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流れ着かば・Ⅱ

「シナ先生~・・・」


 ギルド会館での出発準備中、なか邑ちゃんがすがるように僕を呼んだ。

彼女が僕を“先生”と呼んだのは、僕が彼女の家庭教師をしていたからである。


「んー? どしたー?」


「・・・気付かれました、よね?」


「だろうねー。君が顔出したら、一瞬だけ困った顔になってたし」


「う~わっ、最っ悪っ・・・こんなぬるっとバラすつもりじゃなかったのに~・・・」


 僕の返答を聞いて、声のトーンを盛大に落として項垂れるなか邑ちゃん。


「まあ、しょんないこんじゃねーだ? 顔はリアルのまんまだし、流石に妹の顔が分からん訳ねーだし」


「ですよね~・・・」


「多分あいつ、なか邑ちゃんが正体切り出したら『おや、そうだったのですか? 全く気付きませんでしたよ』とかニヤニヤしながら返すだろうなー」


「クラはんはいぢわるやからなぁ」


「ぐぬぬ・・・」


 なか邑ちゃんは実を言うと、我らがギルマス・クラスティの実妹である“さやか”ちゃんなのだ。

この件を知ってるギルドのメンバーは、僕らトッカンジャーだけ。

ふとした拍子に情報を漏洩(ネタバレ)してしまううっかりさんな姫やミサちんにりせちー、口が固そうな古参メンバーから末端の教導部隊員くんれんせいに至るまで、「なか邑=クラスティ妹・さやか」である事を知る者はいない。

もっとも、今まで誰にもバレなかったのは、ひとえになか邑ちゃんの猫三枚被りのおかげなのだろう、とは思う。

心理誘導技術が高いとこは、案外クラさんに似通ってたりするんだよなあ、この子は。


「なあ級長、街を出る前に〈ダイ・タワー〉寄ってってもいいか?」


「あ、うちも行きたいわぁ」


 ギルド会館を出てすぐに、ほわい夫妻が進路変更を要求してくる。


「あー、そろそろ鎧の耐久値がヤバいって言ってたな。おっけー」


「〈ダイ・タワー〉・・・どこですか? それ」


 了承した直後、今度はなか邑ちゃんが疑問符を浮かべた。

するとやはりというか、すかさずひびきが説明を始める。


「〈変人窟〉の正式名。あそこを仕切ってる〈エキセントリック〉ってギルドの名前から取って、〈変人窟〉って呼ばれてるの。間借りしてるギルドが、ことごとく偏屈だらけってのも、そう呼ばれてる理由のひとつだけど」


「そうなんだー、知らなかったなあ」


 生産系三大ギルドが共同経営する生産ギルド街こと〈商業会館〉の脇に聳え立つ高層ビル〈ダイ・タワー〉、通称〈変人窟〉。

そこをテナントビルとして経営する偏屈ギルド〈エキセントリック〉を始めとした、変わり種の小規模商業系ギルドが集まる、偏屈の偏屈による偏屈達の為のホームベースである。


「うーん・・・でも、そこの人達も今は混乱してて、武具の修理どころじゃないんじゃないかなあ」


 納得したなか邑ちゃんが、至極もっともな意見を出してきた。


「ノムさんはいつも通りな気がするけどなー」


「ひよりんも、まんまやろなぁ」


「・・・つか、誰も彼もが変な方向に熱暴走オーバーヒートしてるらなあ」


「逆に燃えてきたーってやつだなっ! まるで僕みたいだっ!」


「あ」


 そうこうしているうちにたどり着いた〈ダイ・タワー〉の最上階から、何かが自由落下してくる。

地面を揺らしながら降り立ったそいつが、僕に向かって言い放った。


「会いたかったぜ少年・・・お前もそう思うだろ?」


 金で縁取りされた真っ黒い服を着た、〈法儀族〉のおっさん。

その名は、“エトノヤマハシ”。

ここ〈変人窟〉のオーナーにして〈エキセントリック〉のギルドマスター。


「ぎゃー! 追いかけっこは勘弁してやー!」


 オーバーリアクションな島田をスルーして、僕は来訪目的を告げる。


「エトさんおっすー。他のギルドの人達って大丈夫? ちょっと鎧の修理頼みたいんだけど。主にほわい夫妻が」


「落ち着きすぎだら?!」


「シナの場合、むしろ興奮が一周回って、逆に落ち着いてる感じ。いわゆる賢者タイム」


「おうおう。この状況に動じてねえとは、流石は〈D.D.D〉随一のド級廃人(トップランナー)だなあ、シナ公」


「それほどでもないよー。つーかそれ、神域廃人ベータせだいで心理学者な五十路のおっさんには言われたくないなあ」


「ゲーム廃人な心理学者とかやべーら!?」


「さて、俺らはさっさとノムさんとこ行くか」


「そやなぁ」


 はしゃぐ僕らを華麗にスルーして、ほわい夫妻は〈変人窟〉に入っていく。


「あっ! なーなーエトさん、オルテ姉元気にしてる? 最近復帰して〈エキセントリック〉入ったって聞いたんだけど」


「おう、元気だぜー? 今は他のギルドの娘らと仲良くお喋りしてるとこだ」


 おー、やっぱりかー。うちのかしまし娘といい、女は強いなー。

・・・まあ、〈変人窟〉(ここ)の女性陣はリアルじゃ色々とピリピリした世界の住人らしいし、こんな状況は大したことじゃないのかもね。

しばらく話し込んでいると、誰かが僕の袖を引く。

目を向けた、そこにいたのは。


「あれ、どったの? りぜっち」


 困ったように目を右往左往させるりぜっちだった。


「あ、その、級長。実は、折り入ってご相談がありまして」


「相談?」


「はい。実は、教導部隊の者が、一名行方不明でして。ついで、と言っては彼に失礼なのですが。クシお姉様の所在確認と並行して、彼を探してきてくれませんか?」


「いいよ、おっけー。で、そいつの名前は?」


「ありがとうございます! 彼は、ダルタスという名の〈ヒューマン〉の〈守護戦士〉の青年です。レベルは50台前半で、装備は製作級の金属鎧で、装備可能なレベル帯のものではもっとも性能のよいものだったかと思います」


「おーすげー、相変わらず記憶力抜群だなーりぜっち!」


「ひぇっ!? い、いえ、そんな、これくらい、出来て当然と申しますかっ」


 ちょっと大袈裟に誉めたら、何故か顔を赤くして慌てて弁明するりせちー。


「謙遜すんなって、胸張っていいんだよ? イマドキJKでそこまで知恵者とか貴重過ぎる人材だからね!」


「な、何故それをっ?!」


「ユタぼんが教えてくれました」


「うぐぐ・・・あんにゃろう・・・!」


「今ならみんなにネタバレしてもバカにはされないっしょ。むしろ今まで以上の敬意を向けてもらえるかもよ?」


 からかい気味にそう言った僕を無視して、りせちーはユタぼんに念話を掛けながらギルドキャッスルに戻っていく。


「ちょっとユタ! アンタなんで私の事を級長にバラしたのよ?! ・・・えっ、マジで? ううっ・・・そういう事情なら、まあ、仕方ないか。あ、級長! 先程の件、よろしくお願いします! では後程!」


 ・・・今思ったけど、この頼み事って念話でも出来たんじゃないだろうか?

まあ、りぜっちは真面目で律儀な子だから、面と向かって頼むのが礼儀だと思っての行動だろうし、ツッコまないようにしとこう。


「ふうん、いい子じゃねえの。あれが七羽目か、さぞかしメンバーも心強いだろうな」


「自慢の娘です」


「なんで級長が得意気になってるだかしん」


「いつもの事」


 ほわい夫妻が戻り、〈変人窟〉をあとにした僕らは、いよいよ街の外へと繰り出した。

早速見つけた低級モンスターに戦闘を


「ストップ級長、いきなり戦闘は待て」


 仕掛けようとするのをほわいにソッコー止められる。


「むー、なんだよー!」


特技スキルとか使うのに、コマンド入れながらになるだろ?」


 それがどしたのさ?


「ゲームの時ならそれでも問題なかったけど、今はリアタイだろ?」


 む、確かに。


「ん。敵もリアタイで襲ってくるから、間に合わない事もあるかも」


 ・・・ああー、だよなあ。


「えっ!? それ、マズくねーだ?!」


「私や島田さんみたいな後衛ならまだいいけど、先生やほわいさんは死活問題じゃないですか!?」


「どないしはるのん? 級長」


 しずこはんに問い掛けられ、少し考えた後、結論を吐き出す。


「そこはほれ、KIAIとKONJOで切り抜けるのが〈冒険者〉ってもんだろっ!」


「あとはYARIKURI次第」


 僕とひびきの言葉で沈黙するほわい達。

しばらくして、溜息混じりにほわいが頷く。


「・・・はあ、言うと思った。ま、何とかしてみますかー」


「そやねぇ。今のうちから慣れとかんと、後がしんどくなるもんなぁ」


「頭の中で選択して発動すれば、特技の方は問題ないかもですね」


「お、さすがなか邑ちゃん。頭のタービン回りまくりだなーや」


「そんじゃ、いっちょやりますかっ!」


 僕の掛け声に、全員が身構えて応えた。

そして、


「〈アンカー・ハウル〉!」


 ほわいのタウンティングと共に、それぞれが自分の役割を果たすために動き出した。

以下、蛇足


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「はあ・・・」


「どうかしたのですか、リーゼさん」


「あ、高山さん。実は級長の事で、少々」


「・・・ああ、分かります。実を言うと、私もそうなのです」


「高山さんもですの?」


「ええ。頭では分かっているつもりなのですが、如何せんどうにも」


「・・・ですわよね」


「「クシ先輩(お姉様)に似すぎてますよね・・・」」


「髪の長さで見分けられるはずなのですが、顔とあの飄々とした態度のせいか、クシ先輩と話している錯覚に陥るのですよ」


「メイン職業と種族も被っていますからね。せめて、髪以外に見分けるポイントがあればいいのですが」


「簡単に見分けられるでしょう? 何故なら、シナくんは両手槍がメイン武器だし、泣きボクロがあるのですから」


「っ!?」


「・・・ミロード。いきなり会話に参加するのはやめろと言っているじゃないですか」


「ああ、そうだったね。驚かせて済まない」


「い、いえ、だ、いじょうぶ、ですわっ」


「・・・しかし、泣きボクロですか。確かに、シナ先輩の右目尻の下に、ありますね。すっかり忘れていました」


「さ、流石はミロードですわ! そんな細かい違いで見分けるだなんて!」


「ははは、買いかぶりだよ。彼とわたしは同類なので、それのおかげで二人を区別出来ているだけさ」


「同類?」


「ああ、そういう事ですか。確かにその一点では、ミロードとシナ先輩は似通っていますね」


「どういう事ですの?」


厨二クーゲルのような表現をするならば、〈先走る好奇心〉(ワクテカマインド)、というところかな」


「「・・・なんでわざわざ厨二風に言うんですか」」


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


〈神祇官〉なのに両手槍!? の理由は次回以降に明らかになるかと。

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