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9.宿探し

 ということで、怪しい店主と別れ、もうすでにお腹も減りすぎで鳴らなくなった空腹を満たすため、いい匂いのする方へ歩いて行った。

 何軒か見て回る。時間も時間なんで酒場が多かったのと相場を見る為だ。

 うう、匂いに負けてそこに座り込みそうになる。類も隆も黙々と店を探す。不満気な私を除けて討議の結果、店が決まったみたいだ。少し戻り一軒の店に入る。やっと食べれる!

 メニューがなんだかわかんないので、適当に金額を見ながら注文する。


 *


 来た! 野菜炒めと餃子のような物がまず来た。私達は無言で食べはじめる。どうやらこの国は中華っぽいのか、この店だけかはわからないけど、中華料理っぽいものをドンドンと詰め込んで行く。

 皆は、お腹空いてたんだあの子達って目で見てくるけど、関係ない。お腹減ってるんだもん!

 あ、宿。


「ねえ、宿にご飯ついてるんじゃないの?」


 私の質問に食事のペースが落ちてきた隆が答えた。


「いや、最低限の金額聞いただろ? ご飯はついてないと思うようよ」

「さっきの集団見ただろ? あれと魔馬車じゃあ、比べ物にならないだろ? 貧富の差が激しそうだし。この飯だって」

「あ……」


 そうだジュンさんが出してくれた食事とは雲泥の差だ。それでも周りの人達が裕福ってわけでもない。


 *


 ふー。お腹いっぱいだ! 幸せ。これだけで幸せになれる。今までの自分の生活と比べる気にもならない。

 なくなって人ははじめて幸せに気づく。なんて感じの歌詞を見た事あるけど、本当にそう思う。つくづく。

 一人じゃなくて良かった。まあ、一人じゃあ、来なかったけど。


 *


 ご飯を食べて店を出る。今度は宿探しをする。


「お風呂! 寝床は文句言わないからお風呂ー!」


 私の注文を軸に宿探しがはじまる。この際三人部屋でも構わない。わざわざ言わなかったけど。本当に三人で良かった。一人だけだとそれもちょっと怖い。異世界だし。最初に寝てる時に運ばれたのが恐怖になっている。

 はじめは安そうな宿へ。雑魚寝で三百だと言われた。これがあの男の人が言ってた最低な宿ってことか確かに私にはそれは無理だ。

 類達もすぐにそう判断して別の宿屋へ。

 ここは港町だけあって、泊まりの客が多いんだろう、宿屋が多い。

 次は……高っ! 二千と言われた。十倍近くもする。確かにさっきとは雰囲気が違ってる。上品な感じだ。

 宿を出てすぐ隣を見ると


「あっ!」


 私の指差した物を見て類が言う。


「魔馬車か。この階級なんだな、魔馬車」


 そこは魔馬車置き場になっている。遅めの客の魔馬車を止めるために灯りがついて気がついた。


「貧富の差、凄いあるね。」

「だな。急ごう、泊まるとこなくなるぞ!」


 隆の言葉に急ぎ足になる。



 次々覗くがちょうどいい宿がなかなかない。貧富の差激しいよ。

 次に入った宿屋で類が声をかける。


「すみません。空いてますか?」


 そう。さっきから類がいろいろ聞くだけ聞いて満室だった宿ばかりだった。


「ええ、空いてますよ。三名様一室でよろしいですか?」


 雑魚寝じゃない!


「あのシャワーはありますか?」


 どうやらお風呂の習慣はないらしく、話が通じなかった。変なとこ異世界!


「ええ。お部屋にありますよ」


 よしっ! あとは金額……。


「いくらですか?」


 幾分緊張した類が尋ねる。


「お一人様七百ペギーです」


 よしっ!来た!


「じゃあ、ここで、いいよな?」


 類が振り返り私達に聞く。うん、うん。とすぐに頷く。足が棒のようだよ。二人と違って私は運動苦手なんだ! 早く足を休めたい。


「では二千百ペギー先払いでお願いします」


 類は支払う。私たちは番号の入った鍵を渡される。


「では二階に部屋はございますので、ごゆっくり」


 なんか宿屋の人の変な笑み。

 ……なんか勘違いされてる? ここ大丈夫?


 *


 部屋を見つけ中に入る。良かった。普通? の部屋だと思う。もう布団は出して、畳んでる。

 あれ? なぜもう三組? 魔法かな? ってか、押入れってないのに布団って、どう片付けるんだろ。変な心配をする。

 あーシャワー!


「私先にシャワーを浴びてきていい?」

「あ、ああ」

「うん。どうぞ」


 *


 脱ぎながら、あ、着替えない。どうしよう資金的にはどうなんだろう。さっきのように簡単に高価な物を売れるならいいけど……。まだ贅沢はダメだね。

 シャワーを浴びる。うー湯船に浸かりたいとこだけど、これでもいいや! あー石鹸とかはないんだ。いちいちこちらの文化に腹を立てる。




 幸せ。けど、またこれに着替えるんだ。シャンプーしてないし、ヤバイ私? 類も隆もそうなのが救いだけど。


「ごめん。お待たせ!」


 二人は何か話してたらしい。


「次は俺の番!」


 順番は決めてたようだ隆は気にしてない。

 類がシャワー室に消える。


「石鹸もシャンプーもないんだよ!洗った感ないよ」

「備え付けがないのか別の物を使ってるのか、わかんないね」

「ねー。いちいち困るよ」

「アリスってそんなに文句言う子だったんだ」


 隆は笑いながら言う。違うもん。ここがこの異世界がそうさせるんだ。


「違う! 誰でも言うよ!」

「そうだね。異世界なんだし」


 隆は冷静に言う。しみじみ異世界なんて言われると実感する。


「あ、そうだ。明日のこと話してたんだけど」

「ああ、そのこと話してたの?」

「うん。明日は身動き取れないだろ? 札ないから。制服いくらで売れるか他の店で見てもらおうと思って」


 ああ、そう言えばご飯の店を探す時、質屋っぽい店を見つけてたもんね。そうだよね。あの服屋の店主怪しいし。


「あとは物価を見るついでにいるもの調達しとこうと思って」

「だね」


 私は髪を触り言う。シャンプーいる! やっぱりいる!

 だいたいの物価は日本円の丁度三分の一だと思われる。この四百万ペギーは約一千二百万円……すごい。あの水菊がどれだけ高価な品かわかった。でも、それを服屋に渡しても一人分足りない。服屋の怪しい顔が浮かぶ。ボラれた?

  それにしてもいろいろ買いたいしなあ。




「アリス、札のお金もいるし宿屋も毎日いるしご飯も外食になる。だからさっきロイリの店に売れるだけ売るってのも限界があるかもしれないし……」


 私の様子で私の願望が出たんだろう。


「わかってるよ。多少のというか不便は承知してるよ。こうやって三人部屋だし、着替えないけど大丈夫!」

「うん。そうだね」


 ご飯を食べながら宿屋の件で揉めた。三人部屋はちょっとと二人が言うのを制して、不安だし三人がいいと言った。

 お金もあるけど、この異世界で類達と離れるなんて怖い。


「何の話?」


 類がもう出てきた。シャンプーもないし石鹸もない、湯船もないんだから長風呂にはならないか。


「お金だよ。シャンプーも石鹸もないのはなって、類それぐらいならいいよね?」


 隆が類に聞いてくれる。


「え? ああ、石鹸みたいなのあったぞ! シャンプーって感じなのはなかったけど、石鹸っぽいので髪も洗えたぞ!」

「なんて? どこにあったの?」


 私は立ち上がり類について中に入る。


「ここ」


 類が指差す方には何だかわかんないものがと思っていた壺があった。中身は塩のようだった。なので使わなかったんだけど……。


「あの中の塩みたいなの?」

「ああ、塩みたいだったんだけど手にとってこすると泡立ったよ。試しに腕を洗ったんだけどそんな凄い泡じゃないけど、洗ったって感じだったよ。で、頭も洗ったんだ」


 類に近づき匂いを嗅ぐ。本当湯上りの匂いだ。


「えー! また入る!!」


 類から離れて言った。


「先に隆に入らせてやれよ」

「う、うん」

「じゃあ、先に入るね」


 隆が入れるように先に出る。ドアを閉めて隆が消える。

 石鹸? みたいなのあって良かったけど、今の私臭いよー。


「なあ、隆どこまで話した?」

「明日物価見がてら、必要な物を調達するって話だけだよ」


 類の問いに答えつつもう石鹸もシャンプーもいらないか……えー髪バサバサにならない?

 気になったので類の髪を触る。


「な、なんだよ。急に!」


 類は珍しく頬を赤くしてる。耳も真っ赤だ。


「だって……髪に使うの不安なんだもん」

「ああ、大丈夫だよ。俺も普段はシャンプーだけじゃないけど、あれだけでいつもと変わりないぞ」

「ふーん。意外に気にしてるんだ髪」

「そ、そういう訳じゃ! とにかく、ここら辺の店を見るのと例のロイリの店の売値も見てみよう。同じのばかりだと需要がなくなって安くなるのも嫌だしな。乾燥してるけど原型に近かったから何がいい値段かを見てみよう」


 類もいろいろ考えてたんだ。やっぱりあと一人分と生活費稼がないとね。


「わかった。ところであの服屋信じられる?」


 ジュンさんやあの男、人がよさそうな人達でさえお金なんだ。いかにも的なあの店主は信じられない。


「わからないけど、誰かの札を見てみよう。偽物買わされたら、それだけじゃ済まないしな」

「うん。そうだよね」


 偽物を門番に見せたらそれこそ巳国に送られる! 巳国はここより荒れてるんだ、嫌だよ。魔力も無いのに頑張ってやってるのにこれ以上大変になるなんて。だいたいあのケンタウロスの言ってたこの国を見て回る事が出来ないし。

 ケンタウロス! 宝玉二個渡す前に札をくれたらいいのに! あの馬め!


 *


 私が心の中で悪態をついてる間に類が布団を敷きはじめた。

 私も類に倣って敷く。

 あ、どうしよ。仲良く三人並んじゃった。私が困っていると、類は二つ並べた布団を端へもう一つの私の布団をもう一方の端へと狭い部屋いっぱいいっぱいに寄せている。類は部屋を見渡すけれど何もない。

 そこへ隆が出てきた。


「あ」

「いいよ。そんなに寄せなくて。これからこういうの続くだろうし。気にしないで。私二度目のシャワー入ってきます。あ、そだ」

「え? 何?」


 私は隆の髪も調べる。類より背が低いから立ってても手が届く。


「アリス例の石鹸髪に使えるか調べてるんだ」

「ああ、なるほど」

「じゃあ、入るね」


 二人の髪触りに納得して、またシャワー室へ。

 今度こそサッパリしたい!


 *


 やっぱり着替えいるよ。さっきの石鹸でサッパリしたからか余計に気持ち悪いよ。

 髪を拭きながらシャワー室をでる。ああ、ドライヤーっぽいのがあるのにやっぱり使えない。きっと魔法で動くんだろうな。あーもー本当に魔法の国の王様が魔力なしってどうなの?


 *


 もうクタクタ。早く寝たい。昨日は途中から地面だったし。布団が誘惑してくるよー。まぶたも閉じてくる。


「あーもう私限界だよー。寝るねー」

「あ、ああ」

「うん」


 ん? 何時の間にか二人とも布団の上にいる。隆はニコニコ私の横で笑ってる。類は不機嫌そうに大切にしまっていたお金を布団の下に入れてる。

 ジュンさんの影響だろう。だけど、意味ないよ。類。わかってるだろうけどね。あの樽のように、寝てる間に浮かされるよ。魔力のない私達には防御出来ない。無力が身に染みる。




 ケンタウロス本当に魔力のない人間が王になって上手く行くの?



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