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渦巻き吹き抜け

今回もひびき視点。

 テンプルサイドに入ると、あまり好意的じゃない視線が私達に向けられた。

〈大地人〉さん達のどこか怯えたような態度から、彼らの視線だって事は一目瞭然。


「なにか、あったんですかね?」


「ここにいる〈冒険者〉が暴れてる、とか」


 周りの〈大地人〉さんを眺めながら、私達は街の駅前広場へと歩を進める。


「みんな隠れろっ!」


 到着まで十数メートルのところで、急にシナから指示が飛んできた。


「いきなりどーした?」


「いいから早くっ!」


 緊迫した言動とは裏腹に、その目はキラキラ輝いていた。

シナの視線を追うと、私達の反対から歩いてくる四人組が見えた。

一人は執事さん。見た事がないから、多分あの三人のうちの誰かが雇った〈大地人〉さんだろう。

一人はいかにも〈格闘家〉な服装の好青年。多分、隣を歩く少女のお兄さんか・・・ん?

・・・あの子、ヤエちゃんだ。また新キャラ作ったんだ。じゃあ、あのお兄さんは前にお店に連れてきた彼氏さんかな。

そして、その三人の前に歩み出たのは、シナの反応からして間違いなく。


「姫が来たからっ! 早く隠れろっ!」


 元〈D.D.D〉副総長にして、第零レイド師団の師団長であり、三羽烏の長女であった、姉御肌な天然娘。

人呼んで“突貫黒巫女”、櫛八玉その人だ。


「隠れなくてもいいじゃないですか」


「ダメだよ、アレの仲裁押し付けられちゃうし」


 クシちゃん達より少し手前、街の駅前広場で〈冒険者〉が集まり何やら口論中。

まあ、実際に言い争っているのは真ん中の〈守護戦士〉の男の子と〈吟遊詩人〉の女の子だけみたいだけど。


「よしっ! そんじゃ、行ってくるっ!」


 いつの間にやら鞄から取り出した〈天狗の隠れ蓑〉を装備したシナは、クシちゃんの元へと駆けていった、多分。

そんなシナの挙動を見て、他のみんなも苦笑い。


「あー、いつものアレかー」


「級長もよぉやるなぁ」


「アレ、どう見てもストーカーですよね・・・?」


「あまりにもいつもの事過ぎるで、くっしーもちょっと過激なスキンシップとしか思ってねーらしいで?」


「されてる側にも問題あり、ですね・・・ところで」


 話しながら鞄を漁っていたなか邑ちゃんが、ニヤニヤしながらあるアイテムをおもむろに取り出した。


「私達も、出歯亀しちゃいます?」


「あらぁ、なか邑ちゃんも好きやなぁ。うちもやけど」


「当然」


「行くに決まってるら?」


「まー、持ってきたからには、使わなきゃなー?」


 続けざまに〈天狗の隠れ蓑〉を出した私達は、すぐに装備してシナの後を追う。


「ではではみなさん、そこで凹んでるきっつい目をしたお姉さんのおうちに案内するから、ついてきてねー?」


 騒ぎが鎮静化して、元凶の〈守護戦士〉の子がそこにいた他の〈冒険者〉に一通り謝り終えたあと。

ヤエちゃんの号令に従って、全員がぞろぞろと、町外れに向かって歩いていく。


「はあ・・・またやっちゃった」


 仲裁に入ったつもりがむしろあの場にいた全員を怯えさせる結果を生んだクシちゃんは、その場にしゃがみこんで反省している。


「なんで私はこんな喧嘩っ早いかねえ・・・」


「まあまあいいじゃんか。僕としては、姫がいつも通りで安心したよ?」


 いつの間にか〈天狗の隠れ蓑〉を脱いだシナが、クシちゃんの頭を撫でて慰める。


「・・・・・・は?」


 聞き慣れた、しかしアキバにいるものと思っていた人物の声に耳を疑い、恐る恐るといった感じに振り返るクシちゃん。


「うえっ?! ちょっ、なんでシナくんがここにいるの?!」


「姫がここにいると知ってすっ飛んできましたっ!!」


 驚いきながら問い質すクシちゃんに、敬礼しながら答えるシナ。


「は? どうや・・・って、あーアレか、例のバレンタインのやつか」


「他に方法はないっ!!」


「威張って言うことじゃない! ていうか、私の安否確認なら念話って手があるでしょ! わざわざ来なくても!」


「だってっ!! 直接この目で無事か確かめたかったんだもんっ!!」


「だ、だからって、フィールドに出たらモンスターと戦わないとだし、それで死なれたりしたら、そんなの寝覚めが悪いでしょ?!」


「大丈夫ですよ。級長の一人歩きなんか、うちの班長が許さないんで」


「えっ、なか邑ちゃん?」


 〈天狗の隠れ蓑〉を取って二人の口論に割って入るなか邑ちゃん。

それを合図に、みんなも装備を解除して姿を見せる。


「それに、私達も付いてきてたから」


「あ、トッカンジャー勢揃いだったんだ。それならここに来るのもそんなに難しくはない、のかな?」


 クシちゃんが落ち着きを取り戻してきたのとほぼ同時に、町外れに向かっていたヤエちゃんが駅前広場に戻ってきた。


「クシー、なに騒いで、おおっ! トッカンジャーになか邑ちゃんじゃない! 何しに来たの?」


「クシさんの安否確認と銘打ったフィールド調査です」


「シナくんのワクテカに付き合わされたわけだ。相変わらず大変だねえ」


「ヤエ、彼らも知り合いですか?」


 ヤエちゃんの後ろからついてきた、礼儀正しそうな〈格闘家〉のお兄さんが、私達の素性をヤエちゃんに確認する。


「うん、そだよ。ちなみに、そこのクシそっくりの人は」


「級長津彦っていいますっ! 櫛八玉の弟ですっ!」


「なるほど、どうりで」


「いや、違いますからね? ユウタさん。シナくんはナチュラルに嘘つかない!」


 私達が互いに自己紹介をしていると、こっちが気になって戻ってきたらしい、執事さん率いる〈冒険者〉達もやって来た。


「あっ! 級長じゃないっスか! それにトッカンジャーの皆さんも!」


 その集団の中から真っ先に駆け寄ってきたのは、さっきクシちゃんに凄まれて青くなってた〈守護戦士〉の男の子、〈D.D.D〉教導部隊の訓練生であるダルタス。


「よー、ダル太」


「ダルたんって、ここらで特訓してただか」


「ええ、まあ。あの森の中なら結構稼げたんで」


「ちょっとー、私を無視しないでよね?」


「あっ! すまん、なか邑ちゃん!」


 彼はなか邑ちゃんが指導している訓練生の中でも、特に彼女と仲がいい。

あまりに息ぴったりな掛け合いを繰り広げるせいで、他の訓練生に「こいつらゲーム内恋愛し(つきあっ)てんじゃね?」と囁かれる程度には。


「おうおうダルタスくん、愛しのなか邑ちゃんと再会早々イチャイチャタイムですかあ?」


「ちょっ!? イチャイチャって!? 別に付き合ってたりとかはしてねぇっスよ!?」


「そ、そうですよ! もう、級長ったらすぐからかうんだから!」


 ちなみに、そういう風潮を作り出していたのは、主にシナである。

それを“ざ・らいとすたっふ”やクラスティくんが煽るのが通例になっていた。

・・・そういえば、クラスティくんはなか邑ちゃんが妹さん(さやか)だって気付いたみたいだけど。

ちょっとぐらいは後悔なり反省なりしてるかな?

してるといいなー。

という、希望的観測。


「・・・ていうか、きみ達、何時からここにいたのさ?」


 しばらく静観していたクシちゃんが、素朴な疑問をぶつけてきた。


「「「「「「これご両人、のあたりから」」」」」」


「最初からじゃーんっ!?」


 声を揃えて返ってきた言葉に、頭を抱えて絶叫するクシちゃん。

うん、相変わらずいいリアクション。


「ん、ナイスタイミングだね、りせちー。丁度テンプルサイドにいるよ」


 その時、シナがリーゼちゃんからの念話を受けたらしく、空を眺めながら話し始めた。


「まずは朗報。ダルタスはテンプルサイドにいたよ。もちろん姫もね。んでさ、ダルタスのやつ、姫の事知らなかったみたいでさあ、ケンカ売っちゃったんだよねえ。その時の姫の言動は余すことなく記録してあるし、帰ってから報告するよ。んじゃねー」


 半ば一方的に話を進めて念話を終わらせたシナ。

そんな彼の方を、ゆらりと振り返るお姉さんあり。


「・・・シナくん。今の、どういう意味かな?」


 “余すことなく記録”という部分に反応したのだろう、あからさまに怒り状態(バーニングフォーム)なクシちゃんが、低い声で質問した。


「決まってんじゃん。さっきの姫のお言葉、全部メモったって事だよっ!」


 対するシナは、クシちゃんの新たな黒歴史しんわを記録出来たからこその清々しい表情(シャイニングフォーム)でそう答えた。

すると。


「よし。そのメモ帳、今すぐ私に寄越しなさい」


 声色はそのままで、シナにメモ帳を渡すように要求するクシちゃん。


「やだ。これは報告に使うものだし。あとメモ帳じゃなくて“櫛八玉観察日記”だから」


「そんなことはどうでもいいからっ! それを私に寄越しなさいっ!」


943(くしさん)は最高ですがこればっかりは譲れませんっ!」


「四の五の言わずにっ! 寄越せったら、寄越せーっ!」


 メモ帳もとい“櫛八玉観察日記”を奪い取らんと、クシちゃんがシナに飛びかかった。

ひらりとかわして不敵に笑うと、シナは勢いよく走り出した。


「アハハハ、捕まえてごらーん!」


「ウフフフ、待て待てー! ってそんなノリじゃないだろがーっ!!」


 などと供述しており以下省略。

クシちゃんは思ったより怒っていないらしい。


「やれやれ、やっと元気になったか。まったく、クシもあれで存外淋しがり屋だから困るわ」


「だよね。シナの彼女になればいいのに」


「むしろ結婚しちゃえばいいと思うの」


「ですね。あれはどう見てもバカップルのムーヴですし」


 シナとクシちゃんのおいかけっこを眺めていた他の〈冒険者〉のみんなは、


「櫛八玉さんって、案外普通の子なんだねえ。ゲーム歴長いだの幻想級だの言ってたから、かなりプライドが高い子なのかと思ったけど」


「まあ、なんだかんだ言っても、結局はどこにでもいるゲーム好きな女の子、なんでしょうね」


「怖いお姉さんがそっくりさんとキャッキャウフフなのです!」


「怖いどころかオチャメでカワイイお姉さんだったのです!」


「・・・あの級長津彦って人、知ってるわ。確か“黒巫女の猛犬”(クシ・フーリン)とか呼ばれてる〈D.D.D〉の幹部クラスのプレイヤーだ」


「あー。〈D.D.D〉の三大ハイエンド困ったちゃんの一角だっけ」


「あ、思い出した。あの人、前に参加した〈D.D.D〉主催のレイド講座をしてた“竜巻僧侶”(バギクロス)さんだ」


「俺もそれ参加した事あるわ。動き方とか教えるの上手くてめっちゃやりやすかったなあ」


「俺が聞いた話じゃ、PvPで“荒法師”って呼ばれてる凄腕〈神祇官〉・・・だった気がする」


「おお、それ知ってる。“狂戦士”以降では唯一の“人喰い虎”を下した猛者だろ?」


 などなど、クシちゃんへの評価を上方?修正したり、シナの事をあれこれと話したりしている。

シナには結構たくさんの二つ名がある。彼らの話にあったものは、その中でも特に有名な三つだ。

他にも、〈ハイテンション番長〉とか〈残念弁慶〉とも呼ばれてる。

ちなみに、その三大ハイエンド困ったちゃんのうち一人はそこにいるヤエちゃんだったりしますよ、お兄さん方。


「さーて皆さん。我らがまとめ役も元気になったことだし、改めて、屋敷に向かいますか?」


 そう言って、クシちゃんの襟首をひっつかんだヤエちゃんは、そのままクシちゃんをズルズル引きずって町外れへと歩いていく。


「あっ、こら、ヤエ、離せ、私にはシナくんからメモ帳を奪うという重要な仕事がだなっ」


「はいはいイチャイチャタイムは終わりにしましょーねー?」


「ちょっ、誰がイチャイチャとかっ、あーもー、離せったらーっ!」


「お騒がせしました。では、また」


 そんな彼女達に続いて、他の〈冒険者〉達も移動を始めた。

満足げな表情アルティメットフォームで彼女達を見送ると、シナはくるりと踵を返し、


「さてさてさーて。ほいじゃ、僕らもアキバに帰るとしますか」


 〈風王巨禽〉(フレースヴェルク)の召喚笛を取りだしながら、反対の町外れに向かって歩き出した。

クシさんを暴れさせようと思ったらシナくんの方がよっぽど荒れ狂っていた件。

まあ、シナくんだからしょうがないよね(現実逃避

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