」


「言われなくともする気満々ですからご安心を。それで、何時アキバを発つのですか? 出来れば見送りをしたいのですが」


「今からだと夜中になっちゃうから、明日の朝かな。えっ、なに、餞別にミサちんとりぜっちがWほっぺちゅーを」


「「しませんっ!!」」


「えー」


「はいはいつまんない事を期待してる暇があるならさっさとやること済ませちゃいましょうねー」


「あーれー」


 なか邑ちゃんに首根っこを掴まれ、両腕両脚をぴーんと張ったまま引き摺られていくシナ。

♪シナシナシ~ナ~シ~ナ~

なんちゃって。


「三佐」


 彼等と同じ方向に数歩進んで振り返る。

ギルドキャッスルに向かって歩き始めた三佐が、同じく振り返った。


「なんですか、ひびき先輩」


「クシちゃんには、今日中に念話を掛けてあげてね」


「はい。そのつもりです。とはいえ、流石にクシ先輩の状況をシナ先輩から聞いた、と言うのはよろしくないですよね」


「ダルタスくんから聞いたって事にしとけば?」


「ああ、その手がありま、っと。噂をすれば、そのダルタスから念話が来ました」


 念話に出た三佐は、もういつもの調子に戻っていた。

うん、あれなら大丈夫だな。

そう判断して、私はシナ達を駆け足で追いかけた。


「さやちゃん、なんでさっき『従妹だ』なんて嘘ついたの?」


「ウチが『アレ』な家なのは先生も知ってるでしょ? それをそのまま教えるのは憚られますって」


「・・・だね。さやちゃんもクラさんも妾の子供だなんて、おいそれと言うわけにはいかんよね」


「なんというフクザツな家庭環境」


「嫡男殿が家督継承を放棄しなければ、お兄ちゃんはあそこまで拗れてなかっただろうになあ。お兄ちゃん可哀想」


「「思考回路が?」」


「特に否定材料がない・・・」

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