追い風来たり
シナくん視点。
町を出た僕らは、早速それぞれが持つ召喚笛を
「あれ? 帰りは調査無しなんですか?」
吹く前に、なか邑ちゃんから質問。
「えーやだやー早く帰ろうやー調査なんかしてたら日が暮れちゃうやー」
おお、僕が言おうとした事を島田が代弁してくれた。
つっても、理由はもういっこあるんだけどね。
「それに。クラスティくんの事だから、なにかと理由をこじつけてフィールド調査に出てそうだし」
あらま、今度はひびきに言われちゃった。
「あー、ですよねー。なんせああいう人ですもんねー」
納得して〈鷲獅子〉の召喚笛を取りだしたなか邑ちゃんは、早速吹き鳴らして〈鷲獅子〉を呼び出す。
「あ、そういえば。先生と島田さんが持ってる召喚笛って、〈鷲獅子〉じゃないですよね? どこで取って来たんですか?」
再びなか邑ちゃんから質問。
今度は僕と島田の召喚笛について。
「これは三年前に北欧サーバーで取ってきた〈風王巨禽〉の召喚笛だよ。〈茶会〉のオーロラ鑑賞旅行に無理矢理付いてったついでに取ったんだー」
「えっ、うそ、先生って〈茶会〉と仲良かったんですか?!」
「うん。結成の翌日に出会ってすぐに仲良くなったんだ」
「リーダーだったカナミちゃんと思考回路が一緒だからなー」
「あたしのは、北米サーバーに、行って、取ってきた・・・〈雷精巨禽〉の、召喚笛・・・ぐすっ」
「あ、あれ!? なんで? いや、なんか、ごめんなさい!」
・・・あ。あー、思い出しちゃったか。
島田には彼氏がいる。
そいつは〈D.D.D〉に在籍し、かつトッカンジャーのメンバーだったアルジェント、通称“銀”っていう狼牙族の〈格闘家〉。
島田が持ってる〈雷精巨禽〉の召喚笛は、彼と共に取りに行った思い出の品なのである。
二年前、リアルで海外赴任に就く事になり、〈D.D.D〉を脱退したうえで〈エルダー・テイル〉を休止した。
なので、今は現実世界にいるわけ・・・で?
「・・・島田、フレリス見てみ?」
「うぇう? にゃんれ?」
涙で言語バランスがおかしくなってる島田に、フレリスを見るように促す。
すすり泣きながらフレリスを眺めていた島田は、
「あ、耳と尻尾が立った」
耳尻尾をぴーんと立たせると、即座に念話を掛ける。
勿論、銀に。
「銀ちゃんっ!」
『あ、おお、はるちゃ』
「もうっ! いたならいたでなんでそっこー念話してくれんっけだっ?!」
『悪い、いろいろバタバタしてて』
「知らすかやーっ! 真っ先に念話ちょーだいやーっ!」
『はい、すんません』
「うー・・・まあ、これくらいでええにしといてやるだよ。ほいで、今どこ?」
『ギルド会館。城に行ったんだけど、メンバー以外入退室禁止になってたから、とりあえずな』
「うん、分かったっ! すぐ行くで、待っててやっ!」
念話を切った島田はすぐに召喚笛を吹き、〈雷精巨禽〉を呼び出す。
「ワッキンっ! アキバまで全速力っ!」
背に乗った島田の声に応えるようにひと鳴きすると、〈雷精巨禽〉通称“ワッキン”は数度羽ばたいて地上を離れ、物凄いスピードで飛び去った。
「速っ!? あれ絶対〈鷲獅子〉より速いですよね?!」
しばらく自分の〈鷲獅子〉と一緒にぽかーんと見ていたなか邑ちゃんが戻ってきたところで、僕達もそれぞれの召喚笛を吹き鳴らす。
「だなー。確か、西海岸の端っこから召喚回数目一杯使ってビッグアップルまで一日で行けるんだったか」
「〈鷲獅子〉やと三日かかる距離なんよ?」
「三倍速騎乗生物って言われてるんだよな。黄色だけど」
「・・・乗ってて恐くないんですかね?」
「島田は、単車乗りでスピード狂だから。平気どころかテンションアゲアゲだよ」
「・・・あ。そういえば、ハヤブサ乗ってるんでしたね、島田さん」
雑談しながら騎乗生物に乗り、一路アキバへと飛び立った僕ら。
しばらくすると、僕の耳に念話申請のベルが響く。
「うゎい」
『やあ、級長津彦。壮健にしていたかい?』
「おー、羽音ちゃんおひさー」
『それは魂名であろうが。此処では魄名---即ち、ミュッケ=ニュルンベルク。そう呼べと何度言えば従うのだ、貴様は』
相手の名前は諌森羽音。じゃなかった、ミュッケ=ニュルンベルク。
ほわいの実の姉ちゃんで、厨二ロールでTRPGフリークな真性廃人である。三十二歳、配偶者あり。
ついでに言うと、β世代で元三羽烏かつ教導部隊を組織して部隊長を長年務めていたキャリアウーマンでもある。
さらについでに言うと、この姉とその弟は日本人とドイツ人のハーフ。アバター名がドイツ語な理由はそれ。のはず。
『さて。斯様な些末な事情にかまける暇は皆無。問うが、手持ちの〈転移石〉は幾つだ?』
「うん? 手持ちはないけど、二百個ぐらいは金庫にストックしてるよ?」
〈転移石〉。
まあ言うなれば簡易版トランスポートゲート。
ある二つの街を行き来するためのアイテムで、大抵のプレイヤーがフォーランド手前の唯一の拠点〈ペイリオロードの街〉と各プレイヤータウンを繋ぐものと認識している。
『重畳。其を持ち、急ぎ〈ハマナの廃街〉まで参ぜよ』
「ハマナ? なんでそんなとこに?」
『私を始め、他の結社の面子も其処に屯している。恐らくは、壊れたタウンゲートや大神殿跡が、此度に限り機能を取り戻したが故に、我々が此の地に囚われる羽目に為ったものと思われる』
『ついては、正規のプレイヤータウンのギルド会館より、預けてあるアイテムを移管したい。其には、〈転移石〉が必要不可欠となる』
『此方のプレイヤー総数は約四十。貴様が持つ〈転移石〉が有れば、全員が二往復出来る計算になる。頼むぞ、級長津彦』
「うん、まあ、いいけど」
『何か腑に落ちぬ事でも有るのか?』
「いや、厨二ロールしんどくないのかなーって」
『・・・幼女が張り付いていてな。仮面を外すと大仰に愚図るのだ』
「相変わらず子供苦手なんだね、はのュッケちゃん」
『・・・もうよい。呼ばれなれてしまっているし、羽音で構わん』
ちなみに、羽音ちゃんの旦那さんも〈エルダー・テイル〉のプレイヤーで・・・えーと、名前なんだっけなあ?
『・・・む。どうかしたのか? スティング』
あーそうそう、スティングだ、スティング=レイ。リアルの名前が叡次だったかな。
つか一緒だったのね。
『・・・ふむ、そうか、有難う』
向こうで何かあったらしく、そこで念話が切れた。
「ミュッケさん、ハマナにいるんだ」
一緒に〈風王巨禽〉に乗るひびきが呟いた。
「うん。金庫のアイテム出したいから〈転移石〉持ってきてって頼まれた」
「そっか。それじゃ、急いで持ってってあげないとね」
アキバに到着した僕らは、ギルドへの報告組と島田・銀の回収組とに分かれて行動を開始した。
次回は視点がコロコロ切り替わりますです。